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TSお姉様、TS女の子で遊ぶはずが反撃されて赤面プルプルする話  作者: きつね雨
第三章〜アートリス大騒動〜

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TSお姉様、至福を味わう

 



 長閑(のどか)だなぁ……


 牧歌的、この言葉がここまで似合う村ってあるだろうか。


 なだらかな斜面に点在する家々達。全てが木造で、煙突から白い煙が立ち昇っている。踏み締めて出来ただろう道は、まるで轍みたいにクネクネと家同士を繋いでいた。其れ等以外の殆どが草原の様に緑で覆われていて、何だかスイスとかの高地を思い浮かべるな。


 その向こう、視界を占める大半は高き山々たち。


 其れらは日本アルプスの縮小版みたいな感じで、緩やかに山風がそよいで気持ち良い。


 これって緑と赤で飾り付けたら、まんまクリスマスの絵みたいだ。絵葉書とかで描かれていそうだね。雪が降ってたらだけど。


「……何だか長閑で、御伽噺の中みたいです」


 この世界の御伽噺には余り無い描写の景色だ。元の世界の事を思い出してるのかなぁ。でも、当然指摘なんてしませんよ?


「心が落ち着くと言うか、安らぎを覚えるよね。不思議」


「ホントに」


 ノールブレフツが見えて、内心悔しく思いながらターニャちゃんを降ろした。そして二人横並びで、暫く景色を眺めているのだ。


 ここは人口百人位の小さな村で、主要産業は養蜂による蜂蜜の生産だ。それに連なる菓子や酒も有名で、生産量が少ない事から手に入れ難い。でも丁寧な手仕事で、質や風味は折り紙付き。


「思ったより早く着いたから、ちょっと休憩しながら景色を楽しもうか」


「はい」


 丁度近くに切り株がある。と言うか人工的に用意したのかも。だってベストポジションだもん。カメラとかあったら間違いなく撮影スポットになるだろう。


「水を出すから彼処に座ってね」


 促すとターニャちゃんは素直に腰掛ける。抱っこされていたとは言え、疲れない訳がないからね。


 魔法で水を出す事も出来なくはないけど、緊急時のみと決めてる。あくまで気分で、戦闘に多用する水を飲みたくないのだ。


「はいどうぞ」


 木を削り出したカップに透明な水を注いだ。生活魔法の応用で少しだけ冷やしてたり。ターニャちゃんの細い喉がコクリコクリと動くのを眺めて、俺も一口だけ口にする。


「ふぅ、ありがとうございます。お姉様は疲れてないですか?」


「ん? 全然大丈夫だよ。これくらいは依頼とかで普通にやってるし、ターニャちゃん軽いから」


 実際にはターニャ成分を絶えず補給された事が要因だろう。むしろ禁断症状が怖いぜ。ホッとする横顔を見たら、益々症状が悪化した。間違いありません。


「良かった。蜂蜜が有名な村だそうですけど、何処で作ってるんでしょう。見る限り見当たらないですよね?」


 まだノールブレフツは景色の一部だけど、道を歩く人の姿くらい見える。あの辺に蜂がいたら大変だよね。


「村を囲むように樹々が立ってるでしょう? あれは全部人工林で、その向こう側に花が沢山咲いてるところがあるの。もっと上の方には果樹が植えてあって……ほら、あの斜面とか白色が見えるよね? アレがマルースだよ」


「あんな遠いところまで……全てが人の手なら希少な蜂蜜だと納得出来ます」


 感嘆のため息を溢すターニャちゃん。やっぱり大人みたいだ。見た目は少女なのにね。魔法が補助するだろうけど、基本的には手作業だから間違ってない。言われたら確かにと思う。ノールブレフツが抱える敷地は家々に比べて広大なのだ。


「後で案内して上げるね。流石に近くは怖くて無理だけど」


「見た事ないので楽しみです。蜂って木とかに作る巣しか知らないですから。どうやって蜂を集めてるんだろう」


「村の中で直ぐに分かるよ。沢山の蜂箱が置いてあって目立つし」


「蜂箱……何だかお姉様って詳しいですね?」


「うーん。人聞きばかりだけど、此処には何回か来た事あるからかな。知り合いの人に教えて貰ったの。まあ旅行じゃなくて依頼ばかりだから、こんな風に訪れるの凄く新鮮で楽しみだね!」


「私ばかり楽しかったら旅行の意味が半分です。良かった……あ、お姉様も座って下さい」


「え?」


 切り株は小さくて、二人座れば一杯一杯だよ? 嬉しいけど……


「これ小さいかな。私が代わりに立ち……」


「狭いけど十分だね! ほら、丁度じゃない?」


 本日初めての最大魔力強化はこの時だった。無論後悔などない。


 お互いのお尻と肩や腕が触れ合う最高の距離だ。抱っこは終わっちゃったけど、こんなのもアリだな。やっぱり旅行っていいね!


 暫くゆっくりしたら村に向かおう。







「あの真っ黒の箱って」


「うんうん、蜂箱だよ」


 先程ノールブレフツの村へ到着した。先ずは宿の確保へと真ん中の通りに向かう。その時、目に付いたのが黒色した木製の箱達だ。ぱっと見は小さなお賽銭箱みたい。


「これ、表面を焼いてる」


 一番近くの箱を眺めながら、呟いた。


「私も詳しくは知らないけど、蜂の病気を防ぐためだって。病気の元を火で清める感じで……あと、蜜蝋で入口を塞ぐから其れも取り除いたりする、だったかな」


 熱殺菌?


 そんな呟きが次いで聞こえたけど、反応はしない。多分合ってるけど。


「面白いです。この箱をさっき見た場所に運んで採集するんだ……でも、蜂は何で素直に此処に戻る……あ、もしかして」


「多分想像通りだよ。女王蜂を最初に入れるからね」


「やっぱり」


 もう博物館を見学する学生の趣きだ。教える俺も楽しかったりする。学芸員になった気分だよ。最近先生の役割多かったし。


「宿に入る前にお店を覗いてみよっか。きっと楽しいよ?」


「はい!」


 ターニャちゃんを連れて入ったのは、お土産物を扱う小さなお店だ。人の少ないノールブレフツだけど、やっぱり蜂蜜が有名だから旅人も来るんだろうね。


 早速目に付くのが小瓶に入った蜂蜜だ。琥珀色の液体が満たされた透明な瓶。沢山綺麗に並んでる。よく見たら其々の蜜の色合いが微妙に違うね。


「種類が沢山あるんですね」


 ターニャちゃんも興味深く眺めている。その真剣な眼差しにドキドキしてしまうのだ。


「いらっしゃい。女性二人きりとは珍しいな」


 店の奥から店主らしきオジサンが現れた。小太りだけど、中々鋭い目付き。髭もじゃで年齢が分かりにくいな。


 振り返った俺を見て上下に視線が泳ぐ。そしてロングカーディガンから覗く胸をチラ見した。ふ、まあ仕方ないでしょう。カーディガンの前を閉じたら慌てて視線を逸らすのが可笑しい。


「旅をしてて。あの、この娘に説明をして貰っていいですか? あとマルースの蜂蜜も」


「おお、勿論だ。其処に有るのは全部俺が集めた蜜だからな。何でも教えてあげよう」


 何だか得意気になったオジサン。うん、分かるよ? 俺みたいな超絶美人や至高の美少女相手だと頑張っちゃうよね。


「良かったねターニャちゃん。折角だから色々聞いてみましょう」


「はい、是非」


 そして俺の予想を遥かに超えたターニャちゃんの質問攻めに、店主のオジサンが慌てふためくまで時間は要らなかったのだ……なんてね!







 ○ ○ ○




「これ蜂蜜のソースだ……こんなに料理と合うなんて」


 宿はツェルセンの双竜の憩と違って、所謂民宿だ。部屋数も少ない上に、今日は俺たちだけらしい。食堂に案内された時教えて貰ったのだ。なので、かなりゆったりとした気持ちで夕食を楽しんでいる。


 テーブルには蝋燭が灯り、ターニャちゃんの瞳にユラユラと反射して綺麗。


 今日の旅路、蜂蜜、マルースの花、沢山の会話が咲いた。料理に生かすつもりなのか、出てくる品々を味わって研究してるみたい。もう趣味の域を軽く超えてるけど、そんなターニャちゃんを眺めるのも幸せだなぁ。


 何だか頭もホワホワするし、夢の中に居るみたい。


「……此れって……」

「マルースの……」

「……私でも出来るかも」

「……様?」


 本当にターニャちゃん可愛い。


 アッシュブラウンの髪が随分伸びて、少しだけ大人びて来たみたい。濃紺の瞳も心なしか柔らくなったし、料理を美味しそうに味わう唇がプニプニで……


「お姉様? 聞いてますか?」


「……え? あ、うん。髪伸びたよね」


「……もしかして」


 何だか喉が渇く。この甘い飲み物美味しいから良いけど。


 あれれ? ターニャちゃんがジト目になってるね? さっきまで楽しそうにしてたのに。そうか、分かったぞ!


「これ飲みたい? あげよっか?」


「お姉様」


「はい」


「それ、貸して下さい」


「どうぞ」


 渡したグラスに鼻を近づけてクンクンと香りを確認するターニャちゃん。


「甘い香りだよねー、きっと蜂蜜が入ってて……」


「入ってて、じゃなくて。これ蜂蜜酒(ミード)です、お姉様」


「またまたぁ。ミードってワインみたいなお酒だよぉ? ハニーワインって言って酒精も強いし、此れは果実を絞った飲み物でー」


「あのお土産屋さんが言ってました。ミードには二種類あるって。お姉様が言うハニーワインは軽やかな口当たりですけど、古くから在る製法でゆっくり醸造する方は違うらしいです。此れってハーブと炭酸も効いてますし、間違いありま……聞いてますか?」


「何でも知ってる凄い人、其れがターニャちゃん。料理だって、買い物だって、サイコーなんだから! あとお風呂も!」


「会話になってません。其れとお風呂って何ですか?」


「ツェルセンでね……二人きりで入ったの。知らない?」


「私が本人です。ちょっ……! もう飲むのはやめましょう」


「ええぇー、あと少しだけ……」


「駄目です! さあ、お部屋に帰りますよ」


「お風呂、ある?」


「帰って探しますから。きっと見つかると思います」


「我が魔素感知から逃れる者はいないのだぁ」


「はいはい、行きましょう」


 フワフワ、ユラユラ、気持ちいいなぁ。


「余りくっつかれると歩きづらいです」


 プニプニ、ホンワカ、離したくないよ。


「だからくっつき過ぎ……ハァ……」







 ピヨピヨと小鳥の囀りが聞こえて来た。


「お、おう?」


 一体何が? まだ夢の中なのか?


 起きてすぐ気付く。


 左腕に心地良い重さ、そして甘い香り。視界にはアッシュブラウンの髪と見た事の無い天井がある。恐る恐る左側を眺めれば、予想通りの、でも凄く吃驚する女の子が抱き着いているのだ。


 至高の美少女ターニャちゃんがピッタリと俺に張り付き、緩やかな寝息を繰り返している。


 頭が左上腕に乗り、更に顔は自慢のオッパイのすぐそば。


 まるで巻き付く様に、俺の腰に腕を回してる。


 毛布に隠れていても、両脚だってギュッと固定されているのが分かった。


 うん。もしかして、もしかしてだよ?


 これって多分だけど、遠く噂に聞いた[腕枕]ではなかろうか。しかも愛し合う恋人同士みたいな……


 訳が分からないぞ……何で二人で寝てるんだ?


 確かノールブレフツを見て回って、お店を冷やかしたあとにご飯を食べて……あれ? 其処から記憶が消えてますね、うん。


「んん……」


 もぞもぞと動くターニャちゃん。起こしたかなと慌てたけど、どうやらポジションを変える様だ。顔を少しだけ上げると、俺の首辺りに落ちついた。吐息が擽ったいけど、絶対にこの体勢を保つ必要があるだろう。


 だって……全身余す所なく俺に身体を預けてるんだよ? この幸せを手放すなんて、世界最高のおバカと確信出来る。


 すっごいドキドキしてるし、何だか体温も上昇中。


 最近サイズアップしたらしいターニャちゃんの小ぶりな胸、其れが服越しとは言え俺のオッパイと重なり合う。唇だって肌に触れてるから、キスマークとか付いちゃうかも。もちろん大歓迎。


 ……もう、一体何ですか⁉︎ ツェルセンに続く桃源郷が此処でも? やっぱりデレたのか⁉︎ もう全部OKで良いよね!


 自由になった左手をターニャちゃんの肩に添える至福。少しだけ抱き寄せて、更に身体へ押し付けた。


 ああ。


 幸せ。


 今日こそはチューを俺からしてみせる。ほっぺに一回、そして……むふ。












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