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香音とシリンは、舞うように月の夜を駆けた。
タイル舗装の道に刻まれるのは、二人の足音、そして、不可視の刃。
襲撃者は、二人の背を追い、執拗に刃を放つ。
シリンは、その悉くを、打ち払っていく。
「限界か」
シリンには、まだ余裕があった。
だが、香音がついて来れない。
シリンは察し、歩道の途中にあった、奇妙なモニュメントの影に、香音を導いた。
「しつこいな」
二人は身を隠し、呼吸を整える。
静かだった。
ただ、二人の吐息だけが聞こえている。
「これを」
香音は、シリンに携帯端末の画面を示した。
そこには、周囲の地図情報が表示されており、更に、襲撃者の位置と移動予測、適当な退避ルートが描き込まれていた。
香音は、冷静だった。
まずい状況に遭遇したのは、これがはじめてではない。
何ができるか、そして、何をすべきか。
過去の経験から考える習慣がついている。
「敵の場所がわかるのか」
「ええ、おおよそだけど、視えたから」
「かなり遠いが、確かか?」
香音が描き込んだ、襲撃者の位置を示す赤い点は、防砂林の中にあった。
「ええ、街灯の上から狙っていた。移動していなければ、そこに」
「なら、話は早い」
シリンは、香音が示した方向を凝視し、何かを唱えた。
言葉は呪文のようだった。
そして、間もなく、それは起こった。
爆発ではない。
炎はなかった。
ただ、衝撃だけが奔り、周囲を揺らした。
香音は、何が起きたのかわからない。
ただ、響いた低い音に、破壊という事象が連想した。
「倒せたかどうかはわからない。だが時間は稼げる筈だ」
「えっ、ええ」
呆然としている暇はない。
考えている暇はない。
香音は、振り払い、そして、手を伸ばした。
「そうだね。行こう」
香音は、シリンの手を繋ぎ、頷いた。
シリンは、拒まなかった。
そして、二人は、海沿いの道を、夜に駆けた。




