190話. スローン大平原
「決めたわ。ノエルもユエもサイに付いていく!」
ついに腹が決まったようだ。
宿の部屋に入り、しばらくしてからノエルがそう切り出した。
「そうか。その決断はありがたいが、今度ばかりは守り切れないかもしれないぞ」
「もちろんそれも承知の上よ。ねぇ、ユエ」
「うん。私もお姉ちゃんに賛成。それにサイさんがいなかったら私はあの場で死んでいたもの」
ここで言う『あの場』とはもちろん『シルバーメタル・アリゲーター』と戦った現場のことだ。
そう言われて見ると確かに……。
思い返せば、あの時点でユエは瀕死の重傷。そしてノエルはポーション切れという有り様さった。下手をしなくても二人ともあそこで死んでいた可能性は高い。
とにもかくにも、こうして我々は一人も欠けることなく、陰謀の影がチラつくスローン大平原へと向かうことになった。
「今日はもう休むぞ。明日は大決戦だ。何が起こるかまったく分からないからな」
「そうね。ゆっくり休みましょう」
◇
翌日、早々と起床した我々はギルドへと向かう。
というのも、俺たちは誰一人として目的の『キング・セコイア』の場所を知らないのだ。
そこで、途中までの道案内の係をギルドが用意してくれるという。これはありがたい申し出だ。なにせ道に迷って遅れましたとか、たどりつけませんでした、というのはあまりにも恰好がつかない。
あくまでも『途中まで』という条件付きだ。もし案内役のせいで誘拐事件がこじれたとしたら、それはそれで後味が悪い。
「二人はよく眠れたか?」
「実は、あまり眠れなかったの……」
「私もそうね。やっぱり考えちゃうもの」
「俺もそうだな」
「でも、横になっていたから疲れはそれなりに取れているわ」
「今日はどんな日になるんだろうな?」
ギルドでは一人のおじさんが案内役を買って出てくれた。グスタフという見るからに強面で屈強な男だ。
「今日はよろしく頼む」
「いやいや、こちらこそ。これは仕事だからな」
「まだ時間があるが、念のためだ。馬を飛ばすぞ」
ギルド裏手の馬小屋からスローン大平原へと向けて狭い道を駆け抜ける。
ここからスローン大平原まではおおよそ20キロほどだが、その先の『キング・セコイア』まではさらに5キロも距離があるという。しめて30キロ弱の旅だ。
しかし馬があるのでそれほど時間がかからない。
もし万が一のことが起これば、このグスタフという男に空間魔法の存在がバレてでも14時までに目的地まで到着せねば。
急に森が開けて一面の草原が目の前に広がった。おそらくここがスローン大平原なのだろう。
背丈はかなり低く、芝のような歩きやすそうな地面で助かる。これなら馬での移動もまったく問題ない。
しばらくすると案内の役割は終わったと見えて、
「俺が案内できるのはここまでだ。あそこに高い木が見えるだろう。あれがそれだ。健闘を祈るぞ、諸君!」
……と言い残し、グスタフの馬は去っていた。
う~む。
巨木に近づくにつれ、何となく状況が見えてきた。
まず目的の『キング・セコイア』だが、高さは50メートルほどだ。
確かに巨大だが、超巨大という訳ではない。しかし周囲はだだっ広い大平原。なぜ1本だけポツンと巨木があるのかはよく分からない。かなり特別感のある目印だ。
そしてその木の脇に人が20人ほど固まっている。全身黒々とした服装から誘拐犯どもか。
それらの手前に冒険者と思われる集団がいるが、数はやや少なく10人にも満たないくらいだろうか。
「着いたわね」
かなり手前で馬を降り、尻を叩いて馬を解放する。
もしかすると戦場になるかもしれないから、これはわずかながらの慈悲だ。
馬は頭がよいのでもと来た方向へと向けて駆けていく。
我々がゆっくりと冒険者の集団に近づいていくと、チラホラと見知った顔が目に入ってきた。
「サイ君じゃないか! やはり君も呼ばれていたか」
ブロドリオがそこにいた。静かな声だが、少し驚いたといった表情をしている。
「誰? サイの知り合いなの?」
ノエルが小声でささやく。
「ブロドリオ様だよ。S級冒険者で上級貴族の」
「えぇーー! 何でそんな人とお知り合いなわけ!?」
「しー、静かに! それには長い長~い訳があってだな」
そんなことをしていると、『キング・セコイア』の下にいた誘拐犯の1人が声を発した。
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