187話. すごいな。完全に未知の世界だ。
トンレカップ湖の水中を散策していた我々だが、ノエルの一声によって状況が変わった。
「あれは……。もしかして穴か?」
陸上の平島へと続く水中の急斜面。
そこに明らかな穴がポッカリと開いていたのだ。
これは洞窟の入り口だろうか?
直径は7~8メートルといったところ。それなりに大きい。
だが、穴は切り立った感じに開いていて、もしかすると船上からは見えないかも。それにここは湖面からかなり離れた水中だ。
本来ならば泳いで洞窟の中に入るのだろうが、この穴の直径ならばこのまま進んでも大丈夫だろう。
「興味深いな。このまま進んでみよう」
我々を乗せた立体をそのまま穴へと突っ込み、穴の奥へと進んでいく。
途中から穴は上向きになり、ついには水中から脱した。
「サイさん、あそこ!」
うん??
あれは、もしかして、【石碑】じゃないか!?
まさかこんな場所に遺跡があったとはな。これぞ水中遺跡だ。
いや、湖底から遺物が引き揚げられている時点で遺跡があるのはほぼ確定していた訳だが。我ながら大発見だな。
ここで空間魔法を解除すべきか?
う~ん、やはり危険だな。
石碑と思しき物体は狭くなった洞窟の奥にある。
今のままの立体だと大きすぎてそこまで行けない。
「二人とも、せっかくここまで来たのだから、俺は石碑を見てみたい。だが、空間魔法を解除するのは止めておく。危険なガスが充満しているかもしれないし、空気があるかどうかも分からないからな」
「確かにそうよね。でもこのままだと字は読めないわよ」
「そこでだ。この空間を小さくしようと思う。空気が減ってしまうから、石碑を見たらすぐに浮上する。残念ながら,湖底の散策は次回へのお楽しみだ」
「仕方ないわ。それでいきましょう」
一気に大きさを縮小させて、石碑をよく見てみる。
「スキル 状況把握を取得しました」
よしっ!
「二人とも手を握ってくれ」
「「ステータス・オープン」」
「えっ!」
「新しいスキルだ……」
「サイの力は本当に底が知れないわ」
「話は後にしよう。空気が無くなるからな」
本当は洞窟の中もよく探検してみたかったのだが、残りの酸素が心配だ。ここで死んだら元も子もない。
急いで洞窟を後にして急浮上する。
立体内は気圧と温度は一定に保たれたままで快適だった。
やはり空間魔法は使えるな。
◇
「さてと……」
無事に湖畔に降り立った我々はすぐに集落へと戻ることにした。
さすがに意識を取り戻したリトの父親と『キリング・シャーク』の件が気になっていたからだ。
そのため、獲得したばかりのスキルがどのようなものか、よく分からない。まぁ、これは落ち着いた時にでも試してみるとしよう。
寄合所に戻ったのはいいが、思ったよりも “普通” だった。既に例の魔物の解体作業は終わっていて、各々が自由時間を気ままに過ごしている。
興奮し過ぎて意識していなかったが、どうやら洞窟探検をしている間にそれなりの時間が経過していたようだ。
「お前さんたち、どこへ行ってたんだい?」
「いや、ちょっと外へ出ていた。気持ちを落ち着けようと思ってな」
「そりゃそうか。あんな大変なことがあったばかりだ」
それは人命救助のことを言っているのだろう。
確かにそうだ。
時間にしたら数分くらいだろうが、俺には永遠にも感じられる時間だった。
しばらく住人と雑談をしていると、リトがやってきた。
「お父さんの具合は大丈夫なのか?」
「うん、もう心配ないみたい。ボクは付いていなくても大丈夫だってお母さんが」
「それはよかった。見ての通り、『キリング・シャーク』の片づけも終わったところだ」
だが、今日はこれで終わりということでは無かった。
パカッ、パカッ、パカッ。
馬が近づいてくる音が聞こえてくる。
ヒヒーーン!
近くで止まった。
開きっぱなしになっていた寄合所の入り口から一人の男が顔をのぞかせた。
「突然、失礼する。この中にサイ殿はいらっしゃるだろうか?」
ん!?
それって俺のことじゃないか。
頭の中にたくさんの疑問符が浮かんで来る。
それにしても一体何の件だ。
ちょっと心当たりがあり過ぎる。
まさか昨日の山を吹き飛ばした件がバレてしまったか。
とすれば厄介だな。
とりあえず状況の確認からだ。
「あー、俺がサイだが、何か用か?」
すると、男はとんでもないことを口にした。
最後まで読んで下さり誠にありがとうございます!
もし、ほんのわずかでも面白い、続きが気になると思って頂けましたら、ブックマークや評価、あるいは感想などのフィードバックをしてくださると飛んで喜びます。このページの下の方にある『☆☆☆☆☆』から評価を入れられます。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。