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117話. エレガントな勝ち方にこだわりたい

 

 さぁ、いよいよ決闘が始まる。

 我ながらまたしても厄介事に巻き込まれてしまった。


 他の執事らがギャラリーを誘導して我々から遠ざけ始める。その結果、きれいな楕円形の人垣が生まれた。


 さて、オベロンと俺は相対してにらみ合っている。


 とりあえず相手は油断をしているのか、それとも自分に自信があるのか。


 どうやら今のところは一対一で正々堂々、きちんと勝負をしてくれるらしい。

 それとも魔剣の力を確信しているのかもしれないが……。


 だが、そんな俺の予想に反して、オベロンが執事から受け取ったのは魔剣では無い方の剣だった。とはいえ、こちらもかなりの業物であることは間違いない。鑑定してみると何と驚きのAAランク。これは俺が見たことも聞いたことのないレベルだ。まさしく最高級な品に違いない。


 対して俺が持っているのはBランクの剣。


 平民が持つ普段使いの剣としてはたいそう立派だが、AAランクを相手にするには心もとない。


 いや、というか、むしろこれは絶望的かもしれない。

 勝ち目がないではないか。


 もしこんな条件で『フェア・プレー』とかオベロンが心の底からそう思っているのなら、それはそれで片腹痛いものだ。



 ◇


 執事の一人が我々の間に立つ。

 どうやら審判兼立会人をするらしい。


 オベロンが観衆に深々と一礼をしたので、俺も遅れて礼をする。


「これからオベロン様とサイ殿の決闘を執り行う!」


 その掛け声とともについに始まってしまった。

 まさしく理不尽な決闘だ。


 まずは様子見をしよう。


 ゆっくりと前に剣を構える


 とりあえず、今回の一戦はこれまでとは全く違う。


 まぁ、あれだ。

 相手やギャラリーが貴族だから『エレガントな戦い』が無難かな。


 以前にテレビのドラマにちょこっと出てきた剣道の構えでひとまず戦ってみる。


 ヒュン、ヒュン。カキン!


 剣と剣とがぶつかり合う音が響く。



 今のところは普通の打ち合いだ。

 特段、相手の剣戟に変わったところは見られない。


 だが、俺の方はいつもとは大きく異なる点がある。


 当たり前の話だが、剣の性能は奴とは段違いで劣るのが今回の決闘のミソだろう。つまり、ごく普通に切りつけてしまうと、俺の剣が競り負けて折れてしまう可能性が高い。そうなっては負けが確定してしまう。


 そこで、剣同士がぶつかった瞬間。あえて自分の剣の力を少し抜くことにした。加えて刃先同士が当たることをなるべく避け、自分の剣が文字通り『斬られない』ように徹している。刀身全体に力を分散させるイメージだ。


 まずは剣を守る。そして温存する。

 そうして時間をじわじわと引き延ばしつつ、タイミングを伺おう。


 それが俺の作戦だ。


 既に身体強化スキルを発動させてある。

 こうすることで、剣の動きに目だけでなく体も付いてくる。もちろん、奴の剣の直撃を避けるのもどうってことはない。容易いことだ。


 数分後。


 なるほど。

 何か分かってきた気がする。


 とにかく、そう勝手に納得し始めた自分がいた。


 このオベロンとかいう男。

 自ら決闘を言い出すほどだが、強いのかなとおもっていたのだが……。

 しかしどうやらこの男、実はあまり強い訳ではなさそうだ。

 おそらく平民だからと見くびっていたのかもしれない。

 冒険者相手によくそんな自信があるな。


 うむ。これなら俺が本気を出せば簡単に倒せそうだ。

 しかし、相手を無傷で負けを認めさせるというのが曲者だ……。

 さらには俺が使っている剣の性能が低いという弱点もある。


 カンッ、キン。ガッキーン!


 金属同士がぶつかり合う音が響き続ける。


 ダメだ。

 ずっと待っていても全く機会が巡ってこない。


 こうなれば、無理くり俺が『チャンス』を作るしかないだろう。


 ここだ!


 剣同士がぶつかった際に、俺はあえて衝撃を受けたような素ぶりをして後ろによろめいた。


「おぉ!!」


 観衆からどよめきが起こる。


 言わずもがな、その一瞬をオベロンが見逃すはずがない。


 ヒュン!


 強烈な『突き』を深々と繰り出してきた。


 だが、これこそ俺の求めていた奴の動きだ。


 例によって合気道を応用した動きで剣を回避した俺は、オベロンが突き出した剣の真横に立つ。まだオベロンは、手を前に出して剣を突き出したままの姿勢だ。


 そして間髪入れずにオベロンが持っている剣の持ち手(グリップ)の上のやたらと出っ張った部分、つまり手をガードするための突っ張りに刃を上手いこと押し当てた。そして、そのまま力づくでオベロンの前方へと自分の剣を勢いよく薙ぎ払った。


「なっ……」

 予想外の出来事にオベロンが驚きの声を発する。


「おぉ!?」

 間髪入れずにギャラリーからどよめきが沸き起こる。


 そう、オベロンの手には既に自慢の剣は無く、その剣はと言えば、はるか前方の壁に刺さっていたのだから。



 だが、これで大人しく一件落着とはいかなかった。

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