188話. まさかのとんぼ返り!?
「サイ殿には至急、我がラティアスのギルド会館までお越し願いたい」
続けて男の口から飛び出した言葉に驚きを隠せない。この男はどうやら俺を訪ねにわざわざラティアスのギルドからやって来たようだ。正直なところ、その事実だけで俺はかなり動揺している。
「ちょっとここではなんだから、外で話そう」
えっ、何だって!?
俺が呼び出し? ギルドに?
何かマズいことが起きたのだろうか。
そもそも何の話なのか。
再び石油の沼で火災が起きたのか、あるいはアレか、我々に報酬を払い過ぎたから一部を返して欲しいとか……。それは嫌だな。
いずれにしても、ノエルとユエ以外に聞かれたくない話であることに違いない。
改めて周囲に人がいないことを確認してから会話を続ける。
「それは突然のことでちょっと何とも言い難いな。えーと、あれだ。そもそも、その用件は例の池と関係があることなのか?」
とりあえずこんなお茶を濁した返しをして様子を伺おう。
「残念だが、使いの私にさえも詳しいことは何も知らされていない。ただ、おそらくそれとは無関係だ。いずれにせよ、緊急事態でかなり火急な用件なのは間違いない」
「う~む。そうなのか。しかしよく俺の居場所が分かったな」
「それは洞窟の門番からの情報提供があったからさ。確証はないが、こうして無事に見つけられて本当に安心した」
なるほど、電撃魔法の洞窟にいた門番のことか。そう言えばこのトンレカップ湖に来たのは彼らの助言があったからだった。
「……ということだ。どうするノエル、ユエ?」
「ま、緊急事態でわざわざ追っかけてくる位だから、よほど重要な話だと思うわ。もう少しここでゆっくりしていきたいのは山々だけれど、これは仕方ないわね」
「うん、ユエもそれで大丈夫」
「まぁ、俺も渋々ながら賛成だ。どんな話なのか聞くだけ聞かないとな」
「賛同頂いて感謝する」
「それでいつ頃出発するんだ?」
「むろん今すぐに……、と言いたいところだが、見ての通り馬が潰れてしまった」
「「今!?」」
「そうだな。我々としては準備だけならすぐに終わるが……」
「私の馬に乗るには後1時間半は必要になってしまう。それからでいいだろうか?」
「ん!? その話の流れだと “俺” だけがギルドに行くような話のように聞こえるが?」
「あくまでも用があるのはサイ殿だけだから仕方あるまい」
「いや、それでは困る。あくまでもパーティーメンバーも一緒でないと。ここにいるノエルとユエも一緒に行きたい」
「そうね。私たちも同伴したいわ」
「それは理解できなくはないが、どうしたら……。この村には馬がいないようだし」
「それなら一つ考えがある」
ということで、男の耳元でささやく。
「実は俺たちは『身体強化のスキル』が使えるんだ」
「な、何だって~!! しかしそれなら納得だ。何しろギルド上層部から直々の呼び出しだからな」
「つまり我々なら今すぐに出発すれば馬よりも早く向こうに到着できるという訳だ。どうだ?」
「できれば私も一緒にギルド入りするのが望ましいが、仕方あるまい。その案で決まりだ。改めてサイ殿には感謝するぞ」
ということで、我々は今すぐに出発して、ラティアスのギルドへと向かうこととなった。
取り急ぎ、リトや皆さんに事情を説明する。
「えっ! もう行っちゃうの? 今? それはずいぶんと急だねぇ。まぁ、また気が向いたらボクの集落においでヨ」
リトは意外にもあっさりとしている。
心停止で大変だったリトの親父さんは問題なく口がきけるようになっていた。
それからその他集落の方々に軽く挨拶をして、ついに出発の時を迎えた。
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