122話. ひょんなことから魔法とスキルの違いについて学ぶ
馬車は特別仕様といっても、実際にはごくごく普通のものだった。
とは言うものの、事前の説明と違わず、確かに窓が一切ない。そして、ホロが付いた布張りのような質素なものではなく、木枠で組まれたしっかりした造りになっている。
さすがは貴族が使う馬車だ。とりあえず俺が今まで乗ったことのある馬車の中では一番立派であることは間違いない。
さて、これからどれ位の時間の旅になるのか分からないが、俺の中で予想していることは次の通りだ。
まず、ブロドリオの研究所はここからさほど離れていない場所にある可能性が高い。
理由は警備諸々のし易さもあるが、やはりブロドリオ本人が行き来するのに便利な場所にするのが普通だと思われるからだ。
それは当然のことだろう。あまりにも遠い位置にあれば、すぐに行くことができず、何かあったとしても迅速に駆け付けるのは困難だ。
次に鍵となる『スキル』を確実に習得できる遺物の量。
これは憶測の域を出ないが、おそらく数はごく少数に留まるだろう。理由は簡単。彼の持っているスキルが【身体強化・防御・魔力感知・威圧・隠蔽】の5種類しかないからだ。
もし他にもそのような遺物があるとしたら、それはまだ未解読でスキルを習得できなかった遺物に違いない。ただ、現状としてスキルを獲得できることが確定的なのはおそらく5点のみだ。
とは言うものの、価値の低い土器片などを含めた『遺物』全体のコレクションは膨大かもしれない。
さて、この中では俺がとりわけ欲しいのは『魔力感知』、次点で『隠蔽』だ。これらに関連する遺物を見せてくれるかどうか、あるいは閲覧できる場所に置いてあるかどうかが問題だ。
「ところで、君はどうして『遺物』に興味があるんだい?」
おっと、不意に対面に座っていたブロドリオが話しかけてきた。しかもマズいことに、答えにくい厄介な質問だ。
こうして馬車に乗ることにより、二人だけで話せる時間が出来たのは嬉しい誤算だ。
だが、うかつに変な回答をしてしまい、警戒されてしまうことだけは避けたいところ……。
これは試されているかもしれない……。
返答次第で今後の行く末が変わるほどの面倒な問いかもしれない。
「それには色々と理由があるな。まず俺は太古の文明に興味があるんだ。既に消えてしまった人々の生活や文化を思い浮かべるだけでも楽しいだろう」
ひとまずは、『うんうん』といった様子で話を聞いてくれている。だが、これだけでは下心を簡単に見透かされてしまうだろう。
そこで偽装がてら本音も少しだけ織り交ぜていく。
「あとはそうだな……。やはり『スキル』を習得できる遺物を見てみたいという欲も無くはないな。例えスキルを習得できなくてもどんなものか見てみたい」
「なるほど、確かに『スキル』を習得できる遺物を見る機会は貴族でさえも滅多にない。ましてや平民がおいそれと直に見ることはかなり難しいだろう。それこそサイ君のような特殊な場合を除いて、その希望が叶うことなどまずあり得ないことだ」
少し間をおいてブロドリオが続ける。
「本来ならばコレクションといっても、中核をなす重要なものは見せられないのだが、今回は事情が事情だ。特別に私の秘蔵のものをお見せしよう。それで埋め合わせになればいいのだか」
「それは有難い。是非ともお願いしたい」
「うむ。……そうだ。ところで君は魔法とスキルの違いを知っているかね?」
不意にブロドリオが変な質問をしてきた。
またもや回答に困る内容ではないか!
貴族相手にあまりにも適当な返答は好ましくないだろう。見くびられて貴重なコレクションを見せる気が失せた、といった事態は避けたいところ。
だからと言って、本質に迫るような情報を出すのは、まるで俺の手の内をさらけ出すようなものだ。となると、それなりの考えを開陳するのがいいだろうか。
「それは難しい質問だな。そもそも俺はスキルのことはよく知らないのだが、おそらく『魔法』と『スキル』は互いによく似ている。もしかすると根っこは同じものかもしれないな」
まぁ、当たらずといえども遠からず…… といったところか。
「おぉーー! 凄いな、君は。まさにその通りだよ」
あっ、しまったな。
もう少し微妙な回答にしておけば良かった。
「そうだ。サイ君が言った通り、我々としては根っこの部分は同じだと考えている。つまりは魔法とスキルは同様なものである、と……」
「だが、両者は別の物だろう。その違いが何なのか気になるところだな」
「それは簡単に言えば、『広く浅く』か『狭く深く』といった違いがあるんだ。つまりスキルは魔力を面のような感覚で体全体を使って発動する。それに対して魔法は一点集中。例えば、日常火焔の基礎魔法『トーチ・ファイアー』は指先に魔力を集中させるだろう? まさにそういうことだ」
なるほど!!
あぁ、これはすごいや。
一瞬にして、これまでの経験や知識が俺の頭の中でリンクして互いを結び付いていく。今まで無関係だと思えた情報がそれぞれ結び付き、それが意味の成すものに変貌する様を今まさに体感しているのだ。
そう言われて見れば確かにそうだ。
魔法とスキルはよく似ている。
これは俺がわりと昔から感じ取っていたことだった。
ブロドリオが言うところの面か点かの違いについても納得できる。
今のところ俺の持つスキルは少ないが、例えば『身体強化』のスキル。これは体全体の力を底上げしてくれるものだ。同じく『鑑定』もおそらくは五感を巻き込んでいると考えれば、結論としては正しい。
対して魔法は体の特定の部位に魔力を集めるというのも頷ける。それは『ファイアー・ボール』や『偽装火球・極』、放水魔法でもその点について違いはない。
もっとも空間魔法について言えば疑問が無くも無いが、いつも手を伸ばして魔法を発動させていた。
それに例えば、『ディメンション・カット』でも手の先に魔力が集まっている感触が残ることを考えれば、さもありなんといったところか。
う~ん、すごいな。
パラダイムシフト、ここに極まれり。
「着いたよ。ここだ!」
興奮冷めやらぬ内に、ついに遺物の研究所に到着したようだ。小一時間ほどのドライブだった。
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