100話. あり得ない……。弱点が無い、だと!?
「時間だ。一斉攻撃開始!!」
ギルディアスの合図で皆が一斉に攻撃を仕掛け始めた。大体がファイアー・ボール、もしくは矢か投てきといった具合だ。
俺も多くの火球が集中しているタイミングを見計らって、さり気なく普段よりも強力な『偽装火球・極』を放った。
バシュッ!! ……ズドン!
そして少しタイミングをずらして2発目も。
バシュッ!! ……ズドン!
おっ。
ちゃんと俺の火球が照準を定めていた前脚の付け根に着弾したぞ。
そして狙い通り他の冒険者が放った膨大な火球に紛れている。
良かった。
どうやら俺の魔法はさほど目立っていないように見える。
う~む。
だが、これではまったく効いていないな……。
表面が少し焦げただけのように見える。
予想通りとはいえ、やはりショックだ。
次の一手を考えなければ……。
そう言えば、ギルディアスとエカテリーナの魔法は?
……と思ったら、ようやく二人の手からファイアー・ボールが飛び出した。
なるほど、詠唱時間が長いのね。
だが、それはさておき、何かがおかしい。
どちらも予想していたよりもかなり貧弱な火球だ。
俺の偽装した『偽装火球・極』よりも大分小さいし、弱々しい。
う~ん。
どういうこっちゃ!?
これがAランク冒険者の全力なのか??
ドッカーーン!!
理由はすぐに分かった。
それら2発が同時に着弾したと思いきや、それらの火球が猛烈な勢いで炸裂した。
その爆発で一瞬、我々にも振動が伝わってきたほどだ。
「“爆炎” だ……」
冒険者の一人がそう呟いた。
聞いたことのある魔法名だ。
確か俺のかすかな記憶では、ギルド買取り担当のルノアールがチラッと口にしていた技だったはず。メタルリザードを倒すのに効果がある火焔魔法だが、使い手はほとんどいないという、あの伝説級の……。
さすがAランク冒険者。
高難易度の魔法も簡単に操れるのか。
おそらくあえて他の冒険者らの攻撃とタイミングをずらしたのだろう。猛攻撃で弱くなった皮膚にとどめを刺す戦法だったはずだ。
しかし、そんな過激な攻撃がピンポイントで炸裂したにもかかわらず、皮の表面がすこし焦げて削れただけのように見える。
やっぱり敵が巨大であまりにも強すぎる。
さすがインペラトール・トータス。
にくいほど強し。
やはり人智を超えた敵なのか。
人の分際では倒せない相手なのだろうか。
うん、決めた。
こんなちんけな『偽装』をやめよう。
俺の『偽装火球・極』は見た目こそ普通のオレンジ色のファイアー・ボールに見せかけることはできるが、威力はブルー・ファイアー・ボールと比べるとそれなりに落ちてしまう。この際、もはや実力を隠している場合じゃない。このままでは本当に街が危ない。
よし、ここは一発で決める。
使うのは『ジャイアント・ブルー・ファイアー・ボール』。
今、そう命名した。
ただし誰が撃ったのか分からないよう、速度を最大まで上げるか。
それと照準を合わせたらすぐに発射して右手を引っ込めてごまかそう。
ジャイアント・ブルー・ファイアー・ボール!
一瞬で巨大な火の玉が出現し、狙い通り命中した。
シュパッーーーー。ドッゴーーン!!!!
「な、何だ!? 何が起こった?」
「今の攻撃は誰が??」
「ありえねー。何という威力だ! それにあんな火の色は見たことないぞ!! あれはファイアー・ボールなのか!?」
辛うじて青いファイアー・ボールを放ったのが俺だとバレていない。
だが、何発か撃てば見破られてしまうだろう。
渾身の一撃だったが、やはりダメージが通っていない。
う~む。これはショック。
「やっぱりだ。ここにいたか、サイ!」
そんなことを考えていると不意に名前を呼ばれた。どういうことだ。俺を知っている奴なんてほとんどいないはずだが……。
あまりにも予想外の出来事に思わず振り返ると、そこには見覚えのある顔ぶれが揃っていた。そう、以前に数日間だけパーティーを組んでいたメンバー4人だ。声を掛けてくれたのはリーダーのダルガー。
「おう、ダルガーじゃないか! 久しぶりだな。こんなところで再び会うなんて。ところで、この人混みの中で、どうして俺が分かったんだ?」
「そりゃまぁ、分かるだろう。何しろあんなに強くて変なファイアー・ボールだ。あれを繰り出せる奴なんて、俺の知る限り、A級冒険者を除けばサイくらいのものだろうよ」
おっと、しまった。
俺のファイアー・ボールが見破られていたのか。
あれほどスピードを上げて、タイミングも他の冒険者と合わせているというのに…… 流石だな。
「しかし、ファイアー・ボール程度で倒せる相手ではないな。あの巨体だから、効き目がどうのという話じゃなさそうだ」
「そうだな。さっきのエカテリーナとギルディアスの攻撃でもびくともしないなんてな」
「今回ばかりは無理なんじゃね」
グラーゼが付け加える。
「私も攻撃するね! 何もしないよりかはマシだから」
そう言って、クレアは弓矢を使って遠距離攻撃を始めた。
これはダメだな。
どの冒険者も自分たちの街を守ろうと必死になっている。
だが、攻撃が全然効いていない。
こんな戦いをいくら続けていても勝てない。
そして、こうしている間にもインペラトール・トータスは着実に歩みを進め、もう街まで5キロほどの地点に達してしまった。
「これ、ヤバくね?」
おいおいグラーゼ、もう少し楽天的になってくれ。
みんなそれをあえて言わないようにしているのに……。
とは言うものの、彼の分析はしごく正しい。
「おいっ、あれを見ろ!」
同じく彼らのパーティー・メンバーのカタレナが叫ぶ。
慌てて目をやると、そこには立派な馬に乗った騎士の集団が近づきつつあった。
良かった。味方だ…… といってもわずか10人程度。今までの状況を見るにつけ、とうてい戦力になるとは思えない。
「これは、もしかすると勝てるかもしれない」
だが、ダルガーが俺のそんな予想とは裏腹にこう繰り出した。どういうことだ?
「あの集団を知っているのか?」
思わず訊いてみる。
「あぁ。いや、おそらくだが……。あれはフランボワーズ家のブロドリオ様かもしれない」
フランボワーズ家か。
その名前も聞き覚えがある。
もし記憶通りなら、そのブロドリオ様とやらは郊外に住んでいる貴族の当主で、確かSランク冒険者だったはず。つまり、サンローゼのエリア一帯で最強の戦力を誇るということになる。
なるほど、ついに真打が登場か。
ここでSランクの戦闘力を見せてもらうぞ!
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ようやく100話まで来ました。
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