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144話. 試験官は見た!

 

 私はここミナスの街の冒険者ギルドで試験官をしているランドルフという。


 試験官といっても担当しているのは低レベルの冒険者のランクアップだ。そのため優先度は低く、いわば閑職といってもいいかもしれない。お世辞にも花形とは言えないだろう。


 地味だしつまらない仕事だ。


 そうは言っても、これで給料を貰っている訳だから文句を言うのはお門違いだ。それに低ランクだろうが、きちんと冒険者のランクを管理する仕事は重要だ。何しろたった1ランクの差が冒険者の人生を左右してしまうこともあるのだ。


 それに万が一でも適当な審査で後々問題が起こると面倒なことになる。

 実際、過去にはそういったことがあった。


 だからこそ、冒険者の昇級審査は厳密かつ公平にしなければならない。


 そんな正義感にあふれる俺だが、この特別昇級試験の時だけはつい甘く採点してしまいたいこともある。何しろ観客のほとんどは冷やかしというより、挑戦者の雄姿を熱く応援しているからだ。


 その期待感を裏切ってしまうようで、何だか申し訳ない気分に陥るのだ。


 ともあれ、これは客観的に公平な試験だから、実際のところは試験官の俺が付け入る隙などほとんどない。


 例えば、的は筒状になっているから、中途半端に傾いて終わりということはありえない。倒れるか倒れないかの二択しかない。


 そして、試験時間についても観衆の中にも複数人が計測しているから、これもあからさまな誤審など見逃してもらえない。


 このE級からD級への特別昇級試験は内容だけを見ると簡単そうだが、実際はそう容易い試験ではない。


 事実、私が過去に担当した数百人の中で合格したのはわずか6人のみ。そのいずれも今ではB級以上の冒険者として活躍している。


 今日行う試験もおそらくは不合格だろう。残念だが、やる前から分かり切っていることだ。



 ◇


「やはりダメだったか……」


 予想通り、この男も時間内に的を5つ倒すことは叶わなかった。

 無理もない。


 やはり難易度が高すぎる。


 前々から思っていたが、これを通過してもD級にしかならないのだから、難易度をもっと下げてしまった方がいいのかもしれない。


 だが、これは私の一存で決められるようなものではなく、もっと言えばミナス地区のギルドでさえ勝手に変更はできない。地域間の公平性を考えれば致し方ないことではあるが……。


「なぁ。これって俺も受けられたりするのか?」


 何だとっ!?


 今の試験の様子を目の前で見ておきながら、それでも挑戦したいという者が出てきたのか!


 今日は豊作だな。


 この若者なら、あるいは。


 しかしそれよりも驚いたのは彼がギルドでの手続きを終えて戻ってからだった。あろうことか、彼は『2ランクアップ』の特別昇級試験を受けると言い放った。


 これは……。たまげたなぁ。


 確かに一回の試験であわよくば2ランクアップとなれば、色々と利点が大きい。それに特別昇級試験を通過してとのことであれば、それだけ箔が付く。


 だが、これは過去に二回しか合格者が出ていない。

 それも三年前の話だ。

 特例中の特例。


 こんな今日たまたま昇級試験の存在を知ったような若造がおいそれと通過できるような甘っちょろい試験ではない。


 見たところ弓矢を持っていない。投げナイフでも無いとするとやはり火焔魔法だろうか。


 さぁ、どんな魔法で倒すのか。

 これは見ものだな。


 俺としては有料の試験だから、ギルドの収益が増えるので不合格でもそれはそれで良い。


 とりあえず準備も終わったことだし、いよいよ試験のカウントダウンを始めるか。



 ◇


「はっ!?」


 そんなバカな。


 今、何が起こった。


 ゴシゴシゴシ。

 目をこすって見てみてもやはり的は全て倒されている。


 いや、待て。

 あれはファイアー・ボールだったよな。

 しかも微妙に曲がりながら筒に当たったか?

 訳が分からないぞ。


 長年ここで試験官を務めてきた私でもこんなのは初めてだ。


 そもそも一つも的を外さずにあの連射性能を維持できるものなのか。


 これはとんでもない野郎が現れたな。


 文句なしの合格だ。


 だが、これは波乱の予兆でもあるかもしれない。



最後まで読んで下さり誠にありがとうございます!


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