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サザンクロス防衛戦

 目が覚める。4時か5時くらいだろうか。

 部屋の中は冷え切っており、息を吐くと白かった。夜明けとともに戦闘開始の予定だった。

 外へ出ると、中央広場の焚き火の周りにはすでに大勢の冒険者が集まっていた。焚き火に鍋がくべられており、スープが振る舞われていた。

 一つ受け取り口をつける。塩気の効いたスープに肉の塊が入っていた。明け方は特に寒く、温かいスープが身体に染み渡った。ような気がした。


 広場を見渡すと、カガミはすでに起きていたようだ。傍にはサキとマルコスがいた。

「おはよう」

 3人に話しかける。

「おはよう、ハルト。よく眠れたか」

 サキが言った。

「カガミに防衛戦の事を話してたんだ。ハルトも改めて聞いとけ。初戦だから不安だろう?」

 うむ、と頷き、改めてレクチャーを受けた。何度も聞いた内容だが、直前に聞くと気合の入り方が違う。

 

 そして夜が明けた。開戦の鐘が鳴り響く。

 各チーム城壁の上の持ち場について、魔人の襲来に備えた。

 ハナビシとヨシダがやってきた。よろしく、と短い挨拶を交わした。透き通った朝日で照らし出された地平線の向こうに、魔人と思われる黒い影が見えた。

 

 地平を埋め尽くす魔人の群れだ。思っていたよりもはるかに多い。開戦から3時間ほど経過し、日も昇っていた。

 魔人たちはこちらの魔法が届かないかなり遠方に陣を敷いていた。もっとも、魔人にはそれほど知恵がない。ヨシダ曰く魔人も魔獣も知能的にはほとんど変わらないとのことだ。

 魔人を率いるリーダー魔人は特定の行動パターンに従い行動する。サイボーグというか、ほとんどロボットだ。魔人はリーダー魔人に従いやすくできているため、魔人の群れもパターンに従って動く。だいたい100匹ほどいるリーダー魔人を倒すと魔人は散り散りになり逃げていくようだ。それを3度繰り返せば勝利となる。

 しかし、壁の上には100人の熟練プレーヤーがいるのだ、正直何もしなくとも勝利は固いだろう。俺も昨夜目的は果たしたので、急に気が抜けてしまった。専ら考えるのはカガミのことだ。3月4日にジョウから回路を返してもらったあと、再びゲームに戻ってきて、カガミを故郷まで送っていこう。

 魔人の群れを見つめるカガミの後ろ姿を眺め、暫しぼんやりとした。

 そのとき、カガミが振り返り静かに叫んだ。

「動いた!!」

 遠く魔人の群れが咆哮をあげる。雪煙を上げて怒涛のごとく押し寄せてきた。

 城壁の最南端から眩い光弾が放たれた。魔人の群れの足元に着弾すると爆炎を上げて魔人の群れを飲み込む。

 恐るべき威力の光弾だった。燃え上がる魔人をハルトたちが認識した直後に、間髪入れず城壁から光弾が放たれる。魔人は城壁に全く近寄れず、ただただ数を減らすだけだった。


 やることなさそうだな、と思った。ロクサイのいる南端チームは予想以上に強力で、完全に敵を圧倒していた。

 稀にプレイヤーチームが攻撃できない生身の魔人を含む集団が接近することもあったが、現地冒険者の光弾や放った矢によって、城壁にたどり着くことなく果てていった。


 そういうわけで、第一弾は本当に何もやることがなかった。

 サキ聞くと、ロクサイチームが燃料切れにならなければ、だいたいいつもこんな感じらしい。ただ、今の一戦でほぼほぼ打ち果たしているらしく、連続で襲撃があると混戦となるらしい。


「何もすることがないな」

 マルコスに話しかけた。

「そうですね。去年もこんな感じでした」

 去年は1日おきに昼の時間帯に敵襲があったそうだ。ロクサイチームの充電時間が十分にあったので、特に危険は感じなかったとのこと。

「ロクサイさんの魔法は別格です。魔大陸でしか習得できない光弾よりも強力な魔法を使っているそうです」

 マルコス曰く、魔大陸の都市でしか習得できない魔法やスキルがあるとのことだ。人間軍が魔大陸に攻め込んだその昔には、いくつかの都市を支配下におき、特殊な魔法、スキルを習得したプレイヤーがいるようだ。


 そうそう次の襲撃はないだろうということで、チームメンバーで交互に下に降り飯を食うことにした。

 あまり戦力にならなそうな俺とカガミがまず城壁を降りた。定食屋はすべて解放されており、席に着くとすぐに飯が出てくる。なるべく急いで飯をかき込んだ。

「サザンクロスの戦士は流石だな」

 カガミがいう。確かに強力だ。

「そうたな。この調子だと無事防衛できそうだ」

 そして、俺はカガミを村に送り届けるのだ。

 カガミの顔を見つめる。久しぶりにこの半年は長い半年だった。それに楽しかった。ゲームにログインしっぱなしだったという特殊さもあったが、アランやドロン、それにこのカガミがいたからだ。

 やむを得ず始めたゲームだったが、ずっと続けていたくなる魅力がある。なぜ規制されているのかが身をもって分かった。現実の灰色の日々と比べて、こちらの世界は色がある。何かが起こっている。たとえそれが仕組まれたイベントであったとしてもだ。

「どうした?ハルト」

「いや、なんでもない」

 定食屋を後にして、俺たちは城壁へ戻った。


「戻りましたか、ハルト。動きがありそうです」

 マルコスが敵陣を見ながら言う。つい先ほど撤退したはずだったが、隊列を組み直し、再攻撃の準備を整えているようだ。

「ちとまずいか」

 サキがつぶやく。襲撃間隔が長いときは、魔人の群れは散り散りになったままだ。隊列を組み直したということは、まもなく次の襲撃が来ることを意味する。


 予想の通り、第二波はまもなく始まった。ロクサイチームは最初こそ強烈な光弾を放ったが、それまでだった。魔人は城壁に取り付き、いよいよ俺たちのチームも攻撃に入った。

光弾(スピキュール)!!!」

 カガミの光弾が城壁に沿って魔人の群れを薙ぐ。

「やるじゃんカガミ」

 驚くヨシダ。ハナビシもサキもマルコスもカガミを称賛する。俺はというと、コンセントレイトで弓を放つ。当たったり当たらなかったりするが、何とか戦力にはなっている、はずだ。


 混戦となり、サザンクロスはすっかり包囲されつつあった。

 ロクサイチームの攻撃は、敵の防御魔法を関係なく撃破できるのだが、ほかのチームは正直そこまでの魔法はない。みんなおそらく光弾(スピキュール)を主体で戦っている。しかし、それでは魔人の水壁や氷壁で防がれてしまうのだ。間髪入れずに攻撃すれば撃破できるのだが、数は敵のほうが多い。防御の魔法を主に使う魔人がいると、なかなか撃破できずに撃破のぺースが落ちる。魔力は有限だ。これはまずいんじゃないかと俺が思い始めたとき、ヨシダが立ち上がった。

「打って出るわ。援護してくれ」

 okとサキが親指を立てる。ヨシダは別のチームの仲間にも声をかけ、総勢3人で裏門から戦馬に乗り敵の群れに突撃した。


 ああ、三国志みたいだなと感心しているうちに、防御魔法を使う魔人たちを馬上から槍でバッタバッタとなぎ倒す。ヨシダたちには敵の光弾が浴びせられるが、ヨシダは槍で光弾を弾き飛ばす。迎撃(インターセプト)というスキルを使っているらしい。これも魔大陸産のスキルだ。


 ヨシダたちに目を奪われている、まさにその時だった。足元の城壁が轟音と共に爆裂した。

 爆発は直接の被害をチームに与えない。チームの陣は水壁で守られている。問題は足場が崩れることだ。カガミが城壁から落ちる。俺がカガミヘ手を伸ばす。間に合わない。カガミも俺も、城壁の下へと転落する。

 瞬間、視界の隅に眩い光が映り、そして俺とカガミが敵の光弾で炎上した。

「があッ!!!!」

 口から俺の叫び声のようなものが漏れた。意味のある言葉を発することも、カガミを見ることもできなかった。

 そして、視界は、完全にブラックアウトした。

 

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