99話. さてと、あのデカブツをどう調理したものか
それから順調に飛行を続け、翌日の昼前には何とかサンローゼへとたどり着いた。
自分自身で体を動かしていないとはいえ、さすがに疲労は隠し切れない。正直なところ、既にヘロヘロだ。
それだけ飛翔するのは魔力も体力も消耗するし、下手に木に当たったり、ましてや落っこちてしまうような事態を避ける必要があった。なので、知らず知らずのうちに気疲れしていたのもあるだろう。
だが、そんな甘ったれたことを言っている場合ではない。
カンカンカンカン!
街中で鐘が鳴り響いている。
やはり既に何かが始まっているようだ。
ギルド会館に向かうにつれ、なかなか騒々しい状況になっていた。あちこちで冒険者が走り回っている。
「緊急クエスト! 緊急クエスト発生!! 厄災級の魔物が出没!! 街の全冒険者に告ぐ。今すぐに緊急クエストを受注して北西へ向かえ。参加報酬は2万クラン!!!!」
ギルド前では職員が外に出て、ひたすら同じ言葉を繰り返している。
それにしても報酬が2万とは。
かなりの大盤振る舞いだな。
カディナの鉱山に出没した『ブラッド・ベアー』の異常種の緊急クエストは確か1万だったと思う。その倍の報酬とはいえ、相手が相手だからむしろ割に合わない依頼なのかもしれない。
まあ、今はそんなことはどうでもよい。
俺もすぐに登録を済ませ、急いで現場へと向かった。
◇
前線に近づくにつれ、遠くに見える巨体が徐々にくっきりと姿を現してくる。
そうか、あれが厄災級の魔物『インペラトール・トータス』か……。
大きい。
とにかく大きい。
カメそのものの姿だが、もはやあれは山と言っても過言ではない。
近づくにつれ、だんだんとその巨大な姿の全貌が明らかになってくる。
なんてこったい。本当に岩山みたいじゃないか!
聞くところによると、普通は体長50メートルほどらしいのだが、あれはどう見てもそんなレベルではない。少なくとも倍の100メートルはあろうかという巨体だ。なるほど、確かに『異常種』なのかもしれない。
幸いにも出没地点はサンローゼの中心部からやや離れている。およそ10キロといったところか。ただし、じわじわと街に近づいている。
こんなすごい魔物を一体どうやって止めればいいのだろうか?
依頼を受けておいて申し訳ないが、ちょっと倒し方が検討もつかない。
そんなことを考えていると前線に到着した。
既に多くの冒険者が集結し、皆、それぞれ魔法を使って応戦している。
不幸中の幸い、インペラトール・トータス自体はそれほど攻撃を出す魔物ではないようだ。
だが、その巨体がちょっと歩みを進めるだけで周囲の木々がなぎ倒され、地面に巨大な穴が空く。
つまりは存在自体が凶器という訳だ。
こんな魔物が街に到達したら、建物などひとたまりもないだろう。
そんな我々の不安をよそに、インペラトール・トータスはゆっくりと前へと歩みを進める。
当然ながら、集まった冒険者ごときでその歩みを止められるはずもなく、インペラトール・トータスと一緒に移動せざるを得ない。
「皆の者、傾注せよ!」
どこかで聞いたような通る声が響く。
声のする方をみると、Aランク冒険者のエカテリーナがそこにいた。なるほど、ついにA級のお出ましか。よく見ると、同じくA級のギルディアスも一緒にいる。どちらも遺跡発掘の常設依頼で指揮を執っていた。こんなところで再会できるとは。いや、むしろ当たり前か。何と言っても街の危機なのだから。
「我が名はエカテリーナ。ギルド所属のAランク冒険者である。見ての通り、非常事態である。街の存亡に関わる緊張案件であるのは間違いない。そのことを肝に銘じて戦ってほしい。ずばりインペラトール・トータスの弱点は足だ。これから一斉攻撃を行う」
そしてギルディアスも口を開く。
「同じくギルド所属のAランク冒険者のギルディアスだ。今のエカテリーナの指示通り、我々はあの巨大な厄災級の魔物、インペラトール・トータスに向かって総攻撃を行う。狙う場所は左前脚の付け根だ。時間は3分後。我々二人の合図で集中砲火を行う。特に長距離魔法や弓が使える者は準備をすること!」
あー、なるほど。
体重が圧し掛かる脚の付け根は弱点という訳か。納得。
指示通り、俺も魔法の準備を行う。
といっても、ここですることは実は何もない。
魔力は昨晩の『魔力回復の革命』の方法で充填済みだ。
まず一発目に打ち込むのはブラッド・ベアーを倒すために開発した例の偽装ファイアー・ボール。すなわち『偽装火球・極』だ。
う~ん。
しかし、あれだな。
俺の考えでは『偽装火球・極』を一発だけ撃つのは締まらない、というか威力が足りないかもしれない……。
今の偽装ファイアー・ボール1発だけ撃つのでは地味すぎる。
そうだな……。
連続で同じ場所に向けて2射してみるか。
うん、その方がいいだろう。
さて、いよいよこの巨大亀に総攻撃を仕掛ける瞬間がやってきた。
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