追跡
サーバー泥棒は須藤ではないかという話だった。サーバーを置いている場所に最近情報開示の請求が来ていたらしい。理由は俺のパルスキャノンにあるらしい。ジョウ曰く、俺の腕に移植されたパルスキャノンは実体と電子データがセットでユニークなアイテムであり、電子データそのものにも資産価値がある。軍用兵器であり、情報開示の理由になる。
パルスキャノンの性質を知っているのは須藤くらいのもので、今も連絡がつかない。
「そういうわけで、かなり須藤が怪しい」
「怪しいというかほぼクロだな」
「で、もっとやばいことに、警察にパルスキャノンの存在がバレてるから、ハルトが今結構ヤバいんだ」
「えっ」
それは非常に困る。かなりまずい。捕まるとパルスキャノンを没収とか、そういう話ではなく、解体されてしまう。
かかないはずの冷や汗が背中に流れた気がした。
「協力してくれるなら、隠れ家を用意してやってもいい」
協力要請というか、これは逆にジョウに助けてもらわねば、俺の生きる道はない気がした。
「わかった。協力しよう」
須藤の店の前で待つこと数分、ピックアップトラックがやってきた。
「よろしくハルト。久しぶりだな」
運転席にいるのは知らない女性型サイボーグだ。
「アンジュだよ」
助手席に乗り込みながらジョウがいう。
そうか。アンジュか。といってもゲームでどんな見た目だったかほとんど覚えていない。かろうじて覚えているのは、結構年齢がいった見た目だったというところくらいか。目の前のアンジュは普通の若い女性型サイボーグだ。
後部座席に乗り込むとすぐに発進した。
あてはあるのかと聞くと、目星はついているとのことだった。
なんでも、政府が作る仮想現実で、フルスペックのAIデータを集めているらしく、数十年の長期間に渡り運用された旧フルダイブゲームのデータを提供した場合、高い報酬が貰えるということだ。重要禁止事項として規制をかけまくったため、実際に運用されたAIデータは驚くほど少ないらしい。挙句の果てに闇で運用されていたデータも受け入れ始めたのだ。
ノスタルジアのプレイヤー間でも話題になり、サーバーを提供し、残ったプレイヤーで山分けするなどの案が出たが、ほとんどのプレイヤーが反対したため実現しなかったらしい。
「で、その話に賛成だった須藤が、俺に軍用兵器を移植して、サーバーの場所を調べたってことか」
「その通り。だから須藤は募集をかけてた政府の施設に向かっているはずだ。というかもう着いてると思うから、そいつで何とか奪い返すんだ」
そう言うと俺のパルスキャノンを指差した。
「マジか。思ってたより大事にするんだな」
「ここまで来るとそれしかない」
本気の顔でジョウが言った。
その政府の施設というのが、大阪側の第2棟の5階層にある。第1棟との連絡橋が第4階層にある。渡るだけならIDチェックは不要だが、5階層に上がるにはIDチェックが必要だ。俺も野良サイボーグになってから第1棟も第2棟も5階層以上に上がったことはない。
サイボーグはネットワークでチェックされるので、偽造IDなどは使えない。
「5層まで行けないんじゃないか。俺たちまともなサイボーグ1人もいないじゃないか」
当然の疑問がわいたのでふたりに聞く。
「IDチェックゲートを突破する。車両スロープの出口にあるが、ゲート自体は追突防止でクルマで突っ込めば簡単に突破できる。警察が来るまでに須藤に追いつけばいい」
作戦とも呼べない、単純な強行突破だった。目星の場所が違ったらどうするのか。
「そんなもの考えてもしょうがない。どうせ俺たち後がないのさ。最後だからヤケクソだ。俺とアンジュはそろそろ稼働限界だし、お前も逮捕されて解体されるだろう?最後は好きなことやらなきゃな」
そう言われるとたさかにそうだ。急すぎて実感がないが、ジョウ一味の協力がなければ俺に生きるすべはない。それにしても、これが好きなことなのか。
「ノスタルジアは俺たちにとって全てだよ。こちらの世界なんかもうどうでもいいのさ」
どこか投げやりにジョウがいう。アンジュもふんふんと頷いているようだ。サーバー盗難はさぞかし大事件だっのだろう。
連絡橋に差し掛かった。久しぶりに海を見た。状況にそぐわず、穏やかなよい天気の海だった。
まもなく第2棟に入る。車両用スロープで5階層まで行くと、スロープ出口からしばらく進んだところにIDチェックゲートがある。
6機あるゲートのうち、1番右のゲートのみ有人ゲートだった。サイボーグの男がゲートの脇で端末を操作してIDチェックをしている。
「サイボーグだな。運がいい。あいつを拉致してしまおう」
ジョウがひどく物騒なことを言うが、俺たちにとってそれが一番いいことは俺にもわかった。
ゲートに入る。男が運転席のアンジュにIDの提示を求めている間に、俺が後部座席から降り、男の後ろに立つ。右手はパルス銃に変形している。
「大人しく車に乗れ。騒がなければ殺さない」
男の頭にパルス銃を突きつけ、男にのみ聞こえるように耳元で囁いた。
「ああ、なんだお前」
状況が分かっていない男。どうすべきか。ここで戦闘になると早く追手がかかる。
するっとアンジュが運転席から手を伸ばし、スタンガンのようなものを男の胸ぐらに押し当てた。
「ぐうっ!!」
男が呻き、どさりとその場に倒れた。俺はすぐに担ぎ上げて荷台へ乗せた。
「大丈夫、気絶しているだけだ」
車を発進させアンジュが言う。
「よし、行くぞ。5分もかからずに着く。これならすぐ通報されないだろう」
ジョウが自分に言い聞かせるように言った。
5分後、件の施設に到着した。第1棟のほぼ反対側、大阪側廃虚に近いエリアだ。よくある2階建てビルだった。最も、1階層の高さ的に、2階建て以上の建物はないのだが。
「須藤のトラックがある。当たりだったみたいだな」
駐車場を見回してジョウが言う。
車を止めてジョウと、アンジュが降りる。俺はビルの正面を見張る。
2人が須藤のトラックの荷台へ近寄り、アンジュが何かの工具で荷台の鍵を破壊する。中を確認しジョウが親指を立てた。
ちょうどその時、ビルの2階から須藤と職員数名が出てきた。
「急げ!ジョウ!」
俺は左腕をパルスキャノンに変形させ、ビルの階段を撃ち抜く。爆裂音が轟き、階段が崩れた。須藤が飛び降りて向かってくる。
「くらえ、須藤!」
再びパルスキャノンが光り、須藤の足が爆散した。
それを見た職員がビルへ戻る。間違いなく通報されるが皆殺しにするわけにもいかない。
俺は須藤のところまで走り、パルス銃を頭に突きつけた。
「殺されたくなければ車の鍵を渡せ!」
須藤は大人しくポケットから鍵を出す。
俺は須藤の手から鍵をむしり取ると、ドアの解除スイッチと電源ONのボタンを押す。須藤のトラックのスライドドアが開き、起動音が鳴る。
「ナイス!ハルト!」
運転席と助手席にアンジュとジョウが乗り込み、少し遅れて荷台に俺が飛び乗った。
「時間との勝負だ。このまま廃虚棟を抜けて大阪へ上陸する。ハルトは荷台でサーバーを見張ってくれ」
了解、と短くジョウへ答え、手近なアシストグリップを握った。
トラックはまだ静かな街をタイヤを鳴らし駆け出した。




