119話. 家の主
こうして俺の一太刀が決まった直後、いそいそと数人の男達がホールに駆け込んできた。
「こちらです、ブロドリオ様!」
あぁ、なるほど。
ようやく真打の登場か。
背の高い、身の覚えのある男がそこにいた。
超巨大な亀の魔物『インペラトール・トータス』討伐の “功労者” ことブロドリオその人だ。
「おい、お前たち、一体何をやっている!? 私のいない間に一体ここで何をやっているんだ、と訊いている!!」
開口一番、そう口にした。
えらくご立腹の様子だ。
もしかしなくても、オベロンは事前に決闘のことを彼に話すら通していないのか。
これはちょっとびっくりだな。
あまりにも常識が無さすぎる。
ブロドリオは仮にも当主だぞ。
いくら弟とはいえ、よもや勝手にしでかしたことだったとは……。
「こ、これはブロドリオ卿。今は平民のこ奴に『貴族の矜持』を指導していたところでして……」
「勝手に決闘を挑み、そしてあまつさえ無様に負けることが貴様の【矜持】なのか?」
「そ、それはですね……。あ、いや、不正だ! こいつは剣に細工をしやがったのです。こ、これを見てください。魔剣が斬られるなんてことは……」
「馬鹿者!! 家宝の魔剣を勝手に使い、ましてや壊すなど、何たる失態だ。それも神聖な舞踏会の場で……。貴様は部屋に下がって謹慎していろ。処罰は追って言い渡す!」
「そ、そんな。同じ家族の一員じゃないですか。許してくださいよ~」
「お前、まだ自分のしでかしたことが理解できていないようだな」
「ほへっ?」
「周りをよく見てみろ!」
ブロドリオはそう言って、周囲をグルっと指さした。
うん。周囲にいたギャラリーの貴族達はまるでゴミを見るかのように、オベロンに蔑んだ視線を送っていた。顔が引きつっている者も多数いる。
「こ、これは……。あの、その」
「決闘に負けた貴様は潔く敗北を認めることもせず、あまつさえ魔剣を使ったな。どこが『貴族の矜持』なのか言ってみろ?」
「……」
ついに一言も話せなくなったオベロンは、執事に肩を支えられながら静かに会場を後にした。
パンパンとブロドリオが手を叩いた。
どうやらこれで『余興』は終わったようだ。
人垣は崩れ、またホールには会話が溢れつつある。
さて、俺はどうしたものかと思っていたら、そのブロドリオご本人がゆっくりとこちらに近づいてきた。
「この家の主人で領主のフランボワーズ=ブロドリオだ。此度の件は誠に申し訳ない」
そう言って、男は深々と頭を下げた。
貴族のプライドがあるだろうに。
オベロンとは違って筋を通す人間なのだろう。
「まずは頭をお上げください。こちらこそ平民の分際で出過ぎた真似を……」
だが、ブロドリオは俺の言葉を遮った。
「いや、それは関係ないよ。我々の招待に応じて参加した者は漏れなく来賓として扱うことになっている。そこに貴族も平民もない。それを言ったら執事も平民だろう」
なるほど、一理ある。
だが、そうキッパリと言い切れる器がある人間はそう多くはないはずだ。
今のやり取りを聞いていたアンラも参戦する。
「私からも今回の一件は大いに反省致します。フルストファー家の代表として、今後は気を付ける次第です」
「先ほど言った通り、今回の件は完全に我々の身内がしでかした失態だ。お詫びしなければならないのはこちら側であることは疑いようがない。落ち度は我々にある」
ブロドリオが言葉を続ける。
「そうだ。決闘を制した君の名前を教えてくれるかな?」
「俺はサイと言うが……」
「そうか、サイ君と言うのか。がぜん私は君に興味が出てきた。今回のお詫びにお茶でもいかがかな? もし何か希望があれば遠慮せずに言ってくれたまえ。私に出来る範囲内なら叶えられるよう努力するのだが……」
おぉ!!
これはまさに渡りに船。
埋め合わせをしてくれるのであれば、《《あのお願い》》をするのは今しかない。
もしかすると適当に小さな願い事にした方が無難なのかもしれないが、これを逃す手はないと自然に本能がささやいてくる。
ここは思い切り下手に出て粗相のないようにしよう。
「それでしたら、僭越ながら申し上げます。私にブロドリオ様の『コレクション』を拝謁することは叶いますでしょうか?」
「ほう。コレクションとは何のコレクションかな?」
「可能でしたら【遺物】のコレクションを見てみたいのですが……。聞くところによると素晴らしい物をお持ちだとか」
「ふむ。通常ならば許可できないが、今回は事情が事情だ。特別に許可しよう。そうだな。舞踏会が終わった後に案内しようと思うが、それで構わないかな?」
「それは有難きお言葉。是非ともよろしくお願いいたします!」
こうしてまたもや予想外な展開になってきた。
驚くべき事に、決闘の対価としてコレクションの拝謁許可を勝ち取ったのだ。
とはいえ、スキルを得るまで気を抜けない。
俺の戦いはまだ続く。
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