182話. まさかの海鮮三昧
リトや彼女のご家族を心配させないように風呂は手早く済ませるはずだった…… が、結局のところ長風呂になってしまった。
無理もないことだ。
とにかくこれまでにないくらい最高に心地のよい風呂だったのだから。それに最高のロケーションを求めて少し歩いてしまった。
だが、これで諸々スッキリした。
さてと……。リトの家に戻ると皆さん総出で夕食の支度をしている最中だった。
当然の如く、我々もそれに加わる。
「今夜はご馳走だよ!」
我々は客人ということで手厚く歓迎してくれるようだ。
これはありがたい。
しかし驚きだ。
目の前にある食材はエビやカニ、そして貝。
つまりは魚介類のオンパレードだ。
しかも淡水に生息するものではない。
「これはね、『イエロー・クラブ』。立派なカニでしょう? 湖は塩分が濃すぎて採れないけど、その近くの池に棲んでいるんだ」
ほほう。先ほど絞めたばかりで灰色だが、煮たり焼いたりすると黄色くなるとのこと。両手に載せるとズッシリと重い。
「こっちは『グレート・シュリンプ』。美味しいけど、殻をむくのが面倒なんだ。ボクの手つきをよく見ていてね」
そう言ってリトはテキパキと慣れた手つきで殻をむいていく。やや小さめのエビでザルの上に山盛りになっている。我々はそれらの殻むきを手伝うことに。
「上手いな、二人とも」
思わず目を見張った。ノエルとユエはかなり手慣れているようだ。ものすごい勢いで殻を剝いでいく。
「里の近くの川でよくエビ採りをしていたの。殻をむくのは自分たちの仕事だったから、この作業は慣れているわ。ちょっと剝きにくいけど大丈夫よ」
そういうことか。
かく言う俺はまったく余裕が無いが、ひとまず姉妹の作業を真似しながら殻をむき終えた。
「この小さいカニは素揚げにするよ!」
リトのお母さんが元気に声を発しながら、さっそく揚げる準備に取り掛かっている。
こうして小一時間ほどが経過した頃合いだろうか。
見事な “海鮮” 料理が出来上がった。こんな山を登った場所でまさかの海鮮三昧とは恐れ入る。
「う~む。これは絶品だな」
先ほどリトの母が揚げてくれた小さなカニの素揚げ。
あまりにも単純すぎる料理だが、表面の薄い殻と中のジューシーさが相まって、揚げ春巻きを食べているかのような食感だ。お見事。
この世界に来てから様々な料理を味わってきたが、これはその中でも上位に入りそうだ。
「サイ、これも美味しいわよ!」
ノエルのお気に入りは、自分たちが殻をむいた『グレート・シュリンプ』と地方名物の野菜の炒め物。これに湖の水から作った塩を入れる。
うまい!
今日はとにかく運動したから、塩気のある食べ物は体に染みる。
「美味しいでしょ。ボクの家の自慢の料理ばかりだヨ」
「いや、恐れ入った。脱帽だ。どれもこれも非常に美味で感激だ。そしてこの塩も美味いな」
「本当にどれも美味しいわ。里のみんなにも食べてもらいたいくらい」
「うんうん」
こうして贅沢な夕食の時間は瞬く間に過ぎていった。
しかし、俺の脳裏には湖に巣食う魔物『キリング・シャーク』の存在がチラついて離れない。せっかくだから、これを何とかできないものだろうか。
しかも都合のいいことに効果適性が電撃魔法ときた。風呂の時点でそいつの効果を試すことにしたのはいいが、さすがに湖を相手にするのは分が悪い。はてさて、どうしたものだろうか?
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