プロローグ
眠るな……。
眠るんじゃない……。
絶対に眠っちゃダメなんだ……!
朦朧とする意識の中、俺はただひたすらに耐えていた。
絶対に……絶対に眠るんじゃない……!
満足に身体は動かせなくても、その強い意思だけは俺の心の中で小さな灯火をともし続けている。
「うぅ……」
掠れた唸り声を喉から絞りだし、重量感を帯びた首を上げる。
霞んだ視界がカチッ……カチッ……と音を発し続けるそれを捕らえる。
――壁に掛けられた時計の針は、夜中の4時を指していた。
……ああ……まだ、そんな時間だったのか。
強い挫折感が俺の思想を染め上げる。
同時に、この理不尽でふざけた現状を馬鹿馬鹿しくも感じた。
どうして……こんな事に……。
間違いなく、本来の俺ならばとうに夢の中だろう。
俺は別に睡眠障害を抱えている訳ではない。
ごく普通の生活を送ってきた、至って健康な学生なのだ。
普段から日を跨ぐ頃には就寝し、翌朝7時には起床している。
そんな型にはまった睡眠のリズムを意識せずとも当然のように続けてきた。
それは学生という身分を考慮すれば正常であり、模範的だ。
それなのに今の俺は、本来の就寝時間を大きく経過した今現在、必死に自分自身に暗示をかけながらその睡眠欲求に抗っている。
今の俺の姿を誰かが見ていたらやはり滑稽に映るだろうか。
何故俺は、こんな時間まで起きているのだろう。
何故俺は、今こんなにも苦しんでいるのだろう。
客観的に見たらこれは明らかに無駄な行為で、誰もが理解に苦しむだろう。
眠いなら眠ればいい。
疲れているなら休めばいい。
至って単純な話だ。
誰だってそう思うはずだ。
しかし――俺は静かに首を横に振る。
当事者の俺からしてみればそれは違うんだ。
暗闇に染まる部屋の中で、俺は独り戦い続ける。
姿も形も存在しない相手と、俺は独り戦い続ける。
誰も助けてくれない、自分自身との孤独で、滑稽な戦い。
時計の秒針だけがこの世に音を刻む、静寂に包まれた世界。
何分経っただろう、何時間経っただろう……。
一体俺はいつまでこの苦痛と戦わなくてはいけないのだろう……。
右手で目を擦り、眠気を飛ばそうと努めるも、だんだんと目蓋が重くなってくるのが感じられる。
ああ……このままではダメだ……。
……また……強い睡魔が……。
それでも俺は、眠ってはいけない。
両手で何度も頬を叩きつけ、迫りくる睡魔を必死に追い払う。
眠ってしまっては、いけないんだ……!
今度眠ってしまったら……俺は……。
――消されてしまうのだから。




