123話. まるで隠れ家のような遺物だらけの研究所
ははぁ、この建物がそれか!
ようやく到着したブロドリオが所有するという研究所。
さすがにそれなりに大きい。
研究所は森の中にポツンと佇んでいる。近くに関連した小屋がいくつかあるが、完全に世俗からは隔離されているようだ。
肝心の研究所は見たところ石造りで2階建て。やたらと横に長くなっている。例えるならば、団地の小さめのアパートといった感じだろうか。
さすがに貴族の建物だから外装は立派そのものと思いきや、意外に地味だ。おそらくは泥棒除けで、あえて『お金が無さそう』な雰囲気にしているのだろう。
「「「ご主人様、ようこそお越しくださいました!」」」
建物の中に入ると、ずらりと研究員と警備員が勢ぞろいして大げさな出迎えをしてくれた。皆、深々と頭を下げている。
この世界に来て、こんな対応をされたのは今回が初めてだ。まぁ、俺に対してではなく、厳密にはブロドリオに対してだろうが……。
兎にも角にも、俺はブロドリオの来賓という扱いでここに来ている訳だから、あまり酷い扱いにはならないはずだ。まさに虎の威を借る何とやらだ。ここはその威光に甘えようじゃないか。
それにしても、我々がここに来るという情報が事前に筒抜けだったのか。
研究所を訪れる件はつい先ほど決まったばかり。さすがは貴族。我々の馬車があちこちダミーの道を通っている間に、早馬を飛ばしたのだろうか。あるいは鳩を飛ばして情報が伝わっていたのか、いずれにせよ手際が良すぎる。
「ここが私の所有する研究所だよ」
そう言いながら自慢げに手を大きく広げるブロドリオ。だが、変な装飾語は付けず、けっして『この地域で一番』だとか『素晴らしい』とかそういった美辞麗句は一切言わない。そういう謙虚な姿勢には好感が持てる。とはいえ、それは必ずしも朗報であることを意味しない。
逆に言えばそれは、この男はそれだけ頭が良いということの裏返しに他ならない。むしろここはしっかりと気を引き締めて、不審がられないよう慎重にスキルを習得しなければならない。
「見ての通り、入り口周辺は各地から『遺物』を運び込むため、広々と空間を取っているんだ」
確かに。入口近くのスペースは広くなっている。その奥も大きな台が並べられている。ここは発掘されたばかりの遺物をとりあえず置いておくための場所のようだ。確かに研究以前に整理は重要だしな。その奥の部屋には棚がぎっしり。土器などの遺物が所狭しと並んでいる。
ほう。
これが遺物のコレクションね。
なんと膨大な量なのだろう。
すげぇ。
「これが私の所有するコレクションだ。厳密にはギルドも関与しているから、共同所有ということになるが……」
俺が返事をしようとすると、それを見透かしたようにこう続けた。
「そうそう。秘蔵のコレクションは上の階に保管されている。ここから先はごく限られた人しか入れない。本来ならばお客人であっても護衛を何人か付けるんだけど、今日はサイ君と私の二人だけだ」
「えっ!? 大変ありがたい申し出だが、それで大丈夫なのだろうか?」
「そうだね。今回の一件では、あろうことか我が家が大恥をさらしてしまった訳だからお詫びの証だと受け取ってくれると助かるよ。これで本当に埋め合わせになるのか分からないけれど……」
そう言われて見ると確かに、そうだな。確かに護衛が付くとなると、俺のことを信用していないということになってしまう。
そもそも遺物のコレクションを見せて欲しいなどという無茶な要望が通ったのはそれが理由だ。さすがはブロドリオ。筋を通すイイ男だ。
「屋敷に置いてきたアンラ嬢のことも気になるだろう。先にメインディッシュと行こうじゃないか。2階へどうぞ!」
そう言われてしまうと、逆に恐縮してしまう。だが、この好機を逃すのはあり得ない。このためにダンスの猛特訓をしたのだから。そして決闘も制してコレクションを閲覧する権利を得たのだ。
一歩一歩、重い足取りで階段を登っていく。
正直、『ここまでしてスキルが手に入らなかったらどうしよう』などと思わなくもない。その気持ちとは裏腹に、今回ばかりはどんな結果でも納得できてしまう自分がいる。
何しろここ数週間で貴族としての振る舞いや作法を学べたし、あまつさえ有力貴族ブロドリオとのコネもできた。俺にしてはよくやったと思う。既に成果としては十分すぎるだろう。
そんなことを考えている間についに上階に到達してしまった。
さぁ、いよいよ秘蔵のコレクションとご対面だ。
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