143話. 圧倒的な力で瞬殺する
さて、俺が試験会場に戻るとそこにはやはり黒山の人だかりがあった。
係員が的の準備を始めるとともに、試験官がアナウンスを始める。
「あーー、ごほんごほん……。先ほどの試験とは別に、急遽、ここにいるE級冒険者のサイが特別昇級試験を受けることになった。しかも聞いて驚くなかれ。何と【2ランクアップ】の特別試験だ!」
……すると、周囲がざわめきに包まれる。
「「うぉおおおおおーーーーーー」」
「「「スゲー!!」」」
「おい、マジかよ!? こりゃ見ものだ!」
それを聞くやいなや、すぐさま数人が飛び出してどこかへ消えてしまった。……と思いきや、どこからともなく続々とさらに人が集まってきた。
ウソだろ。
さらにギャラリーが増えるのか。
やはり2ランクアップは別格の試験らしい。
結局、先ほどの試験よりも観客というか野次馬の数が大幅に増えてしまった。
現時点で1.5倍くらいだろうか。
まったく一体どこから湧いてきたのやら。
さて、少し間をおいて静まった頃合いを見計らって、試験官が話を続ける。
「知っての通り、2ランクアップの試験は受験料が必要なだけではなく、失敗した暁には1万クランのペナルティーも発生する。そのためか、この試験を選ぶ受験者は数少ない。君たちはそんな試験を見れて運が良いな。しっかりと結果を見届けてもらいたい」
……とまぁ、こんな仰々しい感じで説明が進み、いよいよ試験が始まる段になった。
俺は先ほど男が試験を受けた場所に移動し、ざっと見渡して的の様子を眺めてみる。
ふむふむ。
先ほどの試験よりも的の数は倍になっているが、それでも10個だけだ。しかも動かない的。外して良い魔法は3発までと変わらない。
『これは勝てるな』
とはいえ、使う魔法の選択肢を誤ると大変な騒動になるから慎重にしなければ。
う~ん、そうだな。
よし決めた。
あの魔法を使おう。
この場面に打ってつけのあの魔法。
とは言っても俺が使うのは難易度の低い戦闘火焔魔法だ。
それもファイアー・ボールという何の変哲もない魔法。
だが、ここで試すには持ってこいの使い方がある。
今こそ俺がその真価を測るのに最適な機会だ。
◇
「それでは、試験を始めるぞ。カウントダウン開始。5、4、3、2、1、始め!!」
シュパッ(×10)
……ってな感じでファイアー・ボールをほとんど間髪入れずに連射していく。
「ふぁっ!?」
「噓でしょ!」
「い、今、一体何が起きた。何がどうなった?」
「えっ。まさかもう終わったの? 的が……倒れてる!?」
そう、的は開始直後に全て一瞬にして倒れされている。しかも10発10中で外れなど一つも無い。
まだ群衆がざわめきに包まれている。
そりゃそうだろう。
俺に与えられた試験時間は3分間だが、わずか数秒足らずで決着したのだから。おそらく10秒も掛かっていない。
「ご、合格だ! E級冒険者サイの特別昇級試験は合格とする。よって、2ランクアップをここに認める!!」
「おぉーーー」
試験が無事終わったとみるや、ノエルとユエが小走りで駆け寄ってくる。
「サイ!」
「サイさん、すごかったよ。まさか一瞬で全部倒しちゃうだなんて」
「そうよサイ、何が起こったのかまったく分からなかったわ!」
ここで種明かしをしよう。
先ほどの情報通り、俺が使ったのは単なるファイアー・ボールに過ぎない。ただし、その使い方が今回の肝だった訳だ。
まず開始の合図と共に、目の前にそれぞれ計10個のファイアー・ボールをワンテンポ遅らせつつ連射させた。今の俺の力をもってすれば、この程度の魔法ならクールタイムはわずかコンマ秒ほどだ。まったく問題ない。
ただし実力を隠すため、わざとインターバルを挟んでいる。
ここでポイントになるのが、この射出の時点では完璧に照準を合わせていないという点だ。
通常、ファイアー・ボールは直進しかしない。
しかし俺は先の『ホーン・ディア』の狩りの際に、ファイアー・ボールの進路を曲げることができるという事実に気が付いている。
なので、球速を的の直前で急激に落とした。そうしてゆっくりとした弾道にしておき、細かい照準を後付けで行うことにしたのだ。しかも球の大きさは普段よりやや大き目だ。
こうしてほぼ同時に10個の的を全部倒すことに成功した。
以前、『ビッグ・スパイダー』を倒した時の経験が見事に生きた。アレと比べると、こちらは的が圧倒的に小さい。
だが、そうは言っても動かない的だ。
当てるのはそれほど難しいことではない。
我ながら完勝といっても差し支えない位の気持ち良い試験だったな。
まぁ、この火球が曲がるという事実に気付いたのはクレアのおかげだから、彼女に感謝しなければ。
これで本当にランクアップ出来れば嬉しいのだが。
よもや『ごめん、やっぱり今の無しで!』などの展開にならないことを祈ろう。
その手続きが終わったら、いよいよ土石魔法の攻略だ!
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