35話. スキルの秘密を知るためには何をしたらいいですか?
こうして我々は昨日の喧騒がまるで嘘かのように、喫茶店で贅沢な時間を過ごしつつ、食後の時間を優雅に楽しんでいた。
「このポラル茶はこうやって淹れるんだよ」
俺はそう言いながら茶の注ぎ方をレクチャーする。
この店に来て心底驚いたのが、茶器の存在だ。
ギルド会館がある通り沿いの飲食店は言ってしまえば、大なり小なり荒くれ者御用達の雰囲気が漂う。当然、ビールなどは木製の樽のような大ジョッキになみなみと注がれた状態で出され、店内の物々しさと併せて荒々しいことこの上ない。
しかしここではちゃんとした優雅なモーニングティーが頂ける。
しかも陶器製のポットのような茶器でだ。
もちろん日本にあるようなレベルのものではないが、ここでは文明を感じることができる数少ない場所だと思っている。
さて、ここからが本題だ。
わざわざこんな洒落た店でゆっくりしているのには理由がある。
店内から他の客が居なくなったのを見計らって、俺は重要な話を切り出した。
「ちょっと二人に話があるんだが……。単刀直入に言うと、スキルのことだ」
この姉妹それぞれが持っている魔力覚醒という謎スキル。獲得したのに使えないということだが、おそらく裏に何かあるに違いない。その謎を知らないまま二人と別れるのは良くない気がしたのだ。
「スキル? ああ、私たちのスキルのことね。それがどうかしたの?」
「したの?」
「その、何と言うか…… 君たちのスキルに興味があるんだ。もし良かったら、どうやってそのスキルを獲得したのか教えてほしいんだ。いや、もちろん言いたくないなら言わなくてもいいんだけど」
「いいわよ!」
おっ、意外にも即答。これは助かった。
「前にも言ったけど、私たちが持っているこのスキルは決して発動しないの。無意味なスキルだから別にいいわ。教えてあげる」
「とりあえず知りたいのは、どこでどうやってスキルを得たのかという点なんだが」
「それなら簡単よ。実は里の…… えっと、私たちが住んでいる村を里と呼んでいるんだけれど、そこの長老、オオババ様が持っている先祖代々受け継がれている石板を見ることで習得できるの。ちなみにオオババ様なんだけど、私たちの実の祖母なの。だから里のみんなはオオババ様って呼んでいるけど、私たち姉妹は普通にオオババって呼んでいるわ」
「なるほど、そうなのか。ちなみに、空間魔法もそうやって習得したのか気になるんだが……」
「まぁ、それもいいわよ。教えてあげる。それも察しの通り、里にある石碑で習得できたわ」
「うん? できた、とはどういうことだ?」
「そのままの意味よ。何年か前に何者かによって石碑が持ち出されてしまったの。だから私は空間魔法を習得できたけど、ユエはできなかったの。これは里の悲劇として今でもよく語られているほど衝撃が大きいわ」
「そうなの。空間魔法、欲しかったなぁ。残念」
「ぬ、盗まれてしまったのか。それは災難だったな。しかし石碑自体は大きくて重いものだろう」
完全に想定外の答えに思わず動揺を隠し切れない。これはヒジョーに残念だ。空間魔法は是が非でも獲得したい魔法だったからだ。もしここで石碑を見る許可が出れば大変助かったのだが。
「小さい頃に見たことあるけど、大きかったよ。でも何を書いてあるのかよく分からなくて、魔法を覚えられなかった」
「ユエのいう通り、かなり大きい石碑だったわよ。だから一人で運ぶのは到底無理。おそらく複数人がかりで運び出されてしまったんじゃないかしら。本当に悲しい出来事。今はそのせいで里のセキュリティーが強化されているわ」
「そうか。本当に残念だったな。ただ、何と言うか、オオババ様の石板に興味があるんだ。良かったら見せてもらうことはできるだろうか?」
「う~ん、さすがにどうかしら。いえ、私たち姉妹の命の恩人だから全力で説得するわ。サイはいい人そうだし。でも決めるのはオオババだから、ちょっと見せてもらえるかどうか分からないかも」
「それでもいいからお願いしたい」
「それじゃぁ、これから里に帰る時にサイも一緒に付いてきたらいいんじゃないかしら?」
「あたしも賛成。やった~!」
こうして俺は石板を見るという至って真っ当な理由で姉妹の里を訪問することになった。
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