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106話. 再会して感動、そして商談へ

 

 アイスクリーム騒動からしばらく経ったある日。ついに俺はラクストン家の目の前に立っている。既にある種の懐かしさを覚えるドアを叩く。


「おぉ、サイじゃないか! これは嬉しいね。一体全体どうしたんだい!? とにかく中に上がりなさいな」


 メイドと一緒に出てきたのはクロナラだった。久しぶりだ。やはり知人というか恩人なので安心感がすごい。


「ちょっと、あなたーー。サイが来たわよーーーー!!」


 クロナラが上の階にいたラクストンを大声で呼んでくれた。これでご両名共々、久々のご対面という訳だ。


「おぉ。本当にサイじゃないか! よく来たな。元気にしてたか? 上手くやっているか? 飯は食っているか?」


 見事なまでの質問攻めである。聞いてくる内容もまるで親のようだ。


 まぁ、こうなるのも無理からぬことだが、旅をしていたことなどをかいつまんで説明する。むろんオブラートに包みまくり、不都合な部分や言えない出来事は全カットしたうえで……。


 かくかくしかじか。

 さらに俺はここに来た理由を手短に話した。


 とは言うものの、もちろん肝心な部分はぼかしてある。

 さすがにS級冒険者のブロドリオのスキルを手に入れるために、まずは貴族のアンラに接触してコネ作りをしたい等という本音は口が裂けても言えたものではない。


 ここで話した内容はごく単純で、要は『アンラと直接会って話がしたい』という一点だけ。だが、既にアンラはここでの農産物の勉強を終えてしまい、自宅に戻ってしまったという。


 やはりダメだったか……。まぁ、こんなところだろう。ここで都合よく会えなかったのは残念だが、どうやら俺が彼女の家に足を運ぶ必要がありそうだ。ひと手間増えるが仕方ない。


 とはいえ、これだけの理由でラクストン家に来たというのではあまりにも下心というか、怪しい雰囲気がにじみ出てしまう。


 そこで、俺なりの対策としてビジネスを全面に押し出してみた。

 実際のところ、丁度この手の相談は必須だと考えていたので、2つの問題をまさしく一石二鳥で片付けられるはずだ。


「実は二人に農産物の供給について相談したいと思っていたんだ。とりあえず、まずはこれを食べて欲しい」


 そう言って、俺は空間収納から『サイズクリーム』を取り出した。どうやら空間魔法では鮮度が落ちないことが分かっている。アイスクリームもそのままの状態が維持されるようだ。


「サイ、それはもしかして空間魔法じゃないか!? ちょいとビックリしたぞ。どうやって獲得したんじゃ?」


「さっき旅をした話をしたばかりだが、まさにその旅先で何とか頑張ってな。色々と大変だったが、とにかく最終的には空間魔法を習得できたんだ。運が良かったよ」


「い~や、それはお前さんの実力だよ。頑張ったんだねぇ。おばさんちょっと泣きそうになっちゃった」

 そう言うと、クロナラが本当に涙ぐみ始めた。


「それより、早くこれを二人に味見してもらいたいんだ。溶けてしまう前に」


「よく見れば…… なんだい、こりゃ!? まったく見たこともない食べ物だな。本当に食べられるのかい?」


「どれ、何はともあれ、味見しようじゃないか」


 シャリシャリシャリ。


「冷たいっ、じゃと!? そして、甘い。氷じゃない…… 濃厚でクリーミー。なんじゃこの料理は、まったくの未知。ワシは長く生きてきたが、こんな食べ物を見るのは初めてだ」


「本当にこんな料理、見たことも聞いたこともないよ。だけど甘くて冷たくて美味しいねぇ」


「とりあえず、気に入ってもらえて何よりだ。こちらとしても安心した。気候にも合う食べ物だろう? これは『サイズクリーム』と言って、今、食べてもらった通り、冷たい甘味というこれまでに無い全く新しい食べ物なんだ」


「これは画期的だよ、サイ。いや、本当に。一体、どこで食べられるんだい?」


「そう来ると思ったが……。現状、サンローゼ中心部の『ステラ』というお店だけでしか味わえない。そこの名物なんだ」


「なるほど、気軽にという訳では無さそうじゃな」


「まぁ、『ステラ』では看板メニューになっていて、毎日もの凄い数が売れている。何を隠そう、俺がそのレシピの考案に関わっていることもあって、原材料を大量に調達したいという訳だ」


 そう俺が言った途端、ラクストンの目の色が変わった。

 たった一言で商売人の顔へと様変わりした。

 さすがに農業が専門だけあって、事の重大さに気付いたようだ。


「その話、もっと詳しく聞こうじゃないか。具体的にはどの食材じゃ?」


「そうだな……。まず足りないのが『マップラカルナ』の油脂だ。これは知っての通り、栽培している場所は全然無いし、量もそれなりに使うから、これが一番の心配の種だな。次点で『ココヤチ』の実のミルクだ。これはもっと大量に必要だ」


「なるほど……。どちらも新しく畑を作らなけりゃならんな。だが、やるだけやってみる価値はあるな。考えてみよう」


「あなたの言う通り、これは金の匂いがするよ!」

 う~む。流石だ。クロナラも目の付け所がよろしい。


 こうして一通り『商談』が終わった後、例のごとく数日程度ここにお世話になることになった。毎回毎回、申し訳ない。そしてありがたい。


 そうして、ついにラクストンの馬車でアンラの家まで連れて行ってもらえることになった。ここから半日程度の旅になる。



最後まで読んで下さり誠にありがとうございます!


もし、ほんのわずかでも面白い、続きが気になると思って頂けましたら、ブックマークや評価、あるいは感想などのフィードバックをしてくださると飛んで喜びます。このページの下の方にある『☆☆☆☆☆』から評価を入れられます。


これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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