155話. 隣町でイモだらけの夕食会
しばらく飛行を続けているとガイの言う通り、確かにこぢんまりとした集落が見えてきた。あそこがコルテアに違いない。
いつもの如く、かなり手前で地上に降りて、慎重に歩いて進んでいく。
「どんな食べ物があるのかなぁ??」
ユエがお腹を空かせましたと言わんばかりの表情でそう尋ねてくる。
「そうね。畑のようなものが見えたから、何か植えているのかも。どんな料理があるのか楽しみだわ!」
「まぁ、その辺りについても訊けばすぐに分かるだろう」
集落は空から見た通り、かなりこぢんまりとしていた。
とりあえず腹が減った。
みんなで夕食が食べられそうな場所を探すと、いかにも地元民が集う感じの飯屋が見つかった。外にもテーブルが出されており、中にも外にも客がたくさん。よくよく繁盛している。
さっそく店内に入る。
「いらっしゃい! おやっ、あんた方は見慣れない顔だね。こりゃ珍しい。旅の者かな?」
「そうだ。俺たちは旅をしていて、ようやくここに辿り着いたんだ」
以前の失敗を活かし、けっして『ランドコール』から来たとか、『集落』などという言葉は使わない。
ランドコールについては下手に情報を出さない方がいいだろうし、地元民がこの集落を “大きな村” と考えている可能性があるからだ。もしそうだとしたら、下手にプライドを傷つけて面倒なことになるかもしれない。田舎だからこそ気を遣う必要がある。
もう一人の店員のおじさんが代わりに答えてくれる。
「そうなのか。遠いところからわざわざ……。ここはイモ料理が名物だからぜひ召し上げっておくれ」
「イモ料理だって、ユエ。どんな感じかしら?」
「おいも、おいもッ!」
今の会話を聞いてユエのテンションがおかしくなってきた。
さて、席についてよくよくメニューを眺めてみると、これはビックリ。
ほとんどすべてがイモ絡みじゃないか。
イモ、これもイモ、これまたイモだ。
ただ、おそらくそれぞれ全く別の料理に違いない。例えるならば、小麦。粒を丸ごと利用したフレークや麦飯というよりかは、粉になり多彩な料理に化ける、そんな具合だ。
このイモも切ったり、すりつぶしたり、乾燥させたり、水に晒してデンプンを取り出したり……。考えられるありとあらゆる手段を使って芋料理を作っているようだ。
この溢れんばかりの情熱は一体どこから来るのだろうか?
「あー、すまないが、この店で定番の品をいくつか頼みたい」
「あいよ!」
このような適当な注文でひとまずは料理が出てくるのを待つ。この世界ではこうした注文方法にすると失敗が少なくてバッチグーだ。
「……ところで訊きたいんだが、どうしてこうイモが使われているんだ? 名産なのは分かるが、それにしても、それもこれもイモ押しが凄いのが気になるところだな」
「それは簡単だ。私たちはけっしてイモが大好きだからこうなった訳じゃない。いや、確かに好物ではあるがな。ただ、この辺りの痩せた土地では育つ作物がイモ位しかなくてな。だからこそ、イモを美味しく飽きずに食べる工夫を長年にわたってしてきたんだ」
「なるほど、そうなのか。それじゃあ、周囲にある畑はイモを育てているのか」
「そういうことだ。もし時間があったら、明日にでもウチの畑を案内しよう」
「おぉ、それは面白そうだな。どうする、二人とも?」
「何だか興味深いわね。ぜひ見学したいわ!」
「私も見てみたい!」
「そうかそうか。それじゃあ、明日になったら店に来てくれ。飯時以外なら案内するから」
「ありがたい。よろしく頼む」
まずはお通しのような感じで短冊切りの生のイモが出てきた。特製のソースに浸してそのまま食べるらしい。
うむ。山芋のような味と食感だ。
「なるほど。シャリシャリとした食感でなかなか美味いな」
「そうだろう! とくにお前さん達が食べているのは2メートルものだから上物だ」
「うん? その2メートルものというのは一体……?」
「ああ、それはイモが埋まっている深さのことだよ。深くなればなるほど美味いんだ。このイモは3メートル近くまで成長する種類でな。先端付近が一番美味なんだが、他の街に出してしまって我々のような住民は食べられないんだ」
「それは興味深いな。それほど長いイモだとはな」
こうした会話の後に出された料理はそれなりの味だった。いや、確かに美味しい料理の数々なのだが、やはり元がイモなのでお通し以外はどれもこれも重い。もし大食漢ならもう少し楽しめたかもしれない。
ちなみに俺のお気に入りはまるでハッシュドポテトのような揚げ物だ。外はサクッとしていて中はジューシー。すばらしい一品だと思う。
さて、腹を膨らませに来た我々だったが、なぜかこのような経緯で芋畑の見学に参加することになった。やはり旅は面白い。
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