192話. なんてこったい。まさかのまさかだ。
さてと、ここで置かれている状況を整理する。
我々12名の30メートル先に誘拐犯の集団22名が巨木『キング・セコイア』の下に固まっている。
ただし、交渉役のエカテリーナだけはもう少し誘拐犯に近づいたところにいる。
誘拐犯共だけでなく、まさかの人質となっていたサンローゼのギルド地区長スレイヤも実は魔族で俺たちの敵だ。ということで、実際の敵は23名だ。
おっと、我々はもっと後ろに下がるよう指示が飛んできた。
エカテリーナだけがそのままの位置に留まることになる。
さてと、わざわざ場所と時間を指定しているわけだ。もしかすると何らかの仕掛けがされている恐れがある。
例えばあらかじめ罠を仕掛けているとか、ある時刻になったら何かが起こっても不思議ではない。
……とするとだ。
できる限り短期で決着させなければならない。
今は誘拐犯と冒険者の双方がエカテリーナの交渉に注意を向けている。
つまりは何かするのであれば今が絶好のチャンス。
何も派手な魔法を使う必要はない。
むしろ気が付かないうちにすべてが終わっていたというのがベスト。
本来ならばそんな戦いなどあり得ないことだが、俺には可能だ。
ここで空間魔法の『ディメンション・カット』を使えばいい。つまりは魔族の体内にある魔石を切り取ってしまうのだ。
さっそくやるぞ。
『ディメンション・カット!』
……シーン。
おかしいな。
どうやら何も起こっていないようだ。
すると頭の中に音声が響いてきた。
「禁則事項に抵触するため、実行できません」
ぬぅわぁんだとぉーーーー!?
落ち着け、まずは落ち着け、俺。
次だ。
今度は一人だけでなく、あの誘拐犯集団をまとめて消し去れるかどうかのテストをしよう。もはや魔石がどうのという次元ではない。すべてもろとも【カット】してやる。
『ディメンション・カット!』
……シーン。
やはり何も起こらない。
「禁則事項に抵触するため、実行できません」
あああああーー。やっぱりダメなのか。
そうなのか。
まさか空間魔法にこんな使用制限があったとは!
うーーむ。
まぁ、確かに予想外といえばそうだが……。
実はこんなこともあるのではなかろうかと薄々感じていたのも事実。
というのも、先日の伝道師『ガイ』の例のように、俺のスキルが通用しないことは以前にあったからだ。
それにこの世界に来てから疑問に思っていたことがあった。
ずばり、それは魔法が【戦闘系】と【日常系】の二つに分かれていることだ。
実際のところ、この事実には強烈な違和感を覚えていた。
考えてもみよう。
例えばナイフ。これは料理を作るのに重宝されるが、戦闘時の武器にもなる。そこには戦闘系と日常系の差などない。単に使い方の問題だ。
それが用途別に二つに分かれてしまっていて、それぞれ威力や使用目的に制限が加わっている。これは実に奇妙だ。
さてと。
ひとまず空間魔法が使えないことが分かった。少なくとも直接的には。
となると消去法で他の魔法を試すしかない。
そうだな。目の前には巨木がある。
天気はあまり良くない。
【仮に落雷が落ちたところで不自然ではないだろう】
ただし、トンレカップ湖の『キリング・シャーク』の時とは条件が違う。
俺が木の真上に移動して雷撃を落とすのは難しい。
いくら注目が交渉役に向いているからといって、この場から人が消えるのを許してくれるほど節穴ではないだろう。
あくまでも俺がこの場にいながら雷撃を落とさなければ。
そうだな。
空間魔法との複合を試してみるか。
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