20
会談の後、予定されていた会食を終えると、ソウマは足早に船を去っていった。
「由々しきことです」
空いた席を一瞥し、クノスはため息をつくように呟いた。
「地球にこのような秘密があったとはな。
思いもよらぬことよ」
アイリスは、口元を歪めながら、言葉を接ぐ。
「それ故に、愉快だ」
「愉快ですか」
「問題があったほうが都合がいいということだ」
クノスには、理解できない。
ただ、アイリスが現状を望ましいと考えていないことは、理解できた。
「風がなければ、空気は淀んでいく」
「風を吹かせるおつもりですか?」
「学園は、想定外のことが起こる坩堝であることが示された。
余が企てるまでもなく、あの者の手を擾わせるような事案が起きるというのだ。
なんと興味深いことか」
アイリスの声は、高揚していると喧伝するかのように躍っていた。
クノスは、その様子に気圧される他ない。
「問題は、どう関わるかだ。
外から眺めているだけでも、面白くはあるだろうが。
物足りなさはある」
「怒られないようにして下さい」
「話せば、余が興味を持つと、あの者も解っておろう。
なればこそ、期待に応えないわけにはいかぬ」
「なるほど」
クノスは、ソウマの意図を察した。
アイリスを退屈の中に放置すれば、予期しないような面倒を起こす不安がある。
であれば、制御し得ない事案に脅かされていることを伝え、対処に協力させる方が得策かもしれない。
「とはいえ、迂闊には動けん。
先日、思い知らされたばかりだからな。
暫くは、様子を窺う他あるまい。
手を考えながらな」
アイリスは思索を巡らせる。
選択肢は多くはない。
だが、ないわけではない。
茫漠としていた回路が、確固として接続されている。
まるで薬物によって励起させられているかのように明瞭な思考。
そんな錯覚が快かった。
アイリスは、皇帝として生を受けた者として、なすべきことをなした。
最良の結果となった。
だが、それは完全ではない。
アイリスの理想は現状の先にあり、そこに馳せる思いは変わってはいない。
帝国の情勢は安定していた。
人々は新たな環境を受け入れることに、否定的ではなかった。
それ故に、アイリスは、現状を認めざるを得なかった。
状況は動かし難く、できることも、すべきこともない。
平地に乱を望むべきではない。
それが結論であった。
アイリスは、平穏を受け入れ、このまま、朽ちていくこと選んだ。
だが、天啓は得られた。
蒼い惑星。
そこには新たな世界があることを宣告された。
アイリスは、生きる悦びを実感していた。
まだ、世界は自身を必要としている。
それが独りよがりな妄想であったとしても、それでよかった。
「彼女たちのことは、どうされますか?」
「何もせずともよい」
「しかし、それでは」
「不服か?」
クノスの言葉を遮るように、アイリスが質す。
有無を言わさぬと告げていた。
「いえ、御心のままに」
クノスは、一抹の不安を覚えながらも、静かに応じた。




