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誰が? 何故?
香音は、そんな疑問を覚えなかった。
心当たりがないからではない。
心当たりなど、幾らでもあり、特定することなど困難であった。
それ故に、考えても意味がない。
香音は、傾けるべきことを理解している。
それは、この場を如何に、やり過ごすかであった。
香音は、心拍を整え、周囲を窺う。
そこには、静かな夜があった。
攻撃してきた者の姿は見えない。
「まずい、わね」
香音の才能は、戦闘に特化したものではない。
身体能力もたかが知れている。
標的として捕捉された時点で終わる。
それを自覚しているからこそ、香音は細心の注意を払い生きてきた。
諦めればいい。
香音は、そう考えていた。
だが、それは、一人であればの話だ。
今は、一人ではない。
シリンがいる。
何とかして、守らなければならない。
どうにかして、逃さなければならない。
無関係の者を巻き込むことは、香音の正義に反する。
香音は、シリンを一瞥する。
身構える香音の様子に、シリンは不思議そうに首を傾げていた。
「守るから」
香音は、言い聞かせるように言葉にし、攻撃の痕跡を凝視した。
力を顕現し、軌道を辿る。
そして、遂に、敵の姿を捉えた。
だが、そこまでだった。
「あっ」
既に、追撃は放たれていた。
空を裂く音が近づいてくる。
だが、香音に為す術はない。
身体が動かない。
軌道が交錯する。
瞬間、風が吹き、高い音が響いた。
不可視の壁が、強く振るわれた何かが、投擲された刃を打ち払っていた。
香音は、何が起きたのか、理解できなかった。
ただ、そこにある、シリンの姿に、言葉を忘れた。
脚を開き、片手を地面につき、瞳は闇を鋭く射抜いている。
豹の如き、その姿は、美しく、そして、強さを感じさせた。
風が吹く。
刃が踊る。
三度、放たれた攻撃が、二人を襲う。
だが一蹴される。
シリンが腕を振るうと、不可視の壁が動き、凶刃は弾き飛ばされる。
攻撃の余波が、その威力を誇示するように、舗装された道を切り刻んでいく。
「来て」
シリンが手を伸ばし、香音が手を繋ぐ。
シリンに手を引かれ、香音は跳んだ。
刃が追い縋ろうとするが、躱され、払われる。
ただ、透んだ音が、夜に響いていく。




