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夜明けのソラの契承者 封印楽園都市  作者: やたか なつき
一章
6/34


 一夜が明けた。

覚めない夢は続いている。

 香音とシリンは、カフェのテラス席に座り、少し遅めの朝食を取っていた。

会話はまだない。

香音は、シリンの様子を窺いながら、考えを整理している。

一方のシリンは、何に気を遣うでもなく、ただ静かに、珈琲を飲んでいる。

 襲撃から逃れた二人は別れ、そこで接点が失われるという運命もあった。

だが、香音はそれを嫌った。

半ば強引に連絡先を交換し、半ば強引に再会を約束させた。

助けてくれたお礼をしたいという気持ちもあった。

だが、それだけではない。

互いを信頼し、尊重し合える親友になれると信じたからだ。

 香音にとって、シリンははじめての存在だった。

香音は、自惚れてはいない。

他にも、力を持つ者は必ず存在すると考えていた。

だが、これまで常人にはない力を持つ者と出会えたことはなかった。

出会っていたのかもしれないが、それに気づくことはできなかった。

それは自然なことである。

 力を持っていれば、隠す。

香音がそうしているように、他の者もそうするだろう。

故に、力を持つ者が出会い、互いの力を認識するという状況が稀であるのは、おかしなことではない。

 生命を脅かされたことは、歓迎すべきことではない。

だが、襲撃がなければ、こうはなっていない。

「よし」

 香音は、言葉でシリンの視線を誘導すると、ポケットから手のひらサイズの箱を取り出してみせた。

「これは?」

「トランプ」

「それは識ってる」

 シリンの呆れるような声に苦笑いしながら、香音は箱の封を切りカードの束を抜き出すと、軽やかにシャッフルした。

慣れた手つきである。

「三枚引いて」

 シリンは、特に異を唱えず、指示に従った。

「ダイヤの三、ハートのクイーン、クローバーの八」

 伏せられていたカードをシリンがめくっていくと、言葉通りのカードが並んでいた。

「なるほど」

 シリンは、選んだカードを手に取り、表と裏を確かめ、そうつぶやいた。

「はいはい、返してくださいね」

 香音は、三枚のカードを束に戻しシャッフルすると、今度は束を両手に分け綺麗に広げた。

「では、もう一度引いてください」

 シリンは、異を唱えず、指示に従う。

「引いたカードに、好きな言葉を書いて」

 香音は、どこからともなくサインペンを取り出し、カードの束と共に、テーブルに置いた。

「書いたら、束の好きな所に差し入れて、はい、ありがとう」

 シリンは、異を唱えず、指示に従う。

「ふむふむー」

 香音は、テーブルの上に置かれたカードの束を凝視しながら、わざとらしく呟く。

「これは言葉というか、円周率ね。意地悪しないで欲しいな」

 香音がサインを読み上げると、シリンの表情が一瞬揺れる。

シリンがサインしたカードは、確かに束の中にあり、目視できない。

 香音は、カードの束を広げるが、そこにはサインのあるカードはない。

「さて、カードはどこに?」

 香音は、懐から一枚の封筒を恭しく取り出す。

中には、当然のように、シリンがサインしたカードが入っていた。

 香音は最後に、束の中から三枚のカードを選び、それらが入れ替わる様を見せた。

ハート、クローバー、スペードの順に置いた筈のカードが、捲ってみるとクローバー、ハート、スペードに。

スペード、クローバー、ハートの順に置いた筈のカードが、捲ってみるとスペード、ハート、クローバーに。

その手捌きと話術は、堂に入ったもので、人を魅了するに足るものであった。

 香音は、トランプを片付けながら、シリンの表情を覗く。

「さて、お客様、お楽しみ頂けたでしょうか?」

 香音の問いかけに、シリンは応えず、静かに珈琲に手を伸ばした。


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