73話. お水を恵んでもらいたい
まさかの水筒に飲料水が入っていないという緊急事態が発生してしまった。もうのどの渇きが限界に差し掛かった頃、ついに前方を歩いている二人組を見つけた。果たしてこれは行幸か、はてさて災難の元か。信用できる人達であることを祈ろう。
「あのー、すいません。ちょっと喉が渇いているので、良かったら水を分けて欲しいんですが……」
前を歩いていたのは見るからに冒険者といった姿の女二人。どちらも長い剣を下げている。剣士タイプのようだ。
「水!? あぁ、放水魔法が使えないのね。それなら分けてあげる」
どうやら大柄でぶっきらぼうな女冒険者が水を分けてくれるようだ。見た目に反して親切な方で助かった。
さっそくお言葉に甘えて水をコップに、ついでに欲張って水筒にもなみなみと入れてもらう。
そして飲む。
うまい!
死ぬほどうまい。
これまでの人生で水がこんなにうまいと感じたことはない。
まさに砂漠のど真ん中でオアシスにたどり着いた遭難者のような気分を味わっていると、会話が始まった。
「アナタ、冒険者よね? 私はC級冒険者のフロウ。こっちは同じくC級のシンディーよ」
「水を分けてもらってかたじけない。非常にうまかった。俺はEランク冒険者のサイだ。よろしく頼む!」
これを聞いて、シンディーが素っとん狂な声を上げる。
「えっ、E級なんですか!! それで一人旅とはすごいです」
フロウとは全然違い、小柄で物腰が丁寧なタイプにみえる。
「そうよ。アナタ、水魔法も使えないレベルなのに一人旅だなんて、色々とすごいわ。ちょっと信じられないかも」
「あぁ、それについては確かにそうだな。一理ある。だから、これからスタナの街に行って、放水魔法を習得しようと思っている。そのための旅の途中だ」
「えぇ! 放水魔法!! なんという偶然でしょう。私たちもちょうど放水魔法を目当てにスタナへ行くところなんですよ」
「ほう。なるほど。それは本当に偶然だな。しかし、つい先ほど放水魔法を見せてもらったばかりだが……」
「同じ放水でも私たちは戦闘系魔法が欲しいのですよ。この辺りでとなると、場所が限られていて……。うわさではスタナで何とかなったという方がいるらしいんです」
「なるほど。合点がいった。だから放水魔法を目当てにスタナへ向かっている訳だ。しかし、あくまでもうわさの話か」
「スタナで戦闘放水魔法というのは聞いたことがあるかしら?」
フロウが興味津々の様子で尋ねてくる。しかし、俺は詳しいことは知らない。地図屋で買った高価な地図には『日常系放水魔法』とだけ書いてあった。
「いや、俺が知っているのは日常の方だけだ」
「さすがにそうよね。残念だわ」
「あー、二人がスタナへ行くんだったら、街まで付いて行ってもいいだろうか?」
これで当面の水問題を解決したいという下心ありきでそう尋ねる。一応はのどの渇きをいやし、水筒も一杯になったとはいえ、まだ飲み水については心もとないからだ。
「私は賛成します。フロウは?」
「えぇ、もちろん。せっかくなのでスタナまでご一緒しますわ」
こうして、うまい具合に一時的だが『仲間』ができ、見事なまでに水問題が解決された。しかし、今回は肝が冷えた。もし道すがら誰にも会わなかったら、あるいは行き倒れてしまったかもしれない。
この世界に来てから俺が助ける側の展開になることが多かったが、こうして『助けられる側』になるというのは良い経験になった。
ちなみに、この先には馬の餌となる牧場が一ヵ所もない。だからこそ、乗馬で移動するのはお勧めできない地域なのだ。俺や彼女らがわざわざ徒歩で移動しているのもそういう理由である。
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