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12話:気まずい昼食①

 テオドルが戻ってきては大変だと、シーラは部屋を飛び出した。

 すぐにその場から逃げ去るために、廊下を早足で歩き続ける。その間も、心臓はばくばくと鳴り響いていた。


 見てはいけないものを見た結果、合点がいかなかったことに納得ができたシーラであったが、その他大勢なのだと自覚しようとしていた矢先の新事実に、今後、テオドルとどう向き合ったらいいのか、が分からなくなる。


(好かれていないこともどこか釈然としなかったけど、あのような品を隠しているとは思わなかったわ。ああ、どうしましょう。明日から、テオドル様とどんな顔して会ったらいいの)


 嫌われていないと分かっても、不愛想な相手に気安く声をかける気にはならない。低い声で短い返事だけというのも、やっぱり怖い。


 なにより、テオドルはシーラに知られいるとは思ってもいない。

 あの部屋の様子だけでなく、本人の悩みさえも。


(テオドル様が不愛想な返事をなさるのなら、それに合わせるのがやっぱり無難? でも、あんな風に悩んでいるのに、ほっておくのも、なにか心苦しいのよね。

 だからって、慰めるような言葉も不自然だし……。

 なんで、知っているんだ、ということになりそうだもの。

 あの部屋を見たことをばらすわけにもいかないし……。

 ああ、もう。やっぱり、どんな顔をして会ったらいいか分からないわ)


 堂々巡りの悩みを抱えて、歩いていると、「シーラ様、どうしてこのような場所にいらっしゃるのですか」と声をかけられた。やっとメイドと出会うことができ、シーラはほっとする。迷ってしまった事を伝えると、部屋まで案内してくれた。明日からは、慣れるまで宮殿内を移動する際は、誰か一緒にいた方が望ましいと申し伝えておきますと、メイドは申し訳なさげに頭を垂れて、部屋を去った。


 一人きりになり、シーラはベッドに入り込む。仰向けになり、天井を見上げる。

 気持ちを落ち着かせ、見てしまったことをもう一度振り返る。


 無数の絵画に描かれた自身の姿。

 幼い頃から、去年までの絵があり、茶器には数年前の躍る姿が描かれていた。

 顔つきと衣装を見れば、いつ頃の自分かシーラも推測できる。


(クローゼットから見てしまったテオドルが抱いていた枕のような品。それに描かれた姿は衣装から見て、去年舞台で踊った時の姿よね)


 それをさも大事そうにテオドルは抱いていたのだ。

 シーラはぶるっと身震いする。


 ベッドを取り囲むようにかけられた絵画にはここ数年の成長を辿るような踊るシーラが描かれていた。


(飾られた絵画には、テオドル様が二度目に来てから去年まで描かれていたということは……。あれって、毎年、私が披露した舞う姿をどういう方法かわからないけど、こっそり記録していたということよね。ということは、よ。何年もかけて、絵画や品々を作っていたということなのよね)


 シーラは掛布をぎゅっと握り、横を向けた身体を縮こませた。


(しかも、それを王様から、捨てなさいと言われて、テオドル様は悩んでいらっしゃるのよね)


「少しだけすっきりしたとはいえ、ねえ……。あれは、ねえ……」


『あなたを愛することはない』と言い、不愛想な態度を崩さなかったテオドルは、舞台上のシーラを見つめる時と雰囲気がまったく違った。その後も、けっして目を合わせようともしなかった。物言いもぶっきらぼうで、感情もよく分からない。


 そんな態度をされたシーラは嫌われていると思った。誰に対してもああいう態度だとイオラから言われても、ただ眼中にないのだとしか考えられなかった。

 なのに、テオドルの本心は真逆。


「もう……。明日から、どんな顔をして会ったらいいのよぉ……」


 愛想よくするのも、びくびくするのも、そぐわない気がするものの、いきなり態度を軟化させるのもおかしい。相手は取り付く島もない不愛想なのだから。


(困ったわ。本当に、困ってしまうわ)


 悩みながらも、瞼は徐々に重くなりシーラはいつの間にか眠りに落ちていた。





 翌朝、イオラが迎えに来てくれてシーラは目覚めた。悶々と寝たためか、どこかスッキリしない目覚めだった。

 寝すぎていたことを謝罪すると、イオラは、疲れていらっしゃるのでしょうと気遣ってくれた。


 二人で衣装を選び、着替えてから、食堂へと向かう。昨日と同じ席に座った。アリエルもイオラと同じ服を着ていた。シーラが理由を聞くと学園の制服だ説明してくれた。ニコラスとヘルマンも男性用の制服姿であり、四人は朝食を食べ終えると学園に行くという。


 学園を卒業しているテオドルは王の仕事を手伝っており、制服を着ていなかった。今日も実務をおこなう宮庁へ赴き、公務に勤しまれるのだとイオラが教えてくれた。


 朝食を食べ終えると、王妃がシーラに話しかけた。


「今日から、シーラ様に専属の講師を招いています。

 午前は、その方と図書室で学んでください」

「はい、王妃様」

「昼はテオドルとの食事。イオラとアリエルが戻りましたら、二人と過ごし、この国について理解を深めていただければと思います。なにか、困りごとがあれば、相談していただくのも、年近い二人の方が気持ちも楽でしょう」

「お気遣いありがとうございます」

「テオドル」


 シーラへの柔らかい声音から一転し、厳しい口調で王妃はテオドルの名を呼んだ。


「はい、王妃((母様))

「昼食後、イオラとアリエルが戻るまで、シーラ様をよろしくお願いしますね」


 テオドルが眉を潜めて後、無表情に戻った。


「分かりました……」


 その提案に、シーラも内心、仰天する。


(イオラとアリエルが戻るまで、テオドル様と二人きりなんて! 辛い、辛すぎるわ。今もあんな厳めしい顔をされているのに!!)


 本音を言える立場ではないシーラは、断れずに困ってしまう。

 そんな表情を察してか、前に座っているヘルマンが声をかけてきた。


「シーラ様。お困りなら、私が学園を早退して、ご一緒しましょうか」


 ヘルマンの肩越しに見えるテオドルがぴくっと反応した。

 助け船と思っても、三人の王子越しに見える王妃様をちらりと見ると、シーラに対し軽く頭を左右に振った。

 断りなさいという無言の圧力を感じたシーラはふるふると頭部を左右に振る。


「いいえ。テオドル様が一緒にいてくださいますので……」


 大丈夫とはまったく思えないけど、とりあえず、無難な答えを言おうとして、本心を隠しきれず、語尾がかき消えた。


「そうですか、残念です。では、学園から戻り、お会いできる時を楽しみにしています。シーラ様、私も王太子候補であることを忘れないでください」

「……はい」


 にこやかなヘルマンの背後で、テオドルが憮然と食後の紅茶を飲む。


(テオドル様と一緒の食事なんて、一体どんな顔をして、何を話したらいいの)


 王妃の案に、きたばかりのシーラは逆らえない。




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