第4話 姉弟の記憶(前編)
「…え?」
それを聞いた僕は耳を疑ったよ。
そりゃそうだろう。僕は今までに姉が居たという話は
聞いていないのだから。
「…あ!どっかで見た顔だと思ったらそういう事か!」
やっと合点がいった。
僕には女城先輩と叶音の顔が全く同じに
見えていたのだ。道理で既視感があった訳だ。
確かに目の色と髪型を除けば似たような容姿をしてる。
確かにそう言えなくも無い。
「でも苗字は?君はアンジョウだけど
先輩はメジロでしょ?」
「確かにそうだけど…あ、それを漢字にしてみたら?」
「漢字…」
ただ苗字は違う。読みに繋がりそうな部分なんてない。
それを話してみると、叶音は少し考えてからそう言う。
僕は言われるがままに、二人の苗字を脳内で
文字起こしする。
「あんじょう…めじろ…アンジョウ…メジロ…
安城…女城…あ!
似てる!!でも…うかんむり(宀)は?」
分かった。二人の苗字はそれぞれ安城と女城。
確かに似た漢字。でもなんで「宀」が抜けてるんだ…?
「僕の推測だけど…あの日、火事があった日に
姉ちゃんの名前を示す物の
そこだけが焦げたんじゃないかな?」
「なるほど、そういう事か。有り得なくもないね。
…叶音?」
簡単に推理してみせた叶音が俯いている。
少し悩んでいたようだけど何か決心したように
話しだした。
「実は…僕の入学理由って
『姉ちゃんを探しに来た』ことなんだよね。」
「お姉さんを、探しに来た?」
話は過去にさかのぼる…
6年前、4月3日の土曜日。
突然の爆発音。
楽しかったショッピングは…
この瞬間から彼にとって人生最悪の一日に変わった。
原因不明の大爆発が、安城一家のいたショッピングモールを襲った。響き渡る悲鳴。燃え盛る炎。
全てが地獄のようだった。
「父ちゃん!!母ちゃん!!姉ちゃん!!」
安城叶音、当時7歳。
彼はその炎の中で、必死に家族を探していた。
「叶音!!こっちよ!」
「…!!姉ちゃん!!」
不意に呼び止められ、振り返ると
そこには姉がいた。
「父さんと母さんが柱の下敷きになって動けないの!」
「…!!すぐに行こう!」
二人が倒れた柱に向かうと、そこには下半身を挟まれて
動けなくなっている両親が何かを
必死に話そうとしている。
「叶音…。真由…。」
「お逃げなさい…私達はもう助からないわ…。」
二人が苦し紛れに発した言葉は…それだった。
叶音と姉…真由は少し涙を流して両親を見る。
「そんな!嫌だ!」
「叶音!!」
近づこうとした叶音を父が叱りつける。
今までに一度も叶音を叱ったことの無かった、
優しかった父親は、真剣な眼差しでそう叫んだ。
「俺と母さんより、お前達の方が大事だ!…逃げろ。」
「生きていれば、必ずいい事があるわ。
だからまずは生き延びて。」
「…」
「叶音、行きましょ。」
「…」
叶音はそう言われてしばらく黙り込んでいたが、
姉の言葉にコクリと頷いて、出口の方へと駆け出した。
出口まであと少しという所だった。
「…!!叶音!!」
「…!!」
叶音の真上の看板が落下し、
それを危ないと感じた真由が叶音を突き飛ばして
身代わりになる。
「姉ちゃん!!」
「ウゥッ…先に行って!!」
姉に強くそう言われ、叶音は一目散に走った。
泣きながら走り、出口近くに居た救急隊員に駆け寄る。
「子供がいた!念の為ストレッチャーに!」
それから入院し、叔父に引き取られるまでの話は
よく覚えていないらしい。が、この事件では一つ、
不可解な事があった。叶音以外は全員亡くなったはずの
安城一家のうち、姉の遺体は見つからなかったのだ。
その言葉を叔父から聞かされ、姉が生きているかも
という希望が持てたらしい。
そして、その日はついに訪れる。
5年後、
「叶音…ちょっと見てもらいたいものがあってな…」
「ん?なに?」
6年生の5月のある日。
ここまで叶音を育ててきた叔父が、
スマホを持って彼に話しかけてきた。
「これなんだが…」
そう言って見せられたのは、一枚の写真。
どこかの学校の校門と、そこに入っていく
一人の水色ロングヘアの女性の写真だ。
「これ、お前さんのお姉さんじゃないか?」
「…!!」
その言葉を聞いて彼は反応する。
長年会っていなかった姉らしき人物が、
そこに写っていたのだから。
「叔父さん…これ、どこの学校…?」
「たしか…夜月学園じゃないか?
この辺じゃ名門と言われてるよ。」
それを聞いて…叶音は決心した。
「叔父さん…僕、姉ちゃんに会いたい。
中学校、ここでもいいかな。」
叔父は一瞬考え込んだが、すぐに
「お前さんならそう言うと思ったよ。
少し学費が高くつくが…良いだろう。
会ってくるといいさ、お前さんの血縁だろう?」
と許可した。
「これが、僕の入学理由。」
「そっか…。いつか、再会できるといいね、
大切な家族と。」
「うん!!そのために…仕事頑張ろ!!」
「オー!!」
そんな事を話しながら、僕達ふたりは夕暮れに
赤く染まる道を歩いていった。




