幻の都
カガミ曰く村の皆が元気で暮らしているのかは気になるが、自分で村を訪れるのはもう少し冒険者としての成果があってからでないといけないということらしい。
モレナの街の反応ではcランク冒険者は冒険者としてはベテランで、成果としては十分なような気もするが、カガミにとってはそうでないようだ。
しばらく歩くと村があった。村というより、隠れ里という感じだった。別に隠れているわけではないのだろうが。
狩りから帰ってきたのか、狩りの準備をしているのか、村にはちらほら人影があった。気のせいか皆俺を見ているような様子だった。
弓の手入れをしていた初老の男に話しかけた。冒険者をしていて、この村のカガミと知り合った。街の近くまで行くことがあれば様子を見て来てほしいと言われていた。というようなことを言うと、男は不思議そうに首を傾げた。
「カガミなんて子は知らんなぁ」
予想外の反応だったので驚いた。もしや最近この村に来たのかと聞くと、村がこの場所にできた30年前からここで暮らしているという。それではこの男が知らないはずはないではないか。
村の場所を間違えたのか?いやそんなはずはない。ついそこまでカガミと一緒に来ているのだ。彼女が道を間違えるはずはない。
念の為もう一件家を訪ねる。40代くらいと見える女性が出てきた。
先と同じことを聞く。カガミを知っているかと。
「あんたカガミに会ったの!?あの娘いまどうしてる?」
こちらは予想通りの反応で胸を撫で下ろす。今もモレナやメルドーシュで冒険者をやっているよと適当に話しておく。
女性はそうかそうかと頷き、俺を部屋へ招き入れてくれた。話を聞くとなんとカガミの母らしい。まあ、家が5軒ほどしかないので家族には会えると思っていたが。
独特の味がするお茶が出てきて、しばらくカガミの母親と話をした。一緒に冒険していたこと、スキルや魔法を覚えたこと、順調に冒険者をやっていることなど、当たり障りのないことを話した。カガミの母親は嬉しそうに聞いていた。
カガミは猟師として1人前になろうとしていた矢先、急に冒険者になると言い出した。それで少し喧嘩別れのような形で旅立ったらしい。その後を心配していたようだ。
またカガミと会うことがあれば、いつでも帰っておいでと伝えてほしいと言付かり、家を後にした。
来た道を戻る。少し長居してしまった。日が傾き始めていた。
しばらく進むと別れたのと同じ場所にカガミがいた。木の根元にマントにくるまり座っていた。俺を見つけると立ち上がり、どうだった?と聞いてくる。そんなに気になるなら自分で行けばいいじゃないかと思ったが、その言葉は飲み込み、母親と会ったこと、元気にしていたこと、いつでも帰っておいでと言ってたことを伝えた。
「そうか、母さん元気だったか」
安堵したような嬉しそうな表情だった。
それからまた数日かけてジルオラまで戻った。気がつくと2月半ばとなっていた。サザンクロス防衛戦まで後半月。急がねばなるまい。
サザンクロスを目指すにあたって何かアドバイスはもらえないかとジルオラの冒険者協会を訪れる。
以前と違い、それなりに人がいる。センサーを通してみると皆サイボーグであることが分かった。サザンクロス防衛戦を前にプレイヤーが集まってきているのか。
ここにきて初めてプレイヤーを目にした。それも大勢。早速サザンクロスへの行き方について尋ねてみる。
「護衛を雇うのさ。魔人はもうめったに出ないから護衛1人いれば十分だろう」
護衛とについて詳しく聞くと、冒険者協会で非強化人間の高ランク冒険者を護衛として募集するらしい。生身の魔人は割合としては少ない。1割にも満たないらしいが、いざ出現するとサイボーグプレイヤーにはどうにもならないので、護衛に頼るようだ。
「ひょっとして新規?」
俺が、そうだと頷くととても驚いた様子だった。
「俺、新規プレイヤーと会うの10年ぶりくらいかも。なんでまたこんな過疎ゲーにやってきたんだよ」
「ジョウ・コバヤシというプレイヤーに会いたいんだ。知ってるか?」
男は頷く。
「ジョウは最古参のプレイヤーで、ほとんど誰でも知ってるよ。今はゲームの管理者やってるらしい。サザンクロスに行けば会えると思うよ。毎年いるし」
僥倖だ。随分ジョウに近づいてきた気がする。
男は少し離れたところにいるカガミを見て言う。
「彼女はなんだ?プレイヤーじゃないよな。サイボーグじゃないし」
「この世界の人間だよ。冒険者。俺とパーティーを組んでる」
男はまた驚いた様子だった。
「現地人とパーティー組んでるとは、特殊な遊び方やってるな。まあでも彼女がいれば護衛必要ないよな。生身の魔人も倒せるし」
現地人というあたり、このゲームの特殊さが垣間見えた。
彼の言う通りカガミがいれば魔人は倒せる。そうなのだが、いかんせん俺たちは経験が少ない。俺は半月ほど前に魔人と遭遇し、パーティーに離脱者が出たことを話した。
「まあ最初はそんなもんだ。全滅しなかっただけでも偉いもんだよ。どうだ?サザンクロスまで一緒に行くか?俺もランクで言えばA級冒険者だが」
嬉しい誘いだった。戦力は多いほうがいい。俺たちでいいのかとも思ったが、サザンクロス防衛戦の前はこうしてプレイヤー皆で固まって移動するのが普通らしい。
「まあ、あと5人くらい知り合いがいるから、そいつらも誘ってみんなで行こうぜ。あと俺はヨシダ。よろしく」
「俺はハルト。よろしく」
それからヨシダはジオンという男の強化人間とサキとハナビシとロクサイという女の強化人間を連れてきた。さらに、彼らの雇った護衛のマルコスという青年がいた。
マルコスは昨年のサザンクロス防衛戦でもヨシダ達と一緒に戦ったらしい。単にサザンクロスまでの護衛では終わらずに、そのまま防衛戦も一緒に戦うとのことだ。
「防衛戦でも生身の魔人が攻めてくるからな。サザンクロスにも生身の冒険者が一定数いないとまずいんだ」
ヨシダの話では大体毎年200人程度のプレイヤーと20人程度のこの世界の冒険者で防衛戦を戦っているようだ。
翌日にジルオラを出発し、ヨシダ達の道案内で途中2箇所の冒険者キャンプで泊まった。魔人はおろか、魔獣すら姿を見せず、ただひたすら歩くのみだった。サザンクロスに近づくにつれ、辺りは一面氷で覆われた世界になっていった。
出発して3日目の夕刻、氷の中に城壁が見えた。
ヨシダたちに続き、正面の入り口から中に入る。
「ようこそ。幻の都サザンクロスへ」
ヨシダが俺とカガミを振り返って言った。




