118話. 魔剣には負けんよ
一瞬の隙を突いた俺の一撃によって、オベロンは剣を失った。
本人だけでなく、周りを取り巻いている観衆も想定外の出来事に呆然としている。
立会人の執事が動揺した表情で他の執事数人と顔を合わせた後、何かを言おうとした。
「し、勝負あ……」
よしっ、武器が無いならこれで俺の勝利は確定だな……、とそう思った。
そりゃそうだろう。
しかし実際には、これで決闘が終わった訳ではなかった。
「まだ、勝負は終わっていないぞ!」
オベロンは武器を抱えたままの執事からむんずと魔剣を奪い取り、その力を発動させた。
おぉ、剣全体からまがまがしい赤い光が放たれる。
そうか、これが魔剣か。すごいな。
そう感心していると、猛烈な勢いでオベロンが剣を前に突き出したまま飛び込んできた。
あっぶねぇ。
思わず身体強化スキルで壁際まで飛び下がる。
だが、オベロンがすかさず突っ込んでくる。
コイツ、俺を殺す気か!?
この一撃はしゃがみ込んで回避。
ガチャン!
あぁ……。
あろうことか奴の剣が直撃した花瓶が真っ二つになって上半分が落ち、そして粉々に砕けた。
コレって、もし避けなければ俺が代わりに二つになっていたということだよね。
これが魔剣か。信じられないほどの切れ味だ。
台に乗ったままの花瓶は綺麗な裁断状になり、水を垂らしている。
もう頭に来た。
先ほどは高価な武器を破壊しないようにわざわざ『弾き飛ばした』のだが、もうそんな気遣いは不要だろう。
シャキン!
再度、俺に向かって切りかかったオベロンの剣に向かって、自分の剣を強く打ち当てた。
「えっ!?」
オベロンが動揺した声を上げる。目を大きく見開き、心の底から驚いている様が見て取れる。何が起こったのか全く理解できていないようだ。
確かに驚くのも無理はない。
あの『魔剣』が真っ二つになってしまったのだから。
「う、ウソでしょ!」
「一体何が起こったんだ?」
「魔剣があんな剣に負けるだなんて!? ありえないっ!!!!」
もちろん観衆も同様を隠しきれていない。
ここで種明かしをしよう。
言わずもがな、この程度の剣であの切れ味の魔剣を両断するのは不可能だ。
つまり、ここで俺は【禁じ手】を使ってしまったのだ。
これはあまりにも危険なので、わざわざ封印していた俺の奥義とも言えるそんな技。
実は刃先に沿う形で、こっそりと空間魔法を薄く広く展開していたのだ。
どういうことかと言うと、目立たないよう最小限の魔法で刃先に空間魔法を発動させただけなのだが、これが絶大な力を発揮する。
どうやら空間魔法はありとあらゆる物体を消去できる能力があるらしい。
それを利用したのだ。
ちなみに先ほどの「シャキン!」という音は切り付けた際に生じたものではない。真っ二つになった刃が床に落ちた音である。
空間魔法が持つその消去能力に気が付いたのは割と最近のことだ。とはいえ、やっていることとしては『ディメンション・カット』とほとんど変わらないだろう。
何も空間魔法の展開は小さくても効果があるのだ。
相手が魔剣であろうと何だろうと問題ではない。
目の前にある物質すべてを消去できるのが空間魔法なのだ。
俺はルノアールの【空間魔法は最強の魔法】というフレーズを再び反芻している。
あれは冗談などでは決してなかった。
空間魔法が最強であることを改めて感じた一戦だった。
だが、決闘に勝つというのは大局的にみれば些細な事だ。問題はブロドリオの持っているスキルを手に入れられるかどうか、その一点に尽きる。
そちらを何とか先へと進めたい。
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