8話
「あなた、ここで何してるの?」
それは懐疑的視線を送るユーリシア。
ふと足元を見るとそこにはタマモがいた。
『あるじ〜探したの〜』
そしてタマモは抱きついてきて俺の顔をペロペロ舐めた。
一応歯磨きは毎日してやってるが、それでもさっき食ったブルのステーキのせいで肉臭い。
「お母様!何もされてない?」
彼女は聖女レイシアに駆け寄ると、身の回りに異常がないか心配しだす。
「ふふふ、ユーリは心配さんね」
盲目の彼女はおそらくユーリシアがいるところに手を当てて頬を撫でるとにっこりと。
(お邪魔ものはたいさーん!)
と俺は流れに便乗して部屋を出ようとすると、
「待ってくれる?
お名前聞いてもいい?」
俺はレイシアの声に引き留められて、適当に偽名でも名乗ろうとすると。
「彼は護衛の依頼受けてるB級冒険者の黒剣のベルゼよ」
少し冷淡な言い方だが、俺の代わりにペラペラ喋ろうとする彼女を一発殴ってやりたかった。
まあどうせ滞在するから嫌でも知られるだろう。
「そう……
ベルゼね……」
「はん、そうだよあんたらが倒した魔龍王から名前をとった。
俺から世界を救うなんてバカバカしいからな!」
すると明らかにその隣から怒気を感じる。
「やっぱり!
不吉な名前だって思ったらそういう理由だったのね!
やっぱり、あんたみたいなやつ私の護衛に必要ないわ!」
「へん!上等だよ。
俺は世間知らずな箱入り娘の相手するほど暇じゃねーんだ!
俺だってこんなとこで油売るぐらいだったら……」
もう場の空気は最悪だった。
だがその空気を壊すように、「ふふふ」と笑い声が聞こえる。
「何が面白いんだよ」
少し声に殺気を込めてしまった。
だがそんなこともレイシアにはのらりくらり全く通じない。
「ちょっと昔話いいかしら?」
それから聖女レイシアは淡々と昔のことについて喋り始める。
それは自分が生まれた時のこと、聖女の力に目覚めてしまったこと。
大半が勇者シリウスと出会ったことの惚気話だが、それでも喋ってる彼女は終始笑顔だった。
「それでね、ユーリがお腹に入ってる時は幸せだったわ。
その時目が見えなくなってしまったけど無事に生まれたの」
ん?そこで少し疑問に思った。
ここではあくまでユーリシアォ気遣って一人しか生まれてない感じで言っている。
だが以前俺らが考察した際は双子の可能性が示唆されていた。
だけど彼女の言い分だと最初から一人だったみたいな。
「ん?レイシアさん。
ユーリシアって一人っ子なんですか?」
「ん?そうよ?
でもね、女の子ならユーリシア、男の子ならユリウスってつけるつもりだったわ」
ユリウスね……それが本当の俺の名前だったか。
「でもなぁベルゼ君もきっといい子だってわかるわ。
ユリウスは旦那のシリウスに似てクールだけど私に似て童顔な部分もある。
きっとベルゼ君もそんな可愛い見た目なんでしょうね?」
「へ!残念だったな!
俺はよく周りから悪魔って言われるぜ」
「そう?」
すると俺とレイシアのやり取りを聞いていたユーリシアはため息を吐いて、
「お母様、そいつのいう通り、こいつの顔は悪人みたいな面よ」
まあ悪人は言い過ぎだろ、ん?だよな?
でも驚いた。
まさか彼女が考察したユリウスの顔はまさしく俺がしばらく戻ってはいない本当の姿だ。
まあでもあれはあれで厄病神な容姿だったから、特に女に相手にされない今がベストだ。
「ふふふ、ベルゼ君はそんな悪魔みたいな人じゃないと思うの。
きっと、根は優しい子。
ご両親が立派な方だったのね!」
その最後の一言に俺はぶっつん来てしまった。
「あんたに何がわかる?」
俺はバシっと勢いよくドアを閉めるとそそくさと部屋を後にしてしまった。
すると待ちなさいよ!とユーリシアが追いかけてくる姿がある。
「あなた、いくらなんでもお母様に無礼よ!」
「あっそ、でもなぁあっちから地雷踏んできたんだ」
「あなた何言ってるの?
お母様は特に悪いことは言ってない」
「俺は孤児だったんだ!」
つい強めで言ってしまったが、でも同時に誰かに知って欲しいそんな気持ちがあった。
「孤児って……」
「それに俺はその村じゃ奴隷扱いだった。
まだガキなのに女の相手もさせられて心身共に最悪だったよ。
そんなんで人や世界を救いたいって気持ち湧いてくるか?」
ユーリシアは黙った。
俺は今初めて他人に今のことを打ち明けてしまう。
ちょっと後悔したけれど、それでも。
きっと、俺の兄妹かもしれない人に打ち明けたかったんだと思う。
するとポロポロとしたに雫が落ちる。
ふと上の方を見ると、涙を流すユーリシアの姿があった。
「ごめんなさい、ごめんなさい。
私あなたがそんな目に遭っていたなんて知らなくて……」
「あーもう!
気にする必要なんかねーよ!
第一、俺はその他と家族って言えるような人たちに出会ったし、何より俺には相棒のタマモがいる。
別に赤の他人のあんたらが気にする必要なんてねーよ」
突き放すような言い方だったが、他人に同情されるなんてもってのほかだ。
俺には真の家族って呼べる人たちはいないけど、だけどそれでも前を向こうとしていた。
「ねえベルゼ」
「あんだよ?」
するとユーリシアの方を見ると、ドキッとした。
その夕日に照らされた金と銀の輝く髪はいっそうと輝きを見せていた。
そしてそこに涙ながら微笑む姿は、女神って言うのか?
言い過ぎかもしれないが、彼女に神聖さを感じてしまう。
***
「それでユーリ、話ってなんだい?」
夜既に暗く、最近流行りの魔灯という灯りに照らされながら親子が対面していた。
「ベルゼに護衛の依頼正式にお願いしようと思うの」
「へー、何か心境の変化でもあったのかな?」
シリウスは嬉しかった。
自身の才能の壁にぶつかってそれ以上進めない彼女。
彼女の身を守って欲しいって意味で護衛をつけることにしたが、実は。
本当は彼女に外で活躍する人たちの姿を見せて何かきっかけにして欲しかった。
それでたまたま、尊敬する闘王兄弟の剛剣の弟子と呼ばれるベルゼの噂を聞き入れ、彼に依頼するって無理をしたお願いをギルドにしたけれど、
それでも歳の近い彼らなら上手くやれると思った。
だけど救世主として期待がかかってしまったユーリシアは殺伐としてしまい、これまでも依頼に来た冒険者たちを叩きのめす始末。
そのたびにマスターたちへ謝罪にいくのが大変だった。
正直ベルゼ君には最後の望みだったかもしれない。
ユーリシアはもうすぐ魔神討伐に向けて旅に出ないといけない。
それは険しい旅だろう。
きっと魔龍王を倒しただけに僕らでは到達できない強大な存在。
そして学園にはちょうどユーリシアのお供候補である3人がいるのだが、また彼女たちも問題を抱えていた。
きっとベルゼならやり遂げてくれそうな。
彼の皮肉だがなんだかんだお人好しなところは見ただけでわかった。
彼に救われたという冒険者たちからも彼は絶大な支持がある。
(いっそ彼が仲間になってくれたら……)
「まあわかったよ。
正式にベルゼ君に依頼する。
あとはこっちで手続きするから、ユーリはもう寝なさい」
「ありがとう!お父様!」
こうして夜は吹ける。
さて俺は、灰狼の感剣を複数召喚して屋敷にあちこちに設置。
まああとは寝よう。
何か知らせがあれば剣が教えてくれる。
まあ面倒なことがなければいいけれど。
こうして俺のA級に向けての依頼活動は幕を開けたのだった




