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飄然草  作者: 千賀藤兵衛
第九部 さらば単純作業
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日光写真の思い出

 小学生のころ、学習雑誌の附録に日光写真のセットがついてきたことがあった。小さな印画紙と、印画紙をセットするための箱、そして日光写真の図案になる切り絵である。箱に印画紙と切り絵をセットして日の当たるところにしばらく置いておくと、切り絵の切り抜いてある場所だけ印画紙の色が変わって図案が浮き出るというものだ。

 私はこの日光写真、何度か試みたもののまったくうまくいった記憶がない。印画紙の色がうすぼんやりとしか変わらず、図案がはっきりと読み取れるようにならないのだ。私の住んでいた北海道では日光の量が足りなかったのだろうか。あるいは印画紙を設置するときに、日光が正面から当たるように角度を調節すればよかったのかもしれない。だが不器用かつ面倒くさがりの私はそれをおこたった。これが敗因の可能性も高い。

 

 日光写真というと思い出す出来事がもうひとつある。

 大学時代のある夏の日に、ちょっと遠くの図書館まで出かけたときのことである。このころ私は時間と体力がありあまっていたので、徒歩三時間以内で行ける場所にはたいてい歩いて行っていた。この図書館は徒歩二時間程度の場所にあり、余裕で圏内であった。

 朝九時か十時ごろに家を出たと記憶している。よく晴れて暑い日だった。私はTシャツにジーンズという格好でてくてく歩いて行った。たちまち汗だくになったがそんなのは慣れている。道中なんの事件もなく目的の図書館に到着し、館内で一冊ほど読んで、午後の日のさす中をまた二時間歩いて家に帰った。本筋とは関係ないが、読んだ本もおぼえている。池田香代子ほか著『ピアスの白い糸』、日本の都市伝説を集めた本である。このころ私は都市伝説にハマっていたのだ。また、図書館に着いたときに、玄関の前で汗をたっぷり吸い込んだシャツを脱いで絞ってまた着るという野蛮な行動をしたこともおぼえている。

 家に帰ってから初めて気がついたのだが、この日着ていたTシャツには肩のところに一円玉ほどの大きさの穴があいていた。そして、シャツを脱ぐと穴の形に真っ赤に日焼けしていたのであった。これはとんだ日光写真だと私は感心したものである。この日焼けは夏が終わるまでそのまま残った。

 この原理を用いて、何かの模様なり絵柄なりを切り抜いたシャツを着て日光浴すれば、日焼けで絵をかくことができるぞと思いついたものの、これはさすがに実行に移さなかった。いま思えば、学生時代のうちに一度やってみるべきだったかと思う。子供のころに失敗した日光写真の雪辱のために。


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