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夜明けのソラの契承者 封印楽園都市  作者: やたか なつき
二章
34/34

20

 会談の後、予定されていた会食を終えると、ソウマは足早に船を去っていった。

「由々しきことです」

 空いた席を一瞥し、クノスはため息をつくように呟いた。

「地球にこのような秘密があったとはな。

思いもよらぬことよ」

 アイリスは、口元を歪めながら、言葉を接ぐ。

「それ故に、愉快だ」

「愉快ですか」

「問題があったほうが都合がいいということだ」

 クノスには、理解できない。

ただ、アイリスが現状を望ましいと考えていないことは、理解できた。

「風がなければ、空気は淀んでいく」

「風を吹かせるおつもりですか?」

「学園は、想定外のことが起こる坩堝であることが示された。

余が企てるまでもなく、あの者の手を擾わせるような事案が起きるというのだ。

なんと興味深いことか」

 アイリスの声は、高揚していると喧伝するかのように躍っていた。

クノスは、その様子に気圧される他ない。

「問題は、どう関わるかだ。

外から眺めているだけでも、面白くはあるだろうが。

物足りなさはある」

「怒られないようにして下さい」

「話せば、余が興味を持つと、あの者も解っておろう。

なればこそ、期待に応えないわけにはいかぬ」

「なるほど」

 クノスは、ソウマの意図を察した。

アイリスを退屈の中に放置すれば、予期しないような面倒を起こす不安がある。

であれば、制御し得ない事案に脅かされていることを伝え、対処に協力させる方が得策かもしれない。

「とはいえ、迂闊には動けん。

先日、思い知らされたばかりだからな。

暫くは、様子を窺う他あるまい。

手を考えながらな」

 アイリスは思索を巡らせる。

選択肢は多くはない。

だが、ないわけではない。

茫漠としていた回路が、確固として接続されている。

まるで薬物によって励起させられているかのように明瞭な思考。

そんな錯覚が快かった。

 アイリスは、皇帝として生を受けた者として、なすべきことをなした。

最良の結果となった。

だが、それは完全ではない。

アイリスの理想は現状の先にあり、そこに馳せる思いは変わってはいない。

 帝国の情勢は安定していた。

人々は新たな環境を受け入れることに、否定的ではなかった。

それ故に、アイリスは、現状を認めざるを得なかった。

状況は動かし難く、できることも、すべきこともない。

平地に乱を望むべきではない。

それが結論であった。

 アイリスは、平穏を受け入れ、このまま、朽ちていくこと選んだ。

だが、天啓は得られた。

蒼い惑星。

そこには新たな世界があることを宣告された。

 アイリスは、生きる悦びを実感していた。

まだ、世界は自身を必要としている。

それが独りよがりな妄想であったとしても、それでよかった。

「彼女たちのことは、どうされますか?」

「何もせずともよい」

「しかし、それでは」

「不服か?」

 クノスの言葉を遮るように、アイリスが質す。

有無を言わさぬと告げていた。

「いえ、御心のままに」

 クノスは、一抹の不安を覚えながらも、静かに応じた。

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