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一の姫の婚礼 ~「君を愛することはない」という嘘つき王子様が愛妻家になるまで~  作者: 礼(ゆき)


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8話:当事者抜きの家族会議

 第一王子のテオドルが去って後、談話はしばらく続き、イオラがそろそろお部屋に案内しますとシーラを連れて出ていくと、急に静かになった。


 静まり返った部屋の中で、第二王子ヘルマン、第三王子ニコラス、第一王女アリエル、それに王妃が、互いに目配せして、それぞれ複雑な表情で嘆息した。


「シーラ様を連れてきちゃいましたよ。王妃(母様)

「そうね、ニコラス」


 王妃は紅茶を口につけつつ、頷く。


「私は、会えて嬉しかったわ。かねがね、噂では聞いているし、例の物を針子の子に見せてもらっていたもの。どんな方なのかお目にかかってみたかったのよ」

「会った感想は?」

「素敵な方ね。淑やかで、おおらか。テオドルにはもったいないわよ。というか、テオドルに好かれちゃって、ちょっと同情するかも。

 ヘルマンはどう思うのよ」

「私は、姉として申し分ないと思うよ。舞う姿はとても美しいし、王太子が確定していないのに、よく来てくださったと思う。

 うちを不誠実だとなんだと言って、王太子が確定してからもう一度、申し出てほしいと言われても仕方ないとは思っていたからね」

「島国ムーナの立場があるもの。それはないんじゃない?」

「そうかな。島民には、うちの事情は伝えないことにすると言っていたからね。やっぱり、問題あると見られているんだよ」

「シーラ様には問題はないのよね」

「そうそう、問題なのは……」


 きらりと王妃の目が光る。


「うちの第一王子(ばかむすこ)の方よ」


 居合わせた弟妹きょうだい全員、強く頷いた。


「テオドル兄さんって、あれで、ばれてないと思っているんだよね。すごいよね……」

「メイドたちの口なんて止めようがないのにね」

「針子の子に見せてもらったんだろ」

「もとになる絵画も見たわ。隠れてこそこそしているように見えて、宮殿内の部署に依頼すれば、みんな知るところになるというのにね。そういうところが、抜けているのよね」

「自分が真面目だから、みんなも真面目だと思い違いしているんじゃないの」

「外部に委託されても、王族のおかしな趣味みたいに触れ回れて、ダメだろう」

「そうねえ、外聞悪いわよねえ」

「どちらにしろ、シーラ様の絵姿は、宮殿の誰もが見知っているんだよね」

「そうそう」

「メイドたちも、本物が見れると、きゃあきゃあ喜んでいたわよ」


 弟妹きょうだいが沈黙する。

 宮殿内で、テオドルの収集癖を知らないものはいない。ばれていないと思っているのは、本人だけだった。


 王妃が紅茶のカップを降ろしながら言った。


「あのままでは、シーラ様にテオドルが嫌われても、仕方ありません」


 弟妹きょうだいたちはテオドルの部屋を見たことはないものの、なにかにつけて、噂は聞いていたし、たまに絵画や、枕カバー、茶器などを目にする機会はあった。

 掃除を担当するメイドからは、そう言った品が飾り棚いっぱいに飾られているということも聞いている。


「普通に考えたら、嫌よね。知らないところで、自分の姿が描かれた品々が勝手に作られて、飾られているなんて……」


 アリエルがぽつりと呟く。


「そんな品に囲まれた部屋で、一緒に寝ようとはおもえないだろうなあ」

「やっぱり、ヘルマンもそう思う?」

「そりゃあね。まずは引いて、結婚はなしにしましょうと言われて、逃げられても、仕方ないよね」

「その予防線のために、王様(父様)が事前になんとかしろと言っていたんでしょう。ヘルマン兄さん」

「ニコラス。それがね、できなかったのよ」

「そうそう。折角、王様(父様)が私を引き合いに出して、このままの状態で王太子にすることはできないと言っても、手放せないでいるんだ」

「本物が傍にいるのにね」

「思い出が捨てられないのね」

「重すぎるだろ」


 ヘルマンはうんざりした顔をする。


「第二王子という立場上、王太子になるのはいいし、王太子妃としてシーラ様を迎えるのも良い。

 だが、どう転んでも、テオドル(兄さん)が面倒臭いという問題が横渡っているから嫌なんだ」

「ご愁傷様、ヘルマン」

王様(父様)も、一向に変化がないからって、私を当て馬にしないでもらいたかったよ」

「ヘルマン兄さん、頑張って」

「私は、巻き込まれただけだ。あのあほテオドル(兄さん)に!」


 再び弟妹きょうだいは沈黙する。

 ため息を吐きながらアリエルが言う。


「シーラ様にこっぴどく振られたら、ひと悶着よね」

「じゃあ、シーラ様とテオドル兄さんが仲良くなれるように手助けするの?」

「そういうのもねえ。無粋よねえ」

「そういう場をセッティングしても、自らぶっ壊しそうだよな」

「ああ、あり得そう。物凄く色々考えて、最後に失言とかして、自滅しそうよねえ」

「それを言ったら、船で一緒だったもの。もう自滅済みでも、おかしくないよね」

「自爆済み? 早すぎない? ちょっとおかしすぎよ。どうしよう、ちょっと楽しみだわ。あとで、イオラに聞いてみないと」

「度真面目がこじらしても、ろくなことがないよな」


 弟妹きょうだいはうんうんと頷き合う。

 王妃の目がキラリと光る。


「私たちにできることは限られているわ。

 アリエル、ヘルマン、ニコラス。

 シーラ様をおもてなしし、この国で暮らすことに慣れ親しんでいただくこと。私たちが心より、シーラ様を歓迎していることをお伝えし続けることだけよ」


「シーラ様は素敵な方だから、歓迎するのは簡単だよね」

「ひっかかるのは、なんでしょうもない兄の初恋に、家族全員骨を折らなくてはいけないのかってことだけだな」

「楽しいからいいんじゃない」


「ニコラスやアリエル(姉さん)なら傍観者でいられるからいいよ。私なんか、当て馬役だぞ。宴の席で、『あなたの伴侶が、もし私であったなら、あなたを生涯愛することを、ここに誓います』と言っただけで、睨まれたんだ。睨むぐらいなら、最初から、秘密の品を捨てて、シーラ様に『愛している』の一言でも言えばいいのにさ」

「素直じゃないよね、テオドル兄さんって」

「本当に、嫌な役回りだよ。私は、アクター放棄したい」


 憮然とヘルマンが言うと、アリエルが笑った。


「王様直々の勅命だから、断れないのよね」

「茶化すなよ」


 雑談とともに家族会議は終わる。

 シーラの王太子妃へ向けての教育期間、この宮殿で彼女に快適に過ごしてもらうために、家族は結託することを誓い合った。




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