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正体不明の略奪者  作者: 九月
2/2

2話 食べました

 「失礼しましたー」


 バタン。と、後ろ手にドアを閉める。少々ぞんざいな態度になってしまったが小言が多いのが悪い。


 怒られちった。定時連絡とか全部忘れてたしなぁ。それに調査も何の成果も得られなかったわけだし。それどころか蜘蛛の巣に絡まって教団の支給品も失ったし。収支マイナス。散々だ。


 だが。私個人の収支は今生(こんじょう)においての最高を更新中と言ってもいいだろう。


 「レモ。会いたいよレモ」


 誰も居ないホテルの廊下で、おかしな台詞を口ずさんでしまうのもレモのせいだ。


 ちらと時計を見るが、まだ夕食には早い時間だ。仕方がない。自室にて報告書でもまとめておくとしよう。まあ報告も何も先程上司に口頭で説明した以上のことは何も書けないのだが。とはいえ。レモのことは報告していない。私だけの秘密にするんだ。私だけの、レモ。




 秘密の日記にレモのことを11ページほど書き記した頃。夕食の時間だ。思わず舌なめずりをしてしまう。


 早速レモの部屋をノック。


 「レモいるー?アザミだよー?あけよっか、ね?まだー?だめだよレモすぐに開けてくれなきゃ」


 ノックから5秒待つことすらできずに私はガチャガチャとドアノブを回した。レモの警戒心の無さに期待したが流石に鍵が掛かっていた。偉いねレモ。


 鍵の()く音がした。くい、とドアノブが回り、ドアが(ひら)く。


 ひょこっと、レモが顔を出した。かわいいおててをドアに添えて。そっと窺うような上目遣いで。あ、麦わら帽子脱いだんだ。可愛い顔、してるね。


 あまりにも可愛いのでドアごと蹴っ飛ばすところだった。キュートアグレッションってやつ?可愛すぎるのがいけないよね。




 「はい、メニュー。好きなの頼んでいいよ」


 このホテルにあるレストランは一か所のみだ。一般客向けの一階。その(おおよ)そ中心に存在する。


 雰囲気は暗め。いや落ち着いていると言った方がいいか。でも実際照明はパッとしない。いやおしゃれなんだろうけど。けれどレモの可愛さが周りにバレちゃうくらいには明るい。もっと暗くして!




 レモでご飯三杯食べた。


 レモが持つカトラリーが(うつわ)に当たって小さく音が鳴るたび尊さを感じた。録音、したかったなあ。レモの咀嚼音。




 にわかに、店内が騒がしくなる。


 なんだ?バースデイか?プロポーズか?フラッシュモブか?


 窺ってみれば騒ぎの中心はどうやら貴族。どう見ても平民相手にプロポーズしに来たわけじゃなさそうだ。席に座っている人々がそわそわと落ち着かないのも、踊りだすのを今か今かと待ちわびているわけではないのだろう。


 目の上のたんこぶめ。護衛は、二人か。




 「俺様は(はい)れないだと?わざわざ降りてきて下民共を見に来てやったというのにか?俺様は大国ルドベキアの第三王子、タカオ様だぞ!どけ!」


 うるさいぞタカオ。レモの呼吸音が聞こえないだろ。


 レストランのウェイターがタカオ相手に頑張ってるが、奴は人の話を聞かないらしい。ずんずんと店内に侵入してきた。護衛もやれやれみたいな感じでついてくる。やれやれじゃないんだよタカオ()めろ。


 「おい俺様の席はどこだ?早く用意しろ。ああ、ついでに顔の良い女を見繕ってこい。ディナーの後には、デザートが必要だからな。そこのウェイトレス!近くに来い。俺様にメニューを読み聞かせろ。勿論スカートをたくし上げながら、だ。俺様はルドベキアの第三王子タカオ様だぞ?王族だぞ?早くしろ」


 気持ち悪い。何が王族。結局人間だろ。


 ねえレモ。なんで人間が人間に命令、出来るんだろうね。身分って誰が決めるのかな。私は私でいいのにね。どうして私じゃない誰かが私を定義するのかな。私じゃないくせにね。レモ、息苦しいよ。人工呼吸、して?





 「この国からでていけー!!くらえ、<渇焼真紅(ドライフランベルジュ)>!!」


 突如響いた声。


 子供。恐らくは10歳くらいの少年が、ナイフを宙へ放った。



 少年の手から舞い上がったのは、今までハンバーグを切り分けていたであろうナイフ。くるくると肉汁をまき散らしながら弧を描いてタカオに落ちていく。護衛の一人が動く。


 「<集点(カリドメ)>」


 <能力(スキル)>の発動。ナイフが空中で静止した。


 直後、ナイフから半径30cmの空間を爆焔が埋め尽くす。<集点>という能力によって空間ごと隔離されているようで、空気が爆ぜる音はしなかった。代わりに周囲から悲鳴と、慌ただしい靴音。


 店内にはあっという間にタカオ一味と少年。それと私とレモだけになっていた。


 いや、完全に逃げ遅れてしまった。レモが目を丸くしている様子をジッと眺めてしまっていた。可愛すぎ(ざい)で逮捕しちゃうぞ、レモ。


 「ガキこらてめぇ!!この御方は超大国ルドベキアの第三王子タカオ様だぞ!?てめぇは今、他国の王族を殺人未遂(やりそこな)ったんだぞッ!?国際問題ッ!!戦争の発端ッ!!圧倒的に我が国に有利な状況ッ!!戦犯ッ!!戦犯だッ!!」


 やってくれたなガキィ。めんどくさいことに巻き込みやがって。タカオくらいちゃんと始末してくれないと。てかそもそも王族にナイフ投げて能力まで発動なんてこのガキ頭おかしいだろ。うちのレモと大違い。月と泥団子。せいぜい磨いて光りな~?


 さて。仕事しないと。レモ、私がお仕事するところ見てて。




 「双方動かないでください。私はアルノア教団北欧支部調査委員のアザミと申します。ここから先は、アルノア教団の簡易裁判にて」


 私が言葉を紡いでいるというのに、タカオの護衛が近づいてきて、私の胸ぐらを掴みやがった。


 「おい、これはもはや国家間の問題なんだよ。宗教団体如きが出しゃばる場面じゃねーの。あんたいい年してマニュアル人間?ここは空気読んで見なかったことにしろや」


 まだ21だっつーの。


 あーあ。レモの前でこんなことしたくないけど。


 血を見なきゃ分からないか。




 レモ。目、閉じててね。

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