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「学園に属する人間は全て異能者。というわけではないのですよね?」
「異能が故に招かれた者は少数です。秀でた学才で自ら門戸を開いた者の方が多い」
「つまり、学園では新旧の地球人類が共生しているということか」
「新旧という類別が適切であるかはさて置き、その認識で問題ありません。
学園の中核機能を担う大鳥島は、異能者の人口密度が突出しています。
加えて、学園へと招かれた異能者は、必然的に他の異能者の存在を認識すると共に、異能者同士の様々な繋がりを獲得します。
一般的な地球人類社会で生きる異能者が、他の異能者と出会うことは稀です。
そのため、異能者同士が繋がる環境というのは、極めて特殊であると言っていいでしょう」
「興味深い話だ。
異能者の存在と脅威。そして、学園という環境については、概ね理解したということにしておこう」
「追って資料をお送りしますので、詳細はそちらでご確認ください。
我々も全てを知り得ているわけではありませんが、参考にはなるでしょう」
「精読しよう。
資料があれば、こちらも話がしやすい。
また厄介な仕事を増やしてくれて、嬉しいぞ」
帝国は、専制君主制であり、皇帝が絶対の権力を握っている。
それ故に、このような外交の場では、全ての決定権を持つ皇帝が一人在ればいい。
だが、司法、行政、立法に代表される国家運営の全てを皇帝が行っているわけではない。
皇帝の下には、議会があり、議会の下には、官僚がいる。
地球上の国家と組織構造が大きく違うわけではない。
帝国の皇帝は、一人で決めることはできる。
が、一人で決めたことをできるかは、別の問題である。
大きな事を成すには、臣下に説明し、理解される必要がある。
「ここだけの話にしておいても、良いのではないでしょうか?
元より地球への接触は禁じられているわけですから、影響はない筈です」
「話を広めるつもりはないし、必要もない。
が、いざという時のための根回しは必要ということだ」
「帝国の内政は、既に安定を取り戻しているという話ですね」
「そもそも不安定にさえなっていない。
帝国は盤石だ。
呆れるほどにな」
ソウマとアイリスの関係は良好であり、それぞれが擁する文明国家の関係も、それに準していた。
帝国は、果てのない宇宙を彷徨い続ける漂流国家であったが、ソウマとの邂逅と衝突を経て、その期限を定めずに太陽系に留まることを決めた。
「それは望ましいことですが、反対の声はなかったのですか?」
「ないわけではなかったが、大きな声を挙げるものは、既におらんからな」
帝国の原理主義勢力は、既に権力の中枢から一掃されている。
彼らの暴走が帝国の人々に冷静な判断を促す結果となったのは、皮肉である。
「とはいえ、話す相手は選ばねばならん。
ここに誰も喚ばなかったのは、周知すべき話か、隠匿すべき話か、予測できなかったからだ」
それだけではないし、元より誰も喚ぶつもりなどなかったが、言葉にはしない。
「こちらとしても、気心が知れた者だけだったので話がしやすかったです」
やれやれと話すアイリスをねぎらうように、ソウマは感謝を言葉にする。
アイリスの表情は変わらない。
だが、ささやかな言葉で、内心は揺れていた。
「結論を聞こう。卿は帝国に何を求める?」
「今は、まだ、特には、ありません」
「今は、まだか」
「はい、いつかは解りません。
手を貸して頂かなければならない日が、やがて。
そう考えています」
「気の長い話だ」
「そうであれば、望ましいですね」
「わかった。約束しよう」
「陛下」
アイリスの応えに、クノスが反応する。
帝国皇帝の言葉は軽くない。
約束と告げたのであれば、それは条約と同義である。
少なくとも、帝国の人間は、そう解釈する。
「不服か?」
「いえ、そのようなことは、ですが」
「卿とて、この者と帝国が友好的従属関係にあることを理解しているだろうに。
勿体つけたところで、何が変わるわけではない」
アイリスは、ため息を付くように言い、そして、わざとらしく微笑むと言葉を接ぐ。
「それに対価を求めないとも言っていない」
「お手柔らかにお願いします」
「どうかな、卿が助けを求めるなど、余程のことであろう?
高くつくことを心しておくと良い」
ソウマは、苦く笑いながらも、やれやれと頷いた。
ここに約束は交わされた。




