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最終話.  斉藤一切

 

 俺は今、スローン大平原の巨木『キング・セコイア』の上に浮かんでいる。周囲は開けており状況が手に取るように分かる。


 地上では誘拐犯の一味を大方処分できたようだ。そしてブロドリオが指揮を執って対空戦への準備をしている。


 ノエルとユエは防御と戦闘のため、俺の指示通りに壁作りをしている真っ最中。



 しかし魔族の群れが我々を目指して着実に近づきつつある。


 この巨大な群れを『殲滅』させる方法か……。



 これは困った。

 なんと空間魔法は制限があって使えない。


 だからと言って、どうみても放水魔法を使う場面ではないだろう。

 土石魔法もしかり。


 そうなると、残るは電撃あるいは火焔か。


 しかし電撃ではすべてを葬れない。狙い通りに電撃を飛ばすのが難しいからだ。それに使い方をまだマスターしきっていない。



 もし仮に千を超える軍勢を多少なりとも削れたところで、残りがネコ姉妹に危害を加えるようであれば意味がない。


 あくまでも全滅かそれに近い状況まで持ちこむ必要があるのだ。


 でもどうやって?




 とりあえず思い付いた方法は一つ。


 イチかバチかの賭けだ。


 しかも力押しだから、失敗したらリカバリーできない。魔力を使い過ぎてしまうからだ。まさしく一回こっきりの挑戦。



 だが、仕方ない。選択肢は一つだけ。やるしかない。


 敵はもう眼前だ。じっくりと作戦を練っている余裕は無い。それに敵が来てしまうと仲間を守りながら戦うのが困難になってしまう。


 地上での戦闘でMPも減ってしまったが、それを補充している時間さえもない。




「ふぅーーーー」


 息を深々と吸って大きく深呼吸をする。


 そうしながら空間収納から魔石を大量に取り出し、ギュッと握り込む。そして予備の魔石をいくつかポケットに移す。


 次の瞬間、


 【ファイアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!】


 ……と叫びながら、空間魔法のじゅうたんの上に立ちながら、グルっと横へ体を回転させていく。トンレカップ湖に行く前に試した最大級の火焔魔法を放射しながら。


 すさまじい勢いで遠くの魔族共が消し炭になっていく。


 だが、魔力の減りも激しい。


 今回は自分の魔力だけでなく、魔石の魔力も借りている。どういうことかと言えば、体を中継させて魔石から魔力を吸収するとともに放出するという荒業を使っているのだ。


 これでも、さっと半周しただけでもう魔力切れになりそうだ。


 こんなこともあろうかとポケットに忍ばせていた『グリーン・ワイバーン』の魔石を取り出す。魔石鉱山の街『カディナ』で手に入れた貴重な一品。


「使いたくは無かったが……」


 だが、そんなことを言ってもいられない。奥の手だ。



 【ワイバーーン・パワーーーーーーーーーー!!!!!!!】




 グルっと俺が1周するのと、火焔放射が尽きるのはほぼ同時だった。それでも目的は無事に達成だ。


 『空中に浮かんでいた魔族の群れは一掃された』



 我々は魔族に勝ったのだ!!

 しかも完全勝利で。





 ◇



 こうして戦いは終わった。



 スローン大平原での一件がすべて片付き、今、俺たち3人は新たな旅に出ている。


 ここがどこかだって?


 あろうことか、またもやスローン大平原だ。


 まずはこの大平原をひたすら突っ切り、氷結魔法の石碑があるというマサンドラへ向かう。


 それが終わったら、今度は空間魔法の石碑を狙って大陸の辺境を目指すのだ。むろんユエが持っていない空間魔法の獲得とあわよくばノエルのランクアップを目論(もくろ)んで。


 そうそう。


 ブロドリオの屋敷で俺に因縁をつけて決闘を仕掛けてきたオベロンという男。どうやらブロドリオによって関係者もろとも屋敷から追放されたようだ。元々、いくら弟といえどもブロドリオが疎ましく思っていたらしく、ちょうどいい口実だったというのを伝え聞く。確かに扱いが難しかったに違いない。ざまぁみろ。



 ここでふと思い出す。


 脳裏に浮かぶ鮮明な記憶だ。


 小学校高学年の頃の短距離走。

 風を切って自分が先頭を駆け抜けているイメージが呼び起こされる。凡人の俺があの一瞬だけ輝いていた。そんな儚くも虚しい実体験……。


 この光景を思い出したのは実に久々だ。



 だが、俺にはもう必要ない。こんな記憶など要らないのだ。過去の栄光を心のより所にしなくても大丈夫。そんな虚像にすがらなくても俺はちゃんと生きていける。



 一断ちで何でも両断することを願って付けられた【一切(いっさい)】という名前。今の俺はその名前にふさわしい姿へと変貌を遂げた。そう、ついに俺は力を手に入れたのだ。




 晴天の青空の下、目の前には鮮やかな緑の美しい草原が地平線の端まで広がっている。爽やかなそよ風が心地よい。


 前方の少し離れたところにノエルとユエがいる。



「サイ、行くわよ~」

「早くきてー、はやく、サイさん!」


 二人が呼んでいる。



 決めた。



 ここでずっと生きていこう。

 もちろんノエルとユエと一緒に。


 まずはみんなで旅を続けよう。


 俺のセカンドライフはまだ始まったばかりなのだから。





 【完】

 

※ 長めの後書きが次ページにあります。



最後まで読んで下さり誠にありがとうございます!


もし、ほんのわずかでも面白い、続きが気になると思って頂けましたら、ブックマークや評価、あるいは感想などのフィードバックをしてくださると飛んで喜びます。このページの下の方にある『☆☆☆☆☆』から評価を入れられます。


これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 終盤の駆け足wwwww ソロやめて少女2人を加えてから、なんかおかしくなりだした それ以前は大変自分の好みだったんだけど・・
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