104話. えっ、異世界でアイスクリームを!? 出来らぁ!!
次なる目標はS級冒険者のブロドリオが持っているスキルの習得だ。
昨日そう決めた。
とは言うものの、だからといって直ちにブロドリオと接触する訳にはいかない。
何しろ俺は今、モーレツに疲れているからだ。
これは事実。
それこそ俺は夜を徹して500キロ以上も離れているサルキアから移動しているからだ。そして、ここサンローゼに着いたと思いきやすぐに超巨大の魔物『インペラトール・トータス』との一戦ときた。疲れていない訳がない。
そんな訳で、翌朝はかなり遅くに起床したのであった。
◇
「やはり『癒し』が必要だ」
そう思い立った俺が向かったのは例の近所にある喫茶店『ステラ』。
いつものようにポラル茶を飲みながらゆっくりしていると、この店を切り盛りしているローラがやってきた。
「サイさん。いつも来てくれてありがとうね」
「いや、こちらこそありがたい。いつも快適な時間を過ごせているからな」
「それは良かった。そう言ってもらえると嬉しいよ。ところでサイさんに意見を聞きたいと思ってね」
「ほう。内容にもよるが、別に構わないぞ」
「実は新しくこの店の名物になるような料理を作りたくてね」
「なるほど、名物か。それは面白そうだな。具体的にはどういう料理がいいんだ?」
「そうだね。やっぱり店の特徴に合わせるなら『甘味』だろうさ。それも今のメニューにまったく無いような新しいものさね」
ふむ。
甘味の名物、それも店の看板メニューになるような一品か……。
言うのは容易いが、これはなかなか難しい案件だ。
「そうだな。例えば、『アイスクリーム』なんかはどうだろうか?」
「アイス…… なんだね、そりゃ?」
ああ、そうか。
もしかしなくても、この世界にはアイスクリームが無いのか。でもそれはそれで不思議だ。氷結魔法があるから氷は手に入るのに。
「えっと…… 一言で言えば凍らせた甘い菓子だな。氷のようだが、氷じゃない。そんな独特な食感と喉ごしが売りの食べ物だ。冷たくて美味しいぞ。ここの気候にぴったりだと思う」
「そのアイス…… クリームとやらは、どうやって作るのか教えてくれたりするのかね……?」
「もちろん構わないぞ。と言っても俺自身は作ったことがないから、大体の方向性しか示せないが……」
「それでも十分ありがたい言葉さね。嬉しいよ」
「じゃあ、まずは作り方だな。えっと、原料としてはおそらく『ココヤチの実のミルク』、『サチョードリの卵』、『砂糖』、そして『乾燥させたバニランの果実』があればおそらく何とかなると思うのだが……」
それを聞いてガックシうなだれるローラ。
「残念だが、それは無理さね」
「そうか。参考までに、どの食材を手に入れるのが難しいんだ?」
「いや、問題はそこじゃないのさ。さっきサイさんは『凍らせたお菓子』と言ったね。問題はそこさね。まず、『ココヤチの実のミルク』は氷結魔法で凍らないのさ」
おおっと。それは盲点だった。
ココヤチとは『椰子の実』のような植物のことで、大きな実の中には濃厚なミルクが詰まっている。
この世界では家畜を放牧して搾乳するという発想が無いので、ミルクと言えばおおむね植物由来だ。
そもそも、それなりに大きな動物と言えば魔物しかいない。しかし、魔物は突如として忽然と現れる謎の生命体で、子供を産まず、当然、授乳もしないようだ。
いずれにせよ、家畜から乳を継続的に得るためには、妊娠・出産のサイクルを繰り返すように飼い続けなければならない。だが、そのような面倒なプロセスを好む奇特な畜産農家など、この世界にはいないだろう。
それはともかく、会話を続ける。
「だが、氷はあるだろう」
「そりゃ、もちろん」
「あと塩も……。それで問題ないだろう」
「そりゃ、どういう意味さね? 良かったら教えてくれるかね?」
「実は、山盛りの氷に塩を少しだけ混ぜてかき混ぜるとかなり冷えるんだ。それもキンキンにね」
「ありゃまあ、氷に塩ねぇ。そんなこと試したことなんて無かったわ!」
「それじゃあ、近いうちに一緒にアイスクリームを作ってみるとしよう」
こうして、突如として異世界でアイスクリームを再現するという高難易度クエストがここに開始された。果たして無事に完成させることはできるのか?
最後まで読んで下さり誠にありがとうございます!
もし、ほんのわずかでも面白い、続きが気になると思って頂けましたら、ブックマークや評価、あるいは感想などのフィードバックをしてくださると飛んで喜びます。このページの下の方にある『☆☆☆☆☆』から評価を入れられます。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。