4話
それはある冒険者についてだ。
ファルタジア王国都市部、とある冒険者の噂がある。
それは黒い尾が9つある狐を従魔にして、いつのまにかどこからか黒い剣を取り出し戦う姿から彼は黒剣と呼ばれる。
その有り余る筋力は誰しも、オーガが人になったんじゃないかと言った。
だがその風貌を知る者は誰しもが言う、まるで悪魔だと。
あれから5年経つ。
俺が町を出てからそれだけが経った。
変化といえば特に思いつかないが、多分この一帯の魔物はあらかた狩り尽くした。
だけど、別に魔剣の種類が増えたわけではない。
第一、魔神の影響で魔物が活性化したとはいえそれはあくまでその上位種が生まれたってだけ。
でも幼少期狩ったゴブリンジェネラルを最後にあまり強い魔物と出会う機会はなかった。
それでも俺は着実にランクを上げて今ではBランクだ。
Aに上がるためには依頼はもちろん、上級貴族の推薦が必要になる。
それだけ功績がないと認められないってことだ。
そして俺はあの都市から離れた小貴族が納める別の町で拠点を築いていた。
「ベルゼさん、今日は来ていただきありがとうございます」
と、既に馴染みのあるこのギルド職員とその隣にはこの町のギルドマスターがいた。
「それで、マスターたちはどのようなご用件で?」
「ああ、それなんだが君を推薦してくれる貴族様は見つかった。」
ついにか、と思い肝心の資料を見せてもらう。
「ブレイブル勇爵家!?
って、勇者の家じゃないっすか!
なぜ勇者が俺に?」
「ああ、それなんだが剛剣のアラモスどのの推薦でね。
彼がギルドの定例会に訪れた際、君のことを自慢していたそうだ。
それに実績あるし、何より君はまだ15歳だ。
おそらくだが、ご令嬢の護衛だろうね。」
ちょっと微妙な気持ちだった。
ブレイブル勇爵家はおそらく俺の血縁で実父の家系だ。
この国でも建国から存在していて、とてもじゃないが俺のことを知らないはずの勇者が俺を選ぶとは。
「つーことは、その令嬢は確か学園生でしたね。
潜り込みやすいように俺も学生やれと?」
「そ、早い話それだよ。
ご令嬢はかの救世主だ。
学園でもいつどこで狙われるかわからないし、何より護衛は常に教室外で待機だ。
とてもじゃないが年取った冒険者には任せられないってことだろうね。」
「はん、だったらお断りだ。
第一令嬢の命狙う組織ってやばい奴らなんだろ?
俺はごめんだね!」
俺はあれから魔神に関することを調べた。
すると、魔神を崇拝する魔神教なる組織があると聞いて、しかもその勢力はS級冒険者や勇者シリウスに匹敵する奴らだとか。
ぶっちゃけ実力はついてきたがそんな危険な橋は渡るつもりはない。
ぶっちゃけ俺は世界が滅ぼうがどうでもいいから。
するとギルドマスターたちがニヤニヤ企むような笑みを浮かべ、
「あれ〜?かの黒剣殿は怖気ついたんですか?
あ、そういえば黒剣といえば相棒の従魔頼りで特に戦いもしない弱小者だったねぇ?」
「あ?」
俺のこめかみに血管が浮き出る。
まあ確かに俺は殲滅専門の冒険者で、タマモばかり頼ってる。
だけどなぁ?
俺は既に劣等種だが亜竜を倒してるんだぞ?
「いいぜ、やってやろうじゃねーか!」
「ふひひ……」
二人はこそこそやった感出して笑っているが、俺は怒りに身を任せてサインの書き、
バギッと強化ガラス性のペンを握り砕く。
「ひっ!」と悲鳴が聞こえたが、俺は執務室のドアをバゴっと閉じて、どすどすギルドの出口へ向かう。
「よ!黒剣!」
すると俺に声をかけるやつがいた。
「あ?……あー、アビスか。すまねーな今虫の居所悪くて。」
「ああ、そりゃーいつものことだしな。
それよりお前さん学園の方向かうんだろ?」
「あ?盗み聞きしてたんかよ!」
こいつはB級で俺とよく仕事する冒険者だ。
だが特異能力を持っているようで、それで生まれつき耳がいい。
「あー悪い悪い。
それよりよお前さんの耳に入れたくてな?」
「ん?なんだよ。
勿体ぶらず言えよな?」
「ああ、実は既に英雄令嬢の護衛依頼に向かった冒険者がいたんだが、みんなもれなく叩き出されたって話だ。」
「あ?俺もそうなるってか?」
「まあ、相手も腕っぷしに実力あるみてーで生半可なやつは頭のてっぺんハゲにして返すそうだぜ?
まあお前さんはどーだか知らんが、俺は帰ってくる方に賭ける。」
「てーめら賭け事の対象にするきか?
んでてめーがなんで否定的なんだよ!」
「はは、そりゃ相手は紛いなりに貴族様だぜ?
ベルゼ、お前さんじゃ馬合わなくて帰ってくるだろうな、それもキレて。」
「さいですか……
まあー、そりゃ会ってみないとわかんねーけどよ!」
「そうだな!
ああ、それと学生の情報いるか?」
「ん?いくらだ?」
「いや今回はタダでやるよ、何せ以前助けられたしな。」
「まあそれならいいけどよ、んで?」
「ああ、実は今回英雄令嬢の他に英雄候補って言われてる少女が3人いるとか。」
「ん?候補ってことはAランク相当なのか?」
「いやそうとは限らない。
まあわかってることは、剣聖の娘に賢者の孫。
さらに1000年に一度の天才って言われる魔女っ子がいるらしいぜ?」
「ふーん、まあ別にやることは変わんねーし、まあ気に食わなきゃ一発殴って帰ってくるよ。」
「いやそりゃお尋ね者だろうが……いやあり得そう」
「おい」
こうして俺は町を後にした。
ちなみにアビスは俺がよくパーティを組む密偵の専門で、
でも以前ヘマした際にこっそり治しておいた。
まああいつには、上位ポーション使ったって嘘ついたしな。
上位ポーション一つで白金貨五枚はくだらねーし。
まあ他の英雄候補ってのは気になるが、何より実の両親ともしかしたら妹か姉かもしれないやつの護衛か……
もう、関わることはないって思ってたがなんの因果かね。
まあどうせ生意気なやつならそもそも俺は関わる気はしない。
俺は宿から荷物を全てバックに詰めて引き払うと、一応仮の別れをこの町の奴らにした。
結構世話になったが、まあ今生の別れではない。
と言っても、もう5年経つのか……
俺は結局アラモスたちの住む町には帰っていない。
別れたばかりだから会いに行くのが恥ずかしかったってのもあるが。
でも今の俺はあいつらに会うには胸を張れる生き方をしていなかった。
俺はたかが実の家族にがっかりしただけで、彼らとのつながりも怖くなった。
まあそれでもアラモスのやつがギルドとより持ってくれたのはありがたかった。
そして町を離れた俺が、学園のあるあの都市に向かって足を進めた。




