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TSお姉様、質問される

 






 アートリスに向けて出発した朝から現在の夕方まで、特に危ない事も起きなかった。山賊的な奴等も、魔物の襲撃も無かったのだ。ある意味退屈だったかもだけど、安全第一って言うし。


 夕方に差し掛かり、野営の準備に入る御一行様たち。まあ俺もその一人だけどさ。しかし宿場町を利用しないんだな。遠回りになるのもあるけど……キルデって貴族らしからぬ浪費が嫌いだったから、きっと要望でもあったのかも。バンバルボアだと仕事柄インドアだし、野営とかに憧れがあるとか?


「では次に……この馬車のそばに天幕を張ります。ええ、その辺りですね。万が一の際はキルデベルト様の安全確保を最優先に。当然、我々蒼流騎士団のことは無視して頂いて構いません」


「分かりました」


 新人だろうか、かなり若い騎士の一人が説明に来てくれている。うん、ハキハキした話し方で凄く分かりやすい。まあ偶に胸や腰をチラチラ見てるけど許してあげます。仕方ないよ、ジルだもの。


 かなり大きめの天幕は、馬車の天井を利用して斜めに掛ける。それぞれの端っこは金属製の杭を地面に打ち込み固定。ぱっと見は三角形のテントになるだろう。光は殆ど洩れない厚手の材質だから、外気からも守られてる感じかな。相当良い材質で間違いないから、特注品なのかも。一冒険者に対して過剰な配慮もあるけれど、まだ若い女性である点、超級と言う特殊な立場、その他諸々を考慮してくれたらしい。


 こういうとき、女性であるメリットを感じる。皆が優しくしてくれたりするからね。まあその分、しつこく口説かれたり、面倒なことも多いけど。


 んー、護衛対象のキルデは……俺から見て馬車の反対側に寝床を用意したみたい。柱を数本立てて、かなりしっかりとした寝所と思う。まあ外国からのお客様だもんね。


「それと見張りはこちらで用意しますので、基本的に休んで頂いて構いません」


 んん?


「そこまでは……何だか申し訳ないです」


 うーむ、天幕と言いちょっと行き過ぎな待遇だ。護衛依頼なんて何度も請けてるし、これくらい慣れてるんだけど。治癒魔法の変則技に疲労軽減もあるから、数日くらいの寝不足なんて気にもならないよ?


「いえ……隊長からも話があったと思いますが、あの遺跡での危機からツェツエや我々を救ってくれた貴女様に、少しずつでも恩返しをしたいと言う皆の総意ですので……代わりと言ってはなんですが、夕食時はジル殿も共に如何でしょうか。男ばかりのむさ苦しい集まりですが」


 やっぱり、思ってた以上にあの戦いって知られているんだなぁ。目の前の新人くんは若いから、六年前は居なかっただろうに。もしかして語り継がれたりしてるのかな。あと、あのオジサンって隊長だったんだね。


「あ、是非。こちらこそ」


 つい癖で、ペコリと頭を下げる。両手は前に合わせて、サラサラと溢れ落ちる髪が耳に少し擽ったい。


「や、やめて下さい! あとで皆に殺されますから!」


 ん? いきなり顔色を変えた新人くん……どしたん?


「あの……?」


「あ、いや、その……くじ引きで、特別に俺が……この役割を」


「どういうことですか?」


 更に慌てた風な説明を聞くと、このジルに話し掛けるチャンスを伺っていた騎士団は、くじ引きを開催することにしたらしい。当選者である彼は野営の時間を利用して、出来れば夕御飯に誘おうとした訳だ。でも、俺が申し訳なさそうに頭を下げたものだから、誤解を招いて袋叩きに遭う不安が頭をよぎった、と。


「ふふふ、面白い方が多いのですね、蒼流の皆様って」


 ホントに面白いし、超絶美人ジルの笑顔を差し上げよう。上品に手を口に当て、ほんの少しだけ顔を傾けたら完璧だ。案の定新人くんの視線は俺に釘付け。ポカンと気が抜けたような表情のあとアタフタするのを見るの、やっぱり楽しい。


「は、はは、ははは……で、では! 準備が整ったらお呼びしますので!」


 新人くんは何やら力強い握り拳を天に掲げて走り去っていった。そして、遠くで見守っていた騎士団連中が「おー!」と喜んでる。


 あのさ、他国からの賓客を護衛中なんだけど……それでいいのか?








 ◯ ◯ ◯





 ほえー、思った以上に美味しそうなご飯だなぁ。


 騎士団の野営時の夕御飯なんて、かなり簡素なイメージだったけど。


 でっかい串焼きみたいなヤツが焚き火の周りに並び、やっぱりでっかいお鍋が離れた場所でグツグツ鳴っている。何やら魚介系の香りもするし、ブイヤベース的な感じだろうか。さすがにお酒は供されてないけど、汎用魔法で冷やされた清水が配られているみたい。あと、果物の盛り合わせもあるよな?


「……ご、豪華ですね。いつもこんな美味しそうなものを?」


 殆どお誕生日席みたいな場所に座らされて、円を描く様に蒼流の人達が囲んでいる。一人残らず俺に注目してるので、かなり緊張する。


「いやいや、これはバンバルボア帝国の特使であるキルデベルト様からの計らいなのですよ。今朝、急遽でしたがご指示がありましてね。早朝の市場から仕入れた次第です。何とも太っ腹な御方ですよ、キルデベルト様は」


 チラリと離れた場所に座っているキルデを見ると、慌てて視線を逸らしやがった。護衛依頼を請け現れた俺に驚いて、無理矢理用意したな? つまり職権、いや特権濫用したってことだ。いきなりの指示なんて大変だっただろうに、全くもう。


「成る程。あとで()()を言っておきますね」


 うん、必ず。此処はバンバルボアじゃないし、今の俺もジルヴァーナじゃないのだ。気持ちは嬉しいけれど、変な事はしなくていい。あとでしっかりと話をしないとな。もう一度視線を贈ると、キルデも諦めたように溜息を溢した。


「きっとお喜びになるでしょう。さて、皆も待ちきれない様子ですし、始めますか」


「はい」


 何だかホント宴会みたいだけど、参加者は騎士団から約三分の一。当然に護衛がメインだから当たり前だ。もしかして、これもくじ引きだったりするんだろうか。


「わぁ、ホントに美味しそう」


 配られた木製の深皿に、多分トマトメインだろう魚介の煮込みが入ってる。大蒜の匂いも僅かにするし、間違いなくブイヤベースだな。と言うかそのものだよ。王都が海に面してる関係でツェツエは水産物も豊富だし、色々と美味しいモノが沢山あるからね。でも、意外と手間暇かかる料理の筈だけど騎士の連中にそんな手の込んだコト出来るのかな? んー、キルデ達がいる訳だから、料理人とかも同行してるのかもしれない。


 あとは硬めのパン。こっちにはバターが薄ら塗ってあり、ついでに火で炙ってある。それと、別皿には切り分けてくれたお肉。こっちも香草の良い匂いが堪らない。火の通り具合も良さそうだし、料理人の人はきっと凄腕に違いありません、うん。


「ささ、どうぞ」


「はい、頂きますね」


 やっぱりジーッと全員が注目している。俺が食べるまで待つつもりだろうか。仕方ないので上品に、かつ少なめにスープを掬い、音も当然立てずに口内へと運ぶ。フワリと鼻に抜けた匂いも最高。


「ん……」


 思ったより熱いな。でも、しっかりと出汁が出てて滅茶苦茶美味いぞ! やはり元日本人として魚介の旨みには煩いほうだけど、これは文句なしです。それに沢山のお野菜の風味が加わってるのも良い。何の野菜かと探ってみたら、かなり煮込んだんだろう、見る限り形が残ってない。でも興味あるから材料と作り方を教えて貰おうかな。ターニャちゃんが帰って来たら食べさせてあげるのだ。


「とても深い味わいで、魚介の味もしっかりします。凄く美味しい」


 おお……!と皆が喜んだ風で、何だか恥ずかしい。まあそれぞれが食べ始めたし、ようやく落ち着けるな……と思ってたのも束の間。皆からの質問タイムが始まった。


「四年前ですか、コーシクス副長と試合をしたと聞きましたが」


「あ、はい。少しご縁がありまして」


 シクスさん。あの悪戯好きなおじ様は、竜鱗騎士団の副長にしてツェツエ最強と謳われる剣士だ。変態なくせにすっごい強い超級"剣聖"と互角って聞いた事あるけど、その通りだと思う。昔に剣技のアドバイスを貰えたり、なかなか渋くて格好良い人だよね。まあ悪戯好きだけど!


「我等蒼流も竜鱗にある種の憧れはありますが、正に別格です。あの方の剣は正に変幻自在。真似をしようにも参考になりませんから」


「ええ、その通りと思います。おまけに足癖まで悪いので、剣ばかり集中すると大変です。そして氷魔法も」


 あと、俺の魔力弾を剣で弾くんだよな。魔法を使わずだから、一体どうやってるのか分からない。ツェイスに嫁いだら教えるとか言ってたけど……残念ながら無理だなぁ。


「足癖……興味深い。因みに、何処で試合を?」


 うーん、公式な試合とかじゃないし、気になるのかな。まあ実際はそんな大した感じと違う。


「コーシクス様の邸宅ですね。食事に御招待頂いたんです。私と年代の近い娘さん達が居て、冒険者としての話を聞かせて欲しい、と」


「ああなるほど」


 食事前の腹ごなしとか言い出して、木剣を握らせたときは少し吃驚したけどねー。でもツェツエの剣神の実力には興味あったし、凄く楽しかった。魔法抜きの剣技だけだったら絶対に勝てない相手だから。


 あと、試合後に三姉妹がキラキラした目で俺を見て、何だか誇らしかったのも覚えてる。


 この流れだと試合内容とか戦法、魔法に関する質問も出るかも。ふっふっふ、仕方ないなぁ……ご飯もご馳走になってるし、ばっちり答えて上げましょう! 超絶美人にして、魔剣のジルちゃんが!


 そんな風に考えたちょっと前の俺をブン殴りたい。いや、蒼流の連中も!


「どういった男性が好みですか?」

「えーっと……」


「普段、休みの日は何をしてますか?」

「そ、そうですね……」


「デートするならやっぱりアートリス? それともアーレ?」

「特に場所には……」


 うん、魔剣としての経験を聞いてくるヤツが一人もいないし。


 質問は適当に流しつつ、ふとキルデが視界に入った。んー、何やら落ち着かない様子だけど、相変わらずだなぁ。間違いなく男たちに囲まれてる俺が許せないんだろう。アイツから見たら忠誠を誓う皇女で、囲むのは他国の騎士団連中だからね。バンバルボアに居た時も、躾とか煩かったもん。






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