159話. 隠蔽はどこまで隠蔽できる?
こうして有意義な休憩ができたので予想以上に満足している自分がいる。うむ、すばらしい。
とくにノエルとユエに無詠唱魔法を伝授できたのは今後の旅を考えると好都合だ。むろん伝道師ガイが教えてくれた魔力覚醒に関する極秘情報がこの発想に繋がっている。
ガイによれば、そもそも魔力覚醒というスキルは体内の魔力の吸収と変換の効率を大幅に上昇してくれるらしい。
そして俺は元々そうした能力が高かった訳だが、魔力覚醒を得て次元が違う体を手に入れた。
その俺が体を触れながら魔力を同期、いや同調させるようなイメージをすることで、彼女たちにも自分と似たような効果が表れたのだ。
もちろんこうなる確証はそれなりにあった。
というか実際のところ、コレはあくまでも再確認に過ぎないのかもしれない。なぜなら、ミナスで土石魔法を習得した際に姉妹の『魔法の資質』をアップすることに成功していたからだ。
しかし自分で言うのもアレだが、とてつもない力だな。
言うなれば、これは超能力のようなものだ。あまり闇雲に他人に対して使ってはならない技と言える。
さて、この話題はこのくらいにしておこう。
「ここから先は飛んで移動しないか?」
「やったー!」
「もちろんいいわよ。でも、見つからないようにするんじゃなかったの?」
「その通りだ。ということで、さっそく今から試してみたいことがある」
そう言って、俺は自分用の空間魔法を発動させた。いわば一人乗りの小さな『空飛ぶじゅうたん』。そこに乗り込んですぐに浮遊を始める。
「これで何をしたいの?」
「えっと、二人とも。俺の姿が見えるかどうかをきちんと確認してみてくれ」
よし。
ここで俺の『隠蔽スキル』を発動させるぞ。
『隠蔽!』
「「えっ!?」」
「ちょっと待って。本当にサイの姿が消えちゃったわ。一体どうなっているの!?」
「詳しいことは言えないが、俺が持っているスキルに関係しているんだ」
そう姿を隠しながら話を続けてみる。なるほど、姿を消しても自身が発した声は伝わるのか。
とりあえず、隠蔽スキルは魔力反応を消す以外にも使い道があるようでよかった。
これは当たり前の使い方なはずだが、信頼のおける人間にしか頼めないことだ。それにこの世界には鏡が無いから、自分で確認することも難しい。
さてと……。
問題は次だ。
とりあえず隠蔽を解除。
「あっ、見えた!」
「実験は成功だ。しかし俺が本当にやりたいことは次のテスト次第だな」
「言いたいことが分かったわ。今度は私たち姉妹も乗せて姿が消えるかどうかをテストするんでしょ?」
「その通りだ。と言っても確認する人間が必要だから、一緒に乗るのはユエにお願いしようかな。という訳でノエル、俺たちの姿が消えるかどうかを確かめてほしい」
「分かったわ!」
さっそく、先ほどのものよりも大き目の空間魔法の板を作り、ユエと俺が乗りこむ。
ここまでは良い。
問題は次だ。
「よし。姿を消すぞ」
『隠蔽』
「成功よ。二人ともきれいさっぱり消えたわ。空間魔法の板も見えないし、完全に見えないわ。これなら声を出さなければ発見されないでしょうね」
『隠蔽解除』
「そうか。それはよかった。大成功だな! それじゃ、これに乗って電撃魔法が習得できるというラティアスまで行こうか?」
「ええ。ゆっくり休めたし、すぐ出発したいわ」
「しゅっぱつ~~」
◇
さすがに空間魔法での飛行は速度が段違い。
身体強化スキルで駆け抜けるのもそれなりのスピードが出るが、やはり路面や周囲の状況を気にしながら進む手前、効率がどうしても落ちてしまう。
休みを挟みつつ飛ぶこと小一時間もしない内に目的地のラティアスが近づいてきた。
今回は街の手前で飛ぶのをやめたりはせず、かなりギリギリのところまで近づいてみる。何しろ隠蔽スキルを発動させているのだから。
さすがに3人も同時に乗るとMPの消費が激しいが、それでも上限が上がったことでかなり余裕がある。
ふむ、なるほど。
前情報の通り、それなりに大きそうな街だ。
街に入って宿を探すが、やはりいくつか見つかった。女の子二人がいるので、大きくて清潔な宿を選んでチェックインする。
明日は冒険者ギルドを覗いてみるとしよう。