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83話. 魔物の大量発生とは、こりゃ初めてのパターンだな

 

 さらにしばらく経ったある日。


 カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン!


 街中を歩いていたところ、突然、ギルド会館の高見櫓に備え付けられた鐘が鳴り響いた。

 これは何事だろうか?


 これまでの経験上、これは緊急事態が起きている可能性が高い。

 カディナの街での『ブラッド・ベアー』異常種の発生がまさにそれだった。

 何かよからぬことが起きているのかもしれない。


 急いで俺はギルド会館へと向かった。

 とりあえず、何が起こっているのかだけでも知りたい、そう思ったからだ。


 ギルド会館の周囲には既に多くの人々でごった返している。

 何というか、慌てふためいていると思しき人も多い。

 やはり何かが起きているようだ。


 カン、カン、カン、カン!


 まだ鐘は鳴り続けている。


 適当な二人組の男に目を付け、話を訊くことにした。

「あー、すまないが、この鐘は一体どういう意味か分かるか?」


「もちろん。ギルドはその件で持ち切りだ」


「それが魔物の大量発生らしいんだよ。あまり詳しいことはよく分かってないけどな」


「そうか、すまない」


 ……とその瞬間、ギルドのドアが開き、職員が大声で叫ぶ。


「緊急事態だ! 街に『スマート・ウルフ』の群れ【一万頭】が近づいている。繰り返す、魔物【一万頭】がサティアに向かっている。ここにギルド長が緊急事態宣言を発令する。現刻をもって、Eランク以上のすべての冒険者はギルドで『緊急招集依頼』を受注し、ドンキル大渓谷へ向かうよう要請する!!」


 なるほど。

 この追加情報で何が起きているのかようやく完全に把握した。


 それにしても、まずいことになったな。

 行く先々でこうも緊急事態が発生するとは。


 その『スマート・ウルフ』とやらが一体どういった魔物なのか知るよしもない。おそらく頭のよい狼といったところか。だから統率が取れて群れで行動しているのだろう。


 それはそうと、とにかく異様な数だ。

 なにせ一万だからな。


 思い返せば俺がこれまで戦ってきた魔物は基本1頭だけだった。だからこそ、常に1対1で戦い、そして勝利してきた。例外はカディナの鉱山で討伐した『ブラッド・ベアー』の異常種2頭。それくらいだろう。


 だが、一万という数は普通ではない。

 もはや数十、数百という数字が誤差になってしまうほど。

 これは数の暴力だろう。


 う~む。


 どうしたものか。


 正直、俺はただの旅人だから、緊急招集依頼など受けずにサンローゼへ帰ってしまうこともできる。というか、それが最も安全でベストな選択肢だ。


 しかし、俺は今、モーレツに怒っていた。


 何しろここは俺のお気に入りの街だからだ。


 もう一度言うが、俺はこの街が気に入っている。

 それこそ予定が終わっても滞在し続けているほどに。


 えっ、そんな街に危機が迫っているだって?


 非常事態だそうだから、この数は普通ではないのだろう。

 となると、また例によって異常種か……。


 ゆるせん。

 どうせまた、サルキアの連中の仕業に違いない。


 腹は既に決まっていた。


 その一万の魔物とやらを壊滅、いや、それでは生ぬるい。そうだ【殲滅】だ。一頭残らず殲滅してやる!


 すぐにギルドで登録し、現場へと向かう。


「ところで、スマート・ウルフとやらは強いのか?」

 ギルドの職員は手が空いていなかった。そこで、現場に向かう途中にいた歴戦の勇者のような風貌の冒険者に訊いてみる。


「そうだな。どちらかと言えば強い。単体ではCランク相当ってとこだ。やや手こずる程度の相手だな」


 ふむ。そんなところか。

 なら、これだけ人数がいれば何とか対処できるかも。


「だが、数十の群れとなると話は別だ。Aランクに相当する魔物に化ける。しかし何を言っても今回は一万の群れだろう。こんなんは聞いたことがない。というか、あり得ない数だ。となると、当然、Aどころじゃないだろうな。かなり控えめに見積もってもAAA(トリプルエー)ランクかSレベルが妥当ってとこだ。今回は『死』を覚悟した方がいいぞ。ま、仮に倒せなくても死が待っているがな」


 ……。


 これは予想以上の答えが返ってきたな。


 そう言えば、あまりにも興奮し過ぎて意識していなかったが、あの渓谷は『ドンキル大渓谷』と呼ぶことを今更ながら知った。


 情報では、そのドンキル大渓谷に沿った線上の草原に『スマート・ウルフ』の大群が集結している。そして速度を緩めず、まっすぐこちらに向かってきているそうだ。


「会敵まで推定15分。急げ!」

 後方から伝令が飛ぶ。


 とにかく時間がない。

 しかしこのままでは微妙に間に合わない。

 先日、行ったばかりの場所だから分かる。

 だが、それはまずい。

 どうしても群れが来る前にたどり着かなければ。


 他に冒険者が大勢いるので目立った動きはできない。

 仕方ない。


 軽めに身体強化スキルを使い、魔物の群れが襲い掛かるまでに何とか前線に到着した。


 既にサティアのギルドは街を守れるよう最終防衛ラインを設定していた。だが最終といっても、実はそこが1つしかない前線拠点になっている。言わずもがな、あまりにも魔物の侵攻が速かったため、数段階の防衛線を引く余裕がなかったためだ。


 すなわち、そこを突破されてしまえば、街はスマート・ウルフに蹂躙されるだろう。おそらくサティア全体が壊滅し、再起できるかどうかさえも分からない。


 そんな事態を目の当たりにするのは嫌だ。

 もちろん、そんなことはこの俺が許さん。

 絶許だ!


 前方の遠くにスマート・ウルフの群れが見える。

 なるほど、言うに違わず巨大な集団だ。

 誇張かと思っていた一万という数字だが、案外、本当なのかもしれないな。

 やはり一直線にこちらに向かってきているようだ。


 いかんせんサティアは森の街だ。しかし例外的に、ドンキル大渓谷に沿った崖の上の平坦な土地は大草原になっている。見たところ、スマート・ウルフは北西の方角から渓谷に沿って、我々がいる南東へ向かって一直線に草原を駆け抜けてきている。逆に言えば、森の中にはおそらく一匹たりともいないはず。


 さてと、あいつらをどう調理するか。


 我々がいる『前線』には冒険者らが大集結している。全員まとめて500人といったところか。この短時間でよく集まったと言うべきかもしれないが、正直、一万の大群を相手にするには心もとない。


 いや、ダメだ。

 この数では無謀すぎる。

 どう考えても勝ち目がない。


 まだ群れまで距離があるが、あと1分といったところか。

 もう時間がない。


 弓隊が準備を始めている。


 考えろ。

 考えるんだ。


 自分だけが助かるんではなく、街を、この冒険者たちを救える方法を。



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