193話. 天誅を下す
俺の自信作『ディメンション・カット』は今回に限り役に立たない。必殺技が使えないとは、ちょっと想定外の事態だ。
何を言っても使えないものは仕方ない。
とにもかくにも使える魔法で対処しなければ。
まさかすべての魔法で直接攻撃ができない、なんてことはないよな?
となれば詰んでしまうのだが……。
一体全体、過去の勇者は魔族相手にどう戦ったんだ?
話を聞く限りでは普通に魔法で倒したようだが……。
まぁ、何でもよい。
ひとまずテストしてダメなら考え直すまでだ。
目の前にある『キング・セコイア』の巨木。
その下に居座る誘拐犯と人質の魔族。
我々は木からやや離れているので、雷が直撃しにくい場所と言える。
問題は落雷を今の場所から動かずにどう発生させるべきか。
どうやら交渉が決裂しそうになってきた。早くしなければ。
幸いにも木の真上まで注意している人はいなさそうだ。
よし、もう考えている暇はない。
実行あるのみ。
まずはそれなりの大きさの空間魔法の立体を展開させる。
もちろん巨木の上で。
次に電撃魔法。
この立体の中に電撃を満たしてみる。かなり密度と圧力が高くなるようなイメージをする。理論上はこれで雷撃が落ちるはず。
ドドーーーン!
空間魔法を解除した瞬間、雷撃が『キング・セコイア』に直撃した。
「何だっ!? 何が起きた??」
「雷が落ちたぞ!」
慎重に交渉の行方を見守っていた冒険者もさすがに動揺を隠せないようだ。
そして枝分かれした雷撃はほぼ同時にそれぞれの誘拐犯だけでなく人質にも直撃。
効き目はそれなりにあるようだが、絶命するには至っていない。むしろよろけながらも応戦の気配を見せ始めたその時、
「あっ、あれを見ろ!」
一人の冒険者がスレイヤを指さした。
「まさか、スレイヤ様が!?」
「そんなばかな。ありえないだろっ!!!!」
誰もが目を疑う光景だ。
地区長スレイヤの背中から大きな翼がニョキニョキと生え始めたのだ。
他の魔族も同様だ。
なるほど、電撃でショックを与えると翼が出てくるのか。いくら耳をそぎ落としたところで、これは隠せなかったか。さすがに痺れているせいか飛翔するのは難しそうだ。
ドッシャーーン!
んん!?
今、何が起こった?
一瞬目の前が明るくなったのでよく分からなかった。どうやらスレイヤに長鋼形片手剣が突き刺さったようだ。
「魔族は仕留めたぞ。スレイヤ殿は【魔族】だった。動揺するのは後だ。皆も一緒に戦ってくれ」
声の主はブロドリオ。
そう、ブロドリオの剣が電撃魔法との複合技でスレイヤの体を貫いたのだ。
すげぇ。さすがS級冒険者。実に有能な男だ。
剣を投げながら電撃を上乗せするとは!
それに、よく見るとあれは魔剣か!
あの一瞬でギルドのトップを抹殺するという重要な判断をこなし、即座にそれを実行に移す行動力。なんという胆力なんだ。それも価値ある剣を。
いずれも並大抵のそれではない。もし万が一間違っていたら取り返しがつかないが、それを見事にやってのけた。
しかもブロドリオは無詠唱魔法が使えない。となると、雷が落ちた直後に詠唱を開始していたはずだ。その判断も見事としか言いようがない。
剣はきちんと心臓の位置に刺さっている。魔石を破壊しているのかどうか定かではないが、倒せているようにみえる。
バシュッ! バシュッ!
他の冒険者からもファイアー・ボールが放たれ続けている。他の魔法や武器で応戦している者もチラホラいる。
ふむ。どうやら魔族相手にファイアー・ボールは有効らしい。一撃必殺という訳ではないが、明らかに効いている。そして今の雷撃で少なくとも電撃魔法も有用だ。
「ノエル、ユエ。火焔か電撃魔法で応戦してくれ。俺は少しやる事がある」
「分かったわ!」
「わかった~」
いくら魔族とはいえ、先の雷撃で弱った状態なら我々でも対処可能なはず。
俺のパーティーメンバーなのだ。ノエルとユエは二人とも強い。この程度の弱った魔族であれば問題なく対処できるはず。
現場は混戦状態だ。
弱りながらも魔族どもは魔法を駆使して反撃している。
俺はというと少しこの戦闘から距離を置いた。
やはり気がかりを解消しておきたい。
『なぜサンローゼから遠く離れたここスローン大平原に呼び出されたのか』
どうも何か引っかかる。
ひとまず、戦闘状態の今なら少しくらい怪しい動きをしてもバレない。
急いで空間収納から “魔族の魔石” を取り出す。
続いてスキルだ。
『魔力感知』
これで個々に点在している魔族の詳細な位置が分かる。
だが、これだけではない。
『状況把握』
これはトンレカップ湖の水中洞窟にて獲得した新しいスキル。
まだ使い方をきちんと把握した訳ではない。
だが、魔力感知と合わせれば、脳裏に浮かぶイメージはより鮮明となる。そうだな、モノクロ背景上に魔力反応が点灯する感じだ。
ちなみに魔力感知だけでは、単に黒色の同心円状のイメージ上に魔力反応が点灯するだけだ。やはり敵の位置が判別つきにくい。それに距離感も分からない。
ふむふむ。
どうやら敵は『キング・セコイア』の周辺にしかいないようだな。
まぁ、念のためだ。
範囲を広げて探索するとしよう。
『な、なにっ!?』
あー、これは大変なことになったな。
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