27話. 回復は一瞬されどお金が消えるのも一瞬
こうして闘いは終わった。
いやー、今回は肝が冷えた。
死んだとしても、ちっとも不思議ではなかった。
それでも、何とか勝利できたのは運がいい。
こんな戦い方でもひとまず勝ちは勝ちだ。
まさに紙一重の戦闘だった。
ファイアー・ボールはキノコ採取の間にもちょくちょく練習をしていたので、あれほど火焔魔法を使ったにもかかわらず、最後までガス欠にはならなかった。かなり持久力が付いてきたことを肌で感じる。
「早く来てーーーーッ!」
姉の大声がする。
あぁ、そうだ。
怪我を負った妹がいたんだった。
容体はどうなんだろう。
激しい戦闘のせいで、途中まであれほど気に掛けていた妹のことが意識からすっかり飛んでしまっていた。とにかく今は怪我の具合が心配だ。
慌てて駆け寄ると、姉は大木の根本にかがみこみ、妹を抱きかかえながら必至に声を掛けている。
しかしあまり反応がなく、グッタリしている妹。
ちょっとマズいかもしれないな。
かろうじて意識がある程度のように見える。瀕死の重傷だ。
「どうしよう、どうしよう。どうしたらいいの?? 持ってたポーションはさっき壊されてしまったし、回復できない。ねぇ! このままじゃ、死んじゃう!!」
そうだ!
こういうこともあろうかと、俺はポーションを全て持ってきていたのだった。
「これを」
そう言うと、俺は買ったばかりの『オランチ回復ポーション・ダブル+』の小瓶をそのまま渡した。正直、かなりの高級品だが、この時を逃していつ使うのか。迷いはない。
姉はそっと妹に飲ませる、というより流し込む。
すると、みるみるうちに傷が消えていく。数分も経つと傷がほぼ完全に癒えて、明らかに血色がよくなった。
う~む、凄いな。
『オランチ回復ポーション・ダブル+』という怪しい商品名に似合わず、値段通りの実にいい仕事をしてくれた。
これだけの傷が治るかどうかは賭けだったが、首尾よく完治できてラッキーだった。実際に効果を直に見れたのは大きい。
「お姉ちゃん。私……」
「良かった。本当に良かった。まだ動いちゃダメ。じっとしてて」
姉の表情が和らいだ。俺もひとまず安堵する。
あれ、なんだか左肩が痛むような。
そうだ。何を隠そう、俺自身も怪我をしていたことを忘れていた。
巨大ワニとの戦闘があまりにも激しすぎて、意識がそっちに持っていかれていた。
これは脳内麻薬の仕業に違いない。
まだ、ポーションは3本も残っている。
いずれも安い汎用品だが、何とかなってくれることを祈ろう。
姉に1本を渡し、もう1本は予備にする。残ったラスト1本を手に取り、飲もうとした。が、流し込む直前にステータス画面を確認するのを忘れていることに気づいた。
危ない危ない。
ステータス・オープン。
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名前:サイ
種族:ヒューマ
職業:冒険者(Fランク・ノービス)
HP:107 / 520
MP:23 / 364
魔法:戦闘火焔魔法(超級)、日常火焔魔法(超級)
スキル:身体強化、鑑定
特記事項:状態異常(迷い人)
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あっぶねぇ。
わりと死にかけじゃないか。
MPはゼロになっても大丈夫かもしれないが、HPはどんなに減ったとしても二桁以下にはしたくない。
あれ、HPもMPも上限がかなり上がっている!?
詳しい考察は後だ。
とにかくステータスを確認できたところで、『ラテナ整調ポーション』を一瓶一気に飲み干す。う~ん、けっして美味くはないが、飲めないほどの味ではない。いかにも薬のような味がする。
あれ、なんだか体が熱い。
火照ったような体に意識がフラっと遠のくのが分かる。
ふと目を覚ました時には肩の傷はすっかり治っていた。
安いポーションでもさすが売れ筋。
効き目は抜群だった。
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