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75話. 恩はすぐにでも返したい

 

 こうして俺の目論見通り、特製の『偽装火球・(きわみ)』が急所に命中したジャイアント・ボアはそのまま座り込むようにして沈黙した。


「えっ? ええ?? えええええ? 今、いったい何が起こったのですか??」


「んなっ!! たった一撃で、だと……!?」


 二人とも口をあんぐりと開いたまま棒立ちしている。


「あのー、もしもし。大丈夫ですか、お二人とも?」


「え、えぇ。大丈夫よ。今の魔法、詠唱はどうしちゃったのかしら?」

 おっと、さすがに見逃してくれなかったか。


「あー、俺は特殊体質持ちで、詠唱しなくても魔法が使えるみたいなんだ(適当)」

 ……のような体の良い言い訳で乗り切った。よくよく考えてみるとこれは紛れもない本当のこと。なので、けっして嘘では無いんだな、これが。


 それからデジャヴ感が漂うやり取りを幾度となくこなした後、手分けして俺が倒したジャイアント・ボアの素材の回収をしていく。


 特殊なファイアー・ボールは火力を押さえたため、今回はきちんとメインとなる素材が無傷で残ってくれていた。一発で倒せる火力をあらかじめ計算していたとはいえ、ちゃんと倒れてくれて何より何より。


 さて、ジャイアント・ボアで魔石を除いて最も価値がある素材は言わずもがな、大きな一対の牙である。これらは加工して様々な用途に使わるが、高価な魔道武器の修理にも使われるほど汎用性が高い。そのため、買い手がいくらでもいるといった具合の優良素材だ。間違いなく良い値段で捌けるだろう。


 もう一つ、忘れてはならないのが魔石だ。ジャイアント・ボアの体内には巨体に見合った大き目の魔石が入っていた。これがまた美しいのだ。深い赤色をしている。まるで宝石のガーネットのようだ。


 ちなみに意外なことにご立派な毛皮はほとんど利用価値がない。なぜ価値が無いのか。それは簡単なことで、毛があまりにも剛毛すぎて敷物や皮製品へ加工するのが困難を極めるからだ。それと、油分が多く含まれるせいで、油脂が染み出したり、匂ったり、虫に食われたりとデメリットが目立つという理由もある。


 今回は旅の途中ということもあって毛皮はそのまま置き去りにする。ちょっと罪悪感が残るが仕方あるまい。


 これらの作業が一段落して休憩しているとシンディーが不意に会話を始めた。


「問題は素材の配分です。私たちの目的地であるスタナの街には冒険者ギルドがありません。どうしましょう?」


「アナタが一人で倒したのだから、すべてアナタの取り分でよろしくてよ」

 フロウがありがたい提案をしてくれる。だが、俺の中では答えが既に決まっている。


「いや、素材はすべて二人のものにしてくれ。さっき水を分けてくれた礼だ」


 そう。俺はつい先ほど、のどが渇きすぎて行き倒れ寸前のところを二人に助けてもらったばかり。このまま恩返しをしないまま別れるのは気分がよくない。借りはここできっちり返しておきたい。


 ほとんどの冒険者は水魔法で飲み水を生成できる。当然、その程度の価値しかない水と強敵『ジャイアント・ボア』の素材とが釣り合うはずはないと二人から猛反対を受ける。


 しかし当の俺はというと、そこは全然気にしていない。何しろ、あの時点での飲み水はそんな素材よりもはるかに価値のある代物だったのだ。まさに俺にとっては命の水だった訳だから。


 こうして相次いで魔物と遭遇するといったアクシデントを挟みつつ、何とか無傷で目的の街『スタナ』にたどり着いた。


 前情報の通り、お世辞にも大きな街とは言えない。ノエルとユエのいる里よりも少し大きいくらいか。これは街というよりかは村の規模だな。立ち寄る旅人も少ないせいか、宿屋も1件しかない。なので、シンディーとフロウも同じ宿でチェックインと相まった。


「今日はもう日が暮れてしまいました。よければ明日は皆さんご一緒に石碑に向かいましょう」


 シンディーの提案に俺は賛成した。

 とくに断る理由は見当たらない。

 何より石碑を探す手間が省ける。


 幸いにも宿の1階は食堂になっていた。


 我々は魔物の素材回収といった道中の疲れが溜まっていた。それこそ、外に出るのがおっくうなほどに。このような状態だったので、迷うことなく、ここで遅めの夕飯を取ることになった。


「スタナといったら、やっぱりコレね! スタナ名物【ルイギョの姿煮】をお上がりな!!」


 食堂兼宿屋を営んでいる奥さんが自慢げに頼んでもいない料理を持ってきてくれた。笑顔とは正反対にかなり強引だな。だが、見るからに旨そうだ。わりと高そうな料理だが、なんと宿のサービスとして宿泊客にいつも振る舞っているらしい。神か!


 この料理、ありそうでないタイプのものだった。


 確かに見た目は普通の魚の煮つけにすぎない。だが、魚の内臓は抜き取られ、代わりに香草と肉のミンチが詰められていた。魚と肉を合わせる料理はお世辞にも一般的ではない。だが、ここでポイントなのは繋ぎとして使われている特殊な『香草』だ。これが肉と魚を仲介し、両者を違和感なく結びつけている。


 それにしても実に不思議な料理だ。宿のサービスとはいえ、宿泊客の数や時期によっては味わえない【ルイギョの姿煮】を初手で食べられたのは幸運だった。



最後まで読んで下さり誠にありがとうございます!


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