29話. 一言に素材の回収といってもこれは大変な奴だ
ようやくユエが動けるくらいまで復活したところで、3人で手分けして鱗の回収を進めていく。二人ともすっかり元気になった様子で俺も嬉しい。
それはさておき、予想通りと言ってはなんだが、鱗の量がやはり多い。というか、これはちょっと多すぎる。結局、8割ほどの鱗がノエルの空間収納によって運ばれることになった。それでも山積みとなった鱗を分担して運ばなければならない。
すべての鱗を何とか俺が用意していた複数の袋に詰め終え、ようやく下山の準備ができた。指先に小さい火を日常火焔魔法で出して、ライト代わりにする。
あらためて周囲を見まわしてみると、辺り一帯ものすごい荒れ方だ。木々はなぎ倒され、広場が大きく拡張されてしまった。そのまま『広場』をみんなで突っ込んでいくと何かが倒れている。
「人だ!」
しかも二人いる。近づいてみると、残念ながら既に二人とも息絶えていた。俺たち以外にも襲われた人がいたのか……。
あれっ、この人たち。
まさかこの前の薬草採取で絡んできた糞カップルじゃないか!?
因果応報、ざまぁ。
いや、もとい、ご愁傷様でした。
こういう時に自身の人間性のどす黒い部分が露呈してしまう。
とはいえ、口に出なかったのが幸いだった。
カップルは前に見た通りの軽装で、しかもあろうことか前に見た時と同じく短剣しか身に着けていない。
さすがに山を軽く見すぎている。
せっかく忠告しておいたのに……。
まさか、あのショボいファイアー・ボール『モドキ』で戦ったんじゃあるまいな?
今となっては、もはやそれもどうでもいい。
他山の石としよう。
埋葬したりする余裕は無いので、後はギルドに報告だけして任せることにした。
下山中は姉妹と世間話や身の上話をしながら、ゆっくりと歩く。時たま笑いが起き、さっきまでの出来事がまるで嘘のようだ。
そう言えば、彼女らの魔法はどれ位なんだろうか?
いけないことと思いつつ隙を見て、気になっていた姉妹のステータスをこっそり確認してみた。
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名前:ノエル
種族:獣人(猫族)
職業:冒険者(Cランク)
HP:286 / 430
MP:350 / 455
魔法:日常火焔魔法(中級)、日常放水魔法(初級)、戦闘火焔魔法(上級)、日常空間魔法(中級)
スキル:魔力覚醒
特記事項:ユエの姉。
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名前:ユエ
種族:獣人(猫族)
職業:冒険者(Dランク)
HP:299 / 299
MP:274 / 274
魔法:日常火焔魔法(中級)、日常放水魔法(初級)、戦闘火焔魔法(中級)
スキル:魔力覚醒
特記事項:ノエルの妹。
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なるほど。やはり獣人だったか。
ケット・シーではないんだな。
さすがに二人とも姉妹だけあって、ステータスが似たり寄ったりだ。
所持している魔法のレベルも大差ない。
ただ、ユエは空間魔法を会得していないようだ。そして、ユエのHPとMPは完全回復している。ちょっと凄すぎやしないか、『オランチ回復ポーション・ダブル+』。
それよりも重要なことだが、姉妹そろって同じスキルを所持している。どちらもスキル持ちか。この謎めいた【魔力覚醒】というスキル。これは一体なんなんだろう?
「ところで、ちょっと俺の勘違いかもしれないが、もしかして何かスキルを持っていたりするか?」
二人とも顔をそれぞれ見合わせ、驚愕の表情を浮かべる。
ノエルが口を開く。
「えっ! えぇ。確かにスキルを持っているわ。よく分かったわね。いわゆる第六感ってやつかしら?」
「もしかしたら、そんな気がしたんだ。良かったら、どういうスキルを持っているのか教えてくれないか?」
すると、姉妹が何かコソコソ話を始めた。
ノエルが話を続ける。
「あなたも知っているでしょ。スキルは獲得が困難なレア現象だから……。それを貴族ではない私たちが持っていると知ったら、変な連中に狙われたりするかも。だからスキルを他人に教えるのはご法度なの」
あぁ、なるほど。そういう事ね。ようやくこの世界のスキル事情が分かってきた気がする。
「でも、あなたは命の恩人だから特別に教えてあげる。どっちにしたって、私たちが使えていないスキルだし、いいわ」
うん? ちょっと待て。使えていないスキルとはどういうことだ。スキルが使えないなんてことが本当にあるのか。
「私たち姉妹が持っているスキルは『魔力覚醒』。でも、特に効果を感じたことはないわ。だから、有っても無くても構わないスキルよ。残念」
「聞いたことの無いスキルだな。いや、俺はスキルのことはよく知らないんだが……。それにしたって、スキルを獲得していて発動しないなんてことがあるのか?」
とりあえず鑑定スキルで確認したのと同じスキル名だった。嘘は言っていない。強そうなスキル名だが、これが使えない、だと? よく分からん。普通はスキルを獲得すれば勝手に使えるようになるんじゃないのか。
「それは私たちが訊きたいくらいよ。とにかく、今は無いものとして扱っているわ」
うーむ。そんなことがあるのか。
そうこうしている内にようやく街まで戻ってきた。大荷物なので通行人の視線が痛い。
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