125話. スキル・コレクター
目の前に置かれている頑強そうな金庫。
ついに今、その扉が開かれた。
夢にまで見た憧れの遺物がまさに目と鼻の先だ!
開いた金庫の中を食い入るように見つめる。
『なるほど、これらがソレか!?』
思わず目が見開いてしまうほど興奮してしまっている自分がいる。
だが、現状では俺はスキルを習得していない。いや、できない、といった方がより正確だろう。
見える範囲内ではおそらく3つの遺物があるようだ。それぞれ白い布を被せられ、中の様子はよく分からない。
このような状態では俺の翻訳パワーが発揮されない。
「それでは、布を取っていくね」
そうブロドリオが言い終わると、慎重に布を取り外していく。
石板、石板、そして最後に粘土板が姿を現した。
布が取り除かれる度、頭の中にいつも通りの音声が鳴り響く。
「スキル 防御を取得しました」
「スキル 隠蔽を取得しました」
おぉーーーー!?
よし、成功だ。
ひとまずスキルを2つゲットだぜ!!
……って、あれ? もう一個は??
あぁ、そうか。
もしかすると、アレかもしれない。
そう。ブロドリオが持っているスキルは全部で5個。その内の1個が『身体強化』、つまり俺が既に持っているスキルだ。
既に2つのスキルが得られたのだから、これらすべてはスキルを得られる “本物” に違いない。となると、やはり俺の推測通りなのかも。
俺がとくに欲しかったスキルは【魔力感知】と【隠蔽】。
とりあえず、まずは後者が無事に手に入った訳だ。
ひとまず目標達成と言いたいが、まだ完全試合というには物足りない。
金庫の中に入っていた遺物はこれら3つだけ。
他には何も見当たらない。
これだけの立派な金庫で中身はスカスカ。となると、やはりこれらの遺物が特別な扱いを受けていることがよく分かる。
「おぉーーー!? これは凄いな。素人の俺にも普通じゃないのが分かる。何というか、肌で感じるんだ。オーラって奴をな!」
うっ。自分で言っていてアレだが、あまりの中二病な発言にドン引きだ。
それはともかくとして、発言した内容としては本心そのもの。何しろどう見ても雰囲気がヤバい。縁取りの装飾や文字のまがまがしさが異彩を放っている。
「これらがスキルを習得できる確実な遺物なんだよな?」
答えてくれるか分からないが、とりあえず聞くだけ聞いてみよう。
「そうだ。これらが私の持つコレクションの中でも中核を成すものだ。価値はそれこそ計り知れない。君は見るのが初めてだろうが、これが『本物』だよ!」
そう言って、ブロドリオはニヤリと歯を見せて微笑した。
まぁ、そうだよな。自慢したい気持ちは痛いほど分かる。
そうだ!
こんなことを考えている場合じゃなかった。
「いやー、非常に素晴らしい物を見せてもらった。非常に感激している。大変ありがたい。これは俺にとって一生の記念になるな!」
こう考えたばかりの口先ばかりのお世辞を言うと、いかにも「そうだろ、そうだろ」という顔を見せる。だんだんと本性が現れてきたな、ブロドリオ。
「これら以外にもスキルが習得できる遺物はあったりするのだろうか?」
「いや。見ての通り、私が所有する現物のコレクションはこの3つだけだね」
う~む。これはおかしい。
単純な話、彼が持っているスキルの数と遺物の数が合わない。
あぁ、そうか。
「ひょっとして、スキルを習得できる複製品があったりするのか? せっかくなので後学のために、あればそれも見せて欲しいのだが……」
そのように俺は頼み込んでみた。
「確かに1点だけだが、一応は所持している。あくまでも複製品ではあるが……。それでも効果を発動させるために相当なお金と時間を費やした一品だ。こちらも翻訳は見せられないが、もしそれでも良かったら、せっかくなので見せてあげよう」
もちろん即座に了承する。
しかし、なるほど。やはりか!
魔法とは異なり、『スキル』は遺物の複製品や複写でも習得できるとラクストンから聞いていた。どうやら普通に複製しただけでは効果が発揮されないらしいが、それよりも1個しか無いという情報の方が重要かもしれない。
合わせて5つのスキルを持っているのに、遺物が3つに複製品が1点だけ。
まだ数が合わない。となると、ギルドかどこかでスキルを会得したと考えるしかない。そうか、その線があったか。しまったな。
となると、最悪、この研究所では『魔力感知』を習得できない可能性が出てきてしまう。あとは運任せだ。
「付いてきたまえ」
そう言い残し、ブロドリオは部屋の中の扉を開けて隣の部屋に入っていった。俺も迷わず後へと続く。
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