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飄然草  作者: 千賀藤兵衛
第十部 軽率政談
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実用的な祈り

 「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」(日本国憲法第九条)


 これは理想である。もっと言えば、祈りなのである。こういう世の中になってほしいという思いをあらわしたものである。

 そんな世の中は絶対に来ないと考える向きもあろう。国際社会は未来永劫武力衝突を起こしながら互いの関係を構築していくしかないし、そのためには軍事力も持つべきだし、交戦権も否定するわけにはいかない、と。それはそれでひとつの見識であり、ひとつの理想であろう。私は賛成はしないが、その考え自体は否定しない。

 いずれにせよ、単にいま自衛隊があるのだから憲法を変えるか自衛隊を廃止するか二つに一つだ、というような短絡的な話ではない。法律、なかんずく憲法は、現状を追認してお墨付きを与えるためのものではなく、理想を述べて現実を変えていくためのものである。戦争のない世界、軍事力のいらない世界を実現するには、本気でやってもおそらく百年、二百年かかるだろうが、それは追求する価値のある理想である。


 かなりまじめな話、この平和憲法というやつはなかなかのすぐれものだと思う。

 これのおかげで、周囲の国は少なくとも日本から戦争をふっかけてくることはないと判断することができる。これだけで戦争の起こる確率はぐっと下がる。相手が攻めてくるのではないかと疑心暗鬼になって、やられるまえにやれとばかりに先制攻撃をかける、といった笑えない開戦はかなり避けられるだろう。しかしそれだけではない。

 仮に私がどこかの国の独裁者で、日本を侵略したくてしかたがなかったとする。そのときいちばん邪魔なものは何か。自衛隊や日米安保条約もまあまあ邪魔ではあるが、やはりいちばん邪魔なのは平和憲法である。

 だいたい現代では、戦争を始めるときには自衛のためと称するものなのである。したがって、相手に先に攻撃してもらわなければならない。だが日本は平和憲法のせいで、いくら挑発しても乗ってくる見込みが薄い。これでは自分のほうから攻撃をかけるしかないが、そうするとこっちが悪者になってしまい、他の国を敵に回す。


 本当は、平和憲法を持つ国がいくつもあるとよいのである。その国々のあいだでは戦争の起こる可能性は相当低くなるだろう。

 日本の不運はまさにそこに尽きる。近くにあるのが、韓国と北朝鮮、中華民国と中華人民共和国という、絶対に平和憲法など採用できそうにない国ばかりときた。こればかりはどうしようもない。


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