悪役令嬢に転生したのですが、フラグが見えるのでとりま折らせていただきます
「ジャネット、俺と婚約しよう。元々は俺の婚約者だったのだからそれが道理というものだろう?」
「はい? 殿下、それは頂けないですね。――姉さん、いや、ジャネット、僕とずっと一緒にいよう? 今までもこれからも、ずっと大好きだからさ」
「ジャネット様、出会ったそのときからお慕いしておりました。わたくしではあなたの隣は不足でしょうか?」
「僕も君のことを愛してる! 僕のことをすごいって言ってくれる優しい君が、大好きなんだよ……!」
「…………はい?」
……え、どうしてこうなった?
◇
自分って転生者だったんだ、ってことを知ったのは10歳のときだった。ある日、目覚めた瞬間に記憶が滝のように頭の中で溢れ出したのだ。
そして、それとともに自分が悪役令嬢になる予定だということも知った。
「悪役令嬢(全ルートDEATHエンド(笑))ってなんだよぉ…… マジのクソゲーでしかないじゃん、それもこのゲーム私知らないし……」
普通こういうのって、自分が好きなゲームのヒロインに転生してる!? ってやつじゃないの? どうせなら推してる乙女ゲームの世界線に転生したかったかな、なんて、目の前で憎たらしく浮かんでいるステータスらしきものを睨みつけつつひとりごちた。ふざけんなまじで。これでもオタクだったから乙女ゲーム数十本レベルでやりこんでたんだぞ、それでも知らないマイナーゲームに転生とか聞いたことないわ。
それからしばらく呆然としていると、メイドのレイラが包帯を取り替えに来ました、と救急箱片手に、ベッドの上で座り込んでいる私のもとにやってきた。
「お目覚めなさって安心しました。お怪我の具合はいかがですか?」
「怪我……?」
「お嬢様はお外で遊んでいらっしゃる際に、転んで庭石に頭をぶつけなさって今まで眠っていらしたのです。こめかみから出血していらしたので、その包帯を取り替えなければならないので、よろしいですか?」
「分かり、ました、お願いします」
……この頭の痛み、前世の記憶を取り戻した反動とか、力に目覚める前兆とかのそれっぽい理由じゃなかったのね。確かに庭石でそれはそれは派手に滑って転んで頭を打ったんだということをぼんやりと思い出してすごく恥ずかしくなった。物理かよ。穴があったら埋まりたい。
「終わりましたよ、お嬢様。お大事になさってくださいませ」
顔を手で覆って心のなかで悶えているうちに、レイラは手早く包帯を巻き終えて帰っていった。つらい。
「まぁまぁまぁ。気を取り直そう。うん。まだステータス確認してないし。チート転生って可能性もあるじゃん?」
目の前で依然として浮かんでいるステータスの板を触ってみる。……お、スワイプできる。
「えーと? ジャネット・リヴィエール10歳、役職は悪役令嬢(笑)。で、詳細?によると享年は17歳ぃ……!? うっそ、あと7年しかないってこと?」
前世は交通事故で17歳で亡くなり、今世も17歳で亡くなる予定とかどんな悪夢なんだよ。2つの人生合わせても寿命が34歳とかもはや笑うしかない。どんな薄幸の美少女だって話だ。転生モノってこう……もっとイージーモードで溺愛、逆ハー、最強チートのオンパレードじゃないの!?
「気を落とすな私。まだスクロールバー残ってるし……」
気合を入れてスクロール。……いやいやいやいや、具体的な死に方って何よ。やっぱりハードモードだわこの人生。10%の確率で溺死、20%の確率で刺し違え、70%の確率で処刑(ギロチンまたは服毒)って。どんなクソゲーでもこれはない。そもそもこれ乙女ゲームじゃありませんでした? 見た目は確かに乙女ゲーのメイン悪役ってだけあって超絶美人になりそうだけど。銀髪に吊り気味の青目の超美少女とか見た目だけなら最高だけどさぁ!
「いやいやいやいや、これは流石にひどすぎるって。もっと何かあるでしょ、ほら特殊能力とかさ! こういうのってチート能力で回避とかでしょ!? ほんとに見た目だけしかいいとこないじゃん、美人薄命ってこと!?」
さらにスクロール。そして見えたのは、特殊スキルの項目だった。
「……ってなにこれ」
ステータスボード鑑定、うん、これは分かる。今していることだろう。問題はもう一つの方だ。
「フラグ破壊レベル∞……?」
文字をタップしても詳細が出てくることもなく、できるのはその謎の9文字を見つめて首を傾げることくらい。……死に方の詳細を書くくらいならスキル説明くらいしてくれよ……っ! レベル∞ってなんだ、レベル∞って。なにこのステータス、主観的で使いにくくてだいぶ勝手な……
本当に怒りしか湧いてこない。
「お、メッセージもある。……どうせろくでもないんだろうな……」
分かっていてもまぁ、見るしかないのでまたスクロール。
「17歳で死ぬのは可哀想なのでどうせならということで同じ17歳つながりで自分が目をかけている世界の悪役令嬢に転生させました。最近娯楽の少ないご時世だったので楽しんで見ておきます。じゃあ、スキルを活用して精々死ぬまで頑張って……? by神?」
は、と乾いた笑いが漏れた。馬鹿にするのも大概にしろよ、と本気で言いたい。なにが娯楽だ、何が精々頑張れだ。なんで死ぬことが決定事項のように話してるんだよ。神だからってなんでもやっていいとかって思わないでくれ、これは倫理観に反してるだろ。って
「私の人生はゲームじゃないっての」
何が何でも生き残ってやる。死に怯えるなんてことはしてやるもんか。娯楽になんてならないような幸せな人生を送ってやる。
この瞬間、そう決めた。
◇
そして翌朝。この10歳の体はたぶん弱っちいので、昨晩はごはんだけ食べて早く寝たのだ。ちなみに倒れていたせいでそこまで美味しくもない病院食みたいなおかゆもどきが出てきた。泣きたい。それも味付けは一切なかった。とてもとても梅干しが恋しくなった。
「とりあえず探索だよねこういうのは」
やるべきことは3つ。一つはもちろんヒロインの特定。近寄らない、会ったときは友好的に、そして絶対にいじめない。悪役令嬢転生の三ヶ条だと個人的には思っている。これで処刑されたらどんな原作補正だよって話でしょ。そしてもう一つは攻略対象の方の特定。これも大事。関わるが最後罪をなすりつけられるんだよ。知ってる、定番だよね。
そしてなにより今の最優先はこれ。フラグ破壊レベル∞とかいう意味不スキルの内容特定だ。そしてこれはこの部屋の中でじっとしていても始まらない。だからこそ探索なのだ。
「よぉし」
そしてドアノブに手をかけて外に出た。頭に包帯をつけているので外で掃除をしていたメイドには目を丸くさせて驚かれたが、何も気づいていない無邪気な幼女のふりをしてぱたぱたと走って逃げた。うん、申し訳ないけど背に腹は代えられないんだ。
「……ぜんっぜん何も見つからないんだけど」
ステータスボードに関しては昨日寝る前に軽く試したところ、出てこい、消えろ、とか頭の中で意識して唱えると出したり消したりできた。なるほど、最初に出てきたのはあのムカつく神の多少のリップサービスといったところか。
と、いうことは、このフラグスキル、ステータスボードと同じでなにか発動条件があるとか? ……ん? そうだったらだいぶ無理ゲーじゃない? いやもともとそうだったけども。使えないスキルとか意味なさすぎるじゃん。
「おねーさま?」
と、毒づいていたところで後ろから鈴を転がしたような舌っ足らずの可愛らしい声が。弟だ。
「あぁ、カイル。少しお散歩に行っていたの。怪我したからそのリハビリってところよ」
ふわっふわの栗色の髪がくるくるぴょんぴょん跳ねていて、目は私よりも深い青で宝石みたいにキラキラしている。え、私の弟マジ可愛い。2歳違うだけでこうも変わるかってくらい可愛い。ショタが前の世界で人気だった理由が分かった気がする。前世を思い出す前はこの子があまりに可愛がられていてすごく嫉妬していて毛嫌いしていたみたいだけど全然そんなこと欠片も思うことなくとにかく可愛い。貢ぎたいくらい。ちょっと転生してきて良かったかもって思えたくらいに嬉しい。……ん? それにしてもなんで毛嫌いするところまでいったんだろ。
と、考えたところで一つの考えに至る。
「あー、やっぱり……」
「どうしたの、おねーさま?」
「なんでもないのよ、少し思い出したことがあっただけ」
ステータスボードを確認したら分かったことがある。思ったとおりだった。……なるほど血が繋がってなかったのか。うん納得。義理の弟だってこと知らされてなかったけど、ある日それを知っていじめに繋がって断罪ルートってところか。ありがちだね。
「おねーさまと一緒にお散歩行ってもいい?」
「もちろんいいわよ」
そう言ったところで、ピコン、と電子音が頭の中で鳴った。……え? ふと周りを見回すと、弟の頭の上に黄色いフラグが。ちっちゃい三角のカラーガードみたいなやつ。……ん? フラグ!?
つい声が出てしまいそうになったのを手で抑える。……もしかしてこれ? フラグ破壊レベル∞って……
じいっと見つめていると、フラグがぽわぽわ上下に揺れ動き、ピコン、と再び軽快な音を立てた。そして今度はステータスボードの仲間のような文字の書かれた薄い板がフラグの上に更に現れる。――え、階段から転げ落ちて全治1ヶ月の大怪我? この可愛い可愛い弟に? 大怪我? そんなのさせてたまるか。
「ちょ、カイル、動かないでね」
「ん、わかった。でもなんで?」
「なんでも。ごめんね、ちょっと待ってね」
でもこのフラグってどうやったら取り除けるの? 私が抱き上げて降りるとか? フラグ破壊っていうくらいだからなにかできるとは思うんだけど。
うーん、と腕組みで考え込むけど結論は出ず。とりあえず、フラグに触れた。そう、つんと。人差し指で軽く触れた。
「うわぉ」
すると漫画さながらのエフェクトとともに、フラグが散り散りに砕け散った。砕けたというより爆散と言ったほうが正しいかもしれない。……え、破壊って物理? 物理的に壊すってことだったの?
転生者が貰うスキルの割に常識外れで意味がわからない、役立つかもわからないスキルだな。それも物理的破壊ってゴリラかよ。
やさぐれた気持ちで心のなかで毒を吐きつつ、弟の手を取って玄関へと一緒に歩いていく。
「なんだったの、おねーさま?」
「……んーと、あーっとね、そう! 虫! 虫が頭についてたのよ!」
「なぁんだ、虫ぐらいなら自分でとったのに。でもありがと、おねーさま」
……まぁ、可愛い弟の笑顔が見れたならよしとするか。
◇
そうして色々としていればすぐに3年がたった。今日から学園に入学だ。確実にメインストーリー開始じゃんか、笑えない。というか泣きそう。
でも、この3年、様々な収穫はあった。まず一つ、攻略対象が3名は判明した。
一人は言わずもがな、私の義弟のカイル・リヴィエール。相変わらずのくるくるぴょんぴょんした可愛い栗色の癖っ毛を遊ばせつつ、色白で中性的な美少年になった。3年も経つと、肩幅ががっしりして背も伸びて男の子っぽさが増したけどそれでも可愛い。僕っ子のまま育ってくれたの本当に助かる。ほんとマジで可愛い。そしてこれは意味がわからないんだけれど、頭が良すぎて飛び級でなぜか二年も先に同時で私と入学するらしい。ゲームの補正かしら、と初めて聞いたときは乾いた笑いがちょっと漏れた。転生者の私並みに今の時点で勉強できるとか本当に意味がわからない。まあ可愛いからいいけど。
そして二人目はこの国の第一王子だった。アルベルト・クロスフォード殿下。ちなみに同い年。金髪碧眼の俺様系だった。一人はいるよね、こういうキャラ。私、格的にはやっぱり公爵令嬢なんで残念ながら親同士の口約束で既にこいつと婚約していた。もちろん丁重にお断りして破棄してきた。勝手に決めないでもらえます? 親は両方残念そうだったが、どちらかが拒否したらまぁやめとこうかくらいのノリだったらしく結構簡単に破棄できた。破滅フラグまっしぐらなのでこれは割と神対応だったと思う。そもそも個人的に俺様キャラは好きじゃないからこれからも攻略対象云々を差し引いても仲良くしたくない人ナンバー1だった。俺様は自分勝手と紙一重なのだ。うちの弟を見習え。
そして三人目。彼は今年から学園で教師として勤める予定の侯爵令息だ。ウィリアム・アークライト、22歳。年上一枚上手系イケメン。アシンメトリーに伸ばされた濃紺の髪が大人っぽさを演出してて、あ、この人は確実に攻略対象だなってステータスボードを見なくても分かった。オーラが異彩を放っていた。なぜ私がこの教師(予定)と面識があるのかというと、彼が私の家庭教師に来ていたからである。前世的に言うならアルバイトといったところか。さすが公爵家、時給がすごくいいらしい。こそっと教えてくれた。わりと茶目っ気のある人なのだ。
あと何人いるかは知らないけれど、今のところ分かっているのはこの三人。他はまぁ、いるなら学園に入ったら見つかるだろう。
そして他に分かったこと。これが一番の収穫だった。あの意味不スキル、フラグ破壊レベル∞の詳細がほとんど判明したのだ。まず、フラグは2色あるらしい。初めて見たとき弟の頭に出ていた黄色。これはある程度の大きめの怪我、事件のときに現れるらしい。そしてもう一つが赤色。これは生死に関わるような重大な何かが起こるときに現れる。これのときは本当にやばい。今まで見たのも3回程度で、一度目は通り魔、二度目は転落、三度目は殺人事件未遂。いやそれだけ死にそうな現場に出会ってるのも中々だと思われるかもしれないが、この世界中々に治安が悪い。前世のしょっちゅう人が死ぬ某探偵ものの少年漫画のあの町と張るくらいには、というのは言いすぎかもしれないがそのくらいには治安が悪い。今回の主題ではないので割愛するけれど、とにかく追い剥ぎ、強盗、襲撃、暗殺待ったなしの犯罪のオンパレードなのである。乙女ゲームの世界のくせにファンシーな世界観じゃないのよね。
はぁー、と大きくため息をつきつつ伸びをして部屋を出る。外には私を待っているのであろうカイルの姿が。普通に立っているだけで絵になるの本当に神だわ。眼福眼福、なんて心の内で呟き駆け寄る。
「姉さん! そろそろ行く?」
「そうね、カイル。ちゃんと荷物持った?」
「もちろん。姉さんこそ大丈夫? いつもそそっかしいから心配なんだけど」
「弟に心配されるほどじゃないってば。ちゃんと持ってるわよ。じゃあ、行きましょうか」
さぁいざ戦いの場へ。気合を入れるためにぺちんと両頬を叩いたら弟に、もぉ、そんなことしたら傷ついちゃうでしょ!と頬を膨らませて言われた。可愛い、好き。
◇
それからごたごたしているうちに、入学から早くも半年が経った。普通に課題も授業も多いし、やっぱり学生は楽じゃないなと思わされる半年間だった。
ちなみにヒロインと残りの攻略対象も発見した。ヒロインはリリィ・オズワール男爵令嬢。ステータスを見なくても分かった、キラキラエフェクトが見えそうなくらいヒロイン感が強い激かわガールだった。話しかけたら「ずっと前から話してみたかったんですっ!」とにこにこ笑顔で手を握ってくれた。うーんかわいい。優勝。
攻略対象はあと一人だけだったらしい。これから増える可能性はなくもないが、一旦は全部で4人だということにしている。
「……噂をすれば、か」
しゅっ、とかひゅっ、とかいう素振りの音。ふらふらしているうちに彼を見つけてしまったらしい。中庭になんて行かなきゃよかったな、なんて言っても後の祭りだ。うーん辛い。
「あ! ジャネット様!」
向こうも気づいたらしく、ぽいっと木刀を置いて彼は私の方に駆けてきた。……全然来ないでいただいていいんですけれど。攻略キャラに関わると死亡フラグ立つんで。なんて思っていても仕方がないのでとりあえずお淑やかに手を振り返す。偉いぞ私。
「ご機嫌よう、オズワルト様。稽古をしていらしたところに邪魔をしてしまいましたね」
「そんなことないよ、久しぶりだもん! 最近全然会わないから寂しかったし!」
「そう言っていただけると嬉しいですね」
……まぁ会わないように避けてましたからね。むしろ私は会いたくなかったよ。私じゃなくてリリィ様に絡みに行きな? 私は弟以外ノーセンキューな悪役令嬢予定のモブなので。
「もうっ、お世辞じゃないって。 それに、家名じゃなくてアリステアって呼んでって言ったのに!」
「すみません、異性をそのように下の名前で呼ぶ機会が少ないので……」
このワンコ系騎士志望からどうやって自然に離れようなどと考えていると、ピコンピコンピコンピコンと連続して電子音が鳴った。フラグの通知だ。妙にうるさいな、と彼の方を見れば、頭の上に黒いフラグが。
「えっ、黒?」
「黒? 何が黒いの?」
「あっ、すいません独り言です」
……うん、やっぱり黒い。なんならおどろおどろしい黒霧のエフェクトまでついてる。なによこれ。初めて見たんですけど。赤通り越してどす黒いフラグとか絶対厄介じゃんかこれ。
まぁ危険なことが分かっていても見たくなるのが人というもので、それは私もそうだった。……まー、このままじゃ絶対彼も危ないしね! いくら避けたい相手だからといってこれから割と危ない目に合うということが分かっているのに放っておくのは流石に寝覚めが悪いしね。ということで内容を見る。
……ほぉ? 重大イベント? これはもしかしなくても乙女ゲー関係のやつだ。続きに書いてあったのはこうだ、ヒロインが条件を満たした場合、アリステア・オズワルトは聖女の祈りにより一命を取り留める。条件を満たさなかった場合、このあと招集される討伐任務で皆を庇って亡くなる。…………いやどんな乙女ゲームだよ。攻略対象をイベントで殺していくってとんだバッドエンドだな。フラレるとかじゃないのかよ。これを見る限り私のデッドエンド(予定)も全然標準だったのかもしれない。まじふざけんな運営連中。
「すみません、オズワルト様。髪にゴミがついていらっしゃるのでしゃがんでいただけませんか?」
「うん」
こんな重大そうなフラグも折れるのかな、まぁ∞って書いてあったからできそうだけども、とそれを鷲掴めば、やっぱり手の中で粉々に砕けた。バリン、と鈍い音がしたので間違いない。すごいなフラグ破壊∞。イベントすら壊せちゃうのね。まあこれでもう大丈夫だろう。今までフラグ破壊した人でフラグ通りのことになった人は知っている限りではいなかった。
「取れました」
「ほんと? ありがとっ」
では、用事があるので……とそこですすっとお暇させていただいた。向こうで別の騎士候補生が彼を呼んでいたのでちょうどいい感じで別れられた。グッジョブ、誰か知らないけど。
◇
その後も定期的にイベントは現れた。一人一回、数ヶ月に一回ずつ。流石に放っておくのも寝覚めが悪いし、特に弟は私の命に代えても守ってあげたい人ナンバーワンだから必死で折った。粉々にした。
そういえばイベント起こってるけど、ヒロインはどうしているのかしらと探ってみたら別のモブと仲良くしていらっしゃった。侯爵令息の三男らしい。お相手もまんざらでもなさそうで青春していた。なんでだよ。いいけどさ。幸せそうでほっこりはしたし。応援もしてるし、なんなら相談にも乗っている。ヒロインちゃんというだけあって本当に可愛くて素敵な子だから幸せになってほしい。
そんなこんなで奔走しているうちに2年生の進級パーティがあと数日でやってくる。時は早いね。
エスコートは弟に頼んであるので問題ない。断罪ぼっちにはなり得ない。そう安心しきっていると事件は起きた。
……なんでうちに攻略対象が勢揃いしてるんです……? いや弟は置いておいて、他の3人おかしくない……? 王子に騎士に先生に、あなたたちここにいたら駄目でしょ。
「揃いも揃ってどうされたんですか?」
「ジャネットにエスコートはどうするか聞こうと思ってな。よければ俺が……」
「……エスコート……? カイルに頼もうかと思っておりますが……」
「義弟にか……!?」
ということでここで冒頭に戻る。
「っ、ジャネット、俺と婚約しよう。エスコートも俺がしよう。元々は俺の婚約者だったのだからそれが道理というものだろう?」
「はい? 殿下、それは頂けないですね。――姉さん、いや、ジャネット、僕とずっと一緒にいよう? 今までもこれからも、ずっと大好きだからさ。元々エスコートも僕がする予定だったし、今更変える必要ないよ」
「ジャネット様、出会ったそのときからお慕いしておりました。わたくしではあなたの隣は不足でしょうか? どうかエスコートを任せてくださいませんか?」
「僕も君のことを愛してる! 僕のことをすごいって言ってくれる優しい君が、大好きなんだよ……! お願い、君のエスコートは僕に任せて?」
「…………はい?」
エスコート、と言っていたっけ。どうして婚約とかいう話になるんだ、とつい眉間にシワを寄せてしまった。……あぁ、確かにこの2年の進級式は婚約するのに最適だと言われる時期だった。だから基本的に家族以外でエスコートを頼んだ相手が婚約者と見なされるとかいう面倒くさい風習があったな、そういえば。だから弟に頼んで…………あ、血が繋がってないからよく考えたらグレーゾーンなのか。
「あの、」
「誰にするんだ、勿論俺だよな?」
「僕だよね、姉さん?」
「わたくしでしょう?」
「僕にしてよ……!」
そこでピコンと、もはや慣れ親しんだ通知音が鳴った。すると問答無用で目の前にステータスボードが出てくる。
……ん? フラグ破壊∞の説明? 今更?
…………フラグ破壊∞は不幸な出来事をフラグに触れることで回避させることができるスキルです。このスキルはフラグを破壊する毎にその出来事の重大さに相当するだけの好感度が相手に加算されます…………?
なんで今更言うんだよあのクソ野郎(神)。今更すぎるよ。命を救うレベルのフラグ破壊してるんだからそりゃこうなるよね、納得はした。受け入れられてはいないけど。
「なにそれ先に言ってよ…………」
本当にどうしてくれよう。目の前で私に迫る4人を見て、私は大きくため息をついた。
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