88話. なるほど、これが病気の原因か
ここに来て急に流行り始めた謎の奇病。
俺の機転によって見事なまでに退けた魔物の大群も厄介だが、病気は違う意味で面倒だ。言わずもがな、場合によっては住民のほぼ全員が感染してダウンということも有りうる。
そうなれば、俺が救った街そのものが無傷でも意味はない。
だが、ギルドを含め、誰も原因を特定できないままでいた。
その間にも奇病による感染者は見る間に増加を続けており、このままではあと1週間も経たない内に街の機能が崩壊してしまうだろう。
まずは原因を突き止めなければならないが、こんな無理難題をどうやって解決すればいいのだろう。
ちょうどギルドが患者の属性や詳細について貼り紙をしていたので、まずはそれを分析してみる。
まず、患者が多い層として浮かび上がったのが次の2点。
酒を飲まない層。
そして、冒険者以外。
これらの属性に明らかに偏って感染者が集中していることに気づいたのだ。
逆に冒険者の患者はごく少ない。
う~む。これは何を意味しているのだろうか?
◇
あれっ?
やはりそうだ。
これで間違いないだろう。
俺の観察眼で何となくだが、病気の正体がぼんやりと見えてきたような気がする。
これはおそらく【水】が原因だ。
言わずもがな、冒険者は野外で活動することが多い。そうなると困るのが飲み水の問題だろう。しかし飲料水は現地で日常放水魔法を使って生成するのが一般的なのだ。ついこの前までの俺のように、わざわざ水筒を持参する奴などきわめて少ない。
だが実際のところ、日常放水魔法を使えない人間というのは意外と多くいる。例えばスタナの放水魔法を習得できる石碑ではかなり法外なお金を要求されてしまった。いくら必要性があるとはいえ、やはり習得にはそれなりにハードルが高いのだろう。とくに討伐依頼を受注しないような人にとってはなおさらだ。
また、自分が飲むくらいの量ならともかく、放水魔法はそれなりに魔力を消費する。だから、飲食店や家庭用など複数人分の生活用水を確保するには不向きだ。そうした際に重宝されているのが、街中に17ヵ所ある『井戸』である。
おそらくこれらの井戸に毒が投げ込まれた可能性が高い。
補足すると、冒険者は街の飲食店で食事を取ることも無くはないが、注文するのは『酒』であって『水』や『スープ』ではない。もちろん酒は造るのに時間がかかるから、数日前の水を使っていることなどあり得ない。
俺がこの考えに至ったのは、まさにそこだ。
さて、次にやるべきは仮説の検証だ。
さっそく井戸に行ってみよう。
円筒形のごく普通の井戸。
俺がこの世界に来るきっかけになった井戸。
まぁ、今はそんなことはどうでもよい。
水を汲んで、鑑定だ。
『鑑定』
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品目・種別:水(汚染水)
総合等級:F
素材レベル:F
特記事項:ジーガス・ツリーの木の実から抽出された毒で汚染された水。
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おおっ、ビンゴだ!
やはり毒が入った水だった。
俺の予想が正しいことが証明された瞬間だ。
原因が分かれば後は簡単。
この毒を処理するだけだ。
井戸から人が消えたタイミングで俺は円筒形の空間魔法を発動し、井戸の水を底の方から全て【カット】した。そして、次には一瞬にして放水魔法の安全な水と差し替える。あとは底から湧き出すきれいな水が何とかしてくれるだろう。念のためこの作業を数回ほど繰り返しておく。
ちなみに、この作業は空間魔法と放水魔法を融合させて使っている。こうすることで、いちいち手の平からジャーっと水を出さなくても、立体中に満たされた水を一瞬にして生成できる。多少なりとも距離があってもこの方法は有効らしい。
再び鑑定してみても、特に問題なさそうだ。
厳密には完全に解毒されていないが、人体にほぼ問題がない汚染レベルまで下がっている。
であれば、違う井戸へいこう。
こうして17ヵ所の井戸すべてをひたすら回り、1日がかりで井戸の毒をすべて消した。
これで新たな感染者は出なくなるだろう。
今はそう願うばかりだ。
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