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サザンクロス

 サザンクロスには既に100人程度冒険者が集まっていた。ヨシダにジョウについて確認してもらったところ、まだサザンクロスにやってきていないらしい。もともとジョウはサザンクロスを拠点にしており、他の街へは滅多に出向かないという。彼がログインすれば会えるということだった。


 サザンクロスは小さな街だが、冒険者が集まっているためか今までのどの街よりも活気がある。大陸南端の岬に築かれた防衛拠点のようだが、流氷で辺り一面雪原なので、どこからが海なのか全く分からなかった。

 ここよりさらに南に魔大陸があり、流氷により完全に繋がるのが3月1日、つまりサザンクロス防衛戦開始の日だ。

 魔大陸から魔人の群れが3日間のなかで3度襲撃をかけてきて、それを防げば防衛戦勝利となるとのことだった。

「毎年やってて、防衛戦はほぼルーチンワークだ。こちらの人数が少ないと攻めてくる人数も少なくなるから、毎年なんとかなってる」

 ヨシダはそう言うが、人の減少と共に忙しくなってきており、結構やばいのだとサキやロクサイは言ってた。

 

 サザンクロスの宿や酒場はモレナの街とほぼ変わらない値段で利用できる。ここまでの輸送コストを考えると10倍の価格でもおかしくはないが、冒険者協会や各都市の支援で割安で運営されているようだ。魔大陸との境界にあたるこの拠点が陥落すると、ジルオラ以南に人が住めなくなるので、惜しみなく支援をするというわけだ。

 その日は歩き疲れたため、皆すぐに休んだ。


 防衛戦のチュートリアルは、開始前夜に冒険者協会のサザンクロス支部で開かれる。それまではあまりやることがない。城壁の補修や、物資の補充は1年前の防衛戦直後から計画的に実施され、すでに完璧であるようだ。大体の流れもヨシダから説明は受けていた。基本的に籠城戦で、決められた布陣で決められた範囲を守り切る。

 サザンクロスは二重の星型城塞であり、主に外側の城壁の要所要所に5〜10人のパーティを配置し、城壁に取り付く魔人を迎撃していく。城壁南端には魔法の練度が高いプレイヤーを集結させて、押し寄せる魔人の数を減らす。

 重要なのは3回の戦いの間隔だそうだ。いつ来るかわからないが、間隔が長ければ魔力の回復や城壁の応急処置ができるが、短ければそういった時間が取れない。


 他の冒険者は皆酒場で酒を飲んでいた。全身サイボーグも酒を飲むのかというと、もちろん飲む。サイボーグが酒を飲まなければ酒が売れなくなるからだ。

 緊張感のある戦いというよりは祭りといったほうがしっくりくる気がした。確かにこのくらいでないと50年もやっていられないだろう。

 一方、生身の冒険者はそうでもない。彼らにとっては生きるか死ぬかの戦いであるので、装備の点検などを繰り返し、落ち着かない様子だった。


 戦いの場をよく見ておこうと城壁の上に登るとカガミがいた。

「まだ目当ての人は来ないのか」

「ああ、まだ来ていないようだ。待つしかないな」

 そうか、とカガミはつぶやいた。やはりカガミも落ち着かない様子だ。それからしばらく、2人ではるか南の氷の地平を眺めた。


 ジョウが現れたのは防衛戦開始前夜のチュートリアル時だった。

「おいハルト、ジョウが来たぜ」

 チュートリアルの場でヨシダが声をかけてくれた。冒険者協会側の席を指さし、あいつがジョウだという。ジョウはよくある汎用サイボーグのフェイスベースの若い見た目の男だった。

「来いよ。紹介してやる」

 吉田に連れられジョウの前へいく。

「おいジョウ、こいつハルト。今年始めた新規。お前のこと探してたんだって」

「ハルトだ。後で少し時間を取って欲しい」

 ジョウ俺のことをじっと見た。見覚えないなあと言う感じだった。

「いいよ。俺ジョウ。よろしく。チュートリアルで説明があるから、それ終わったらでいい?」

 それでいいと言い、元の席に戻る。案外フランクな奴だった。何とかなりそうな気がしてきた。ヨシダにも礼を言っておいた。

「よかったねハルト」

 待ち人に会えたことを感じ取り、カガミが声をかけてきた。

 

 チュートリアルはほとんど上の空だった。ヨシダから聞いた説明とほぼ同じことを協会の担当が話していた。ジョウは始めに少し挨拶しただけだった。カガミは熱心に聞いていた。

 チーム分けがあったが、カガミと俺はヨシダのチームに入れてもらうことにした。サザンクロスに来たときのメンバーから、ロクサイだけ外れたメンバー構成だった。

 ロクサイは城壁南端のチームに入るようだった。彼女は魔法練度が非常に高く、毎年南端チームらしい。


 チュートリアルが終わった。俺はジョウのところへ行った。

「シリアスな話?」

 ジョウ聞いてきた。

「結構シリアスだ」

「よし、場所変えよう」


 俺はジョウに連れられて、冒険者協会支部の近くの小さい酒場に入った。

「話は寿命回路のことなんだ」

 俺が話すとすぐ、ジョウは感づいたようだった。

「うーん、なんとなく察した」

「話が早くて助かる。須藤を知っていると思うが、最近あいつからあなたに移植された回路は俺のものなんだ」

「そうか。で、返してほしいと」

「そういうことだ」

 なるほどねえ、とジョウが呟く。

 少し考えている素振りだったので、俺はもう少し詳しく俺自身のことと、須藤のビルであったことを話した。

 

「わかった。返すよ。須藤はそんな変なやつじゃないと思ってたんだがな」

 ジョウが言った。須藤とはそこそこ長い付き合いであり、昔はこのゲームも一緒にプレイしていたらしい。しかし盗品であれば返さなければならないのは当然ということだった。ジョウがまともな奴で助かった。

「3月4日正午に須藤のビルの前で待ち合わせしよう。須藤には俺から言っておく。あいつからも一応事情は聞きたいしな」

「3月4日だな。わかった」

 サザンクロス防衛戦が終わるのが3月3日だ。4日を指定しているのは防衛戦をやりきりたいからだろう。ジョウも被害者みたいなものなので、そのくらいの猶予はあってしかるべきだろう。ジョウの機嫌を損ねたくもなかったので、言う通りに従った。


 

 俺のこのゲームでの目的は達した。ログアウトして部屋で寝ていてもよいのだが、カガミのことは気になる。俺もサザンクロス防衛戦に参加し、その勝利を一区切りとしよう。


 酒場から出ると、カガミがいた。

「ハルト、これからどうするんだ?」

 俺の様子から何かを感じ取っていたのだろうか。彼女のカンは当たっていて、俺の目的は魔人討伐でも冒険者としてのランクアップでもない。

「どうするもなにも、明日から防衛戦だ。魔人と戦うのさ」

 俺は平静を装った。

「そうか……そうだな。一緒に頑張ろうね」

「ああ、頑張ろう」

 そして、ふと俺は今言うべきような気がしてカガミに告げた。

「カガミ、俺、防衛戦が終わったら故郷に帰るよ」

 カガミは少し驚いた顔をした。一拍間が空いた。

「なんとなくそんな気はしてた」

「カガミはどうするんだ?」

 そうだな、と、カガミは空を見た。

「私も村に帰るよ」

「そうか。じゃあ村まで送らせてくれ」

「それは頼もしいな」

 カガミそう言って少し寂しそうに微笑んだ。

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