表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜明けのソラの契承者 封印楽園都市  作者: やたか なつき
一章
3/34

 微かな潮騒を耳にしながら、香音は街灯を辿るように、タイル舗装をいく。

夜霧に煙る道の幻想は時間を忘れさせる。

香音は、足音を刻むように歩き、やがて、海を望む高台へと辿り着いた。

月に照らされた海と浜があり、遠くには港の灯りが湾の輪郭を描き出している。

そして、そこには、一人の少女がいた。

 香音は、その横顔に、一瞬、はっとし、躊躇い、そして、歩みを進めた。

「こんばんは」

 香音は、生来社交的ではない。

見知らぬ者に積極的に声をかけるような性格ではない。

夜の高揚のせいもある。

だが、それだけではない。

そこにいる少女の美しさがそうさせた。

近寄りがたく、それ故に、触れ合いたい。

そんな魅力が少女にはあった。

 少女は、何も応えず、振り返る。

美しい黒髪は、月灯りに舞い、肩を撫ぜる。

象られたかのように理想的な均整の四肢。

神秘を感じさせるきめ細やかな褐色の肌。

眼鏡の奥に隠された感情のない瞳。

その在り方に、香音は、瞳を、心を、時を奪われた。

 少女は、香音を一瞥すると、首を傾げるようにし、それから、考えるように視線を逸らした。

香音は、それを拒絶ではなく、戸惑いと捉え、一歩踏み込んだ。

「私は、織矢香音です。貴方も学園の生徒ですよね?」

 知らぬ者に、名前を告げることはリスクである。

だが、それ故に、信頼を示す、有効な手段でもある。

それに少女は制服を着ていた。

制服は学園に属することを示す確かな身元証明である。

ならば、問題はないと香音は判断した。

そも、声をかけてしまった時点で、どうでもよくなっていた。

「いい夜ですね。月も綺麗」

 香音は、考えて話してはいない。

ただ、思いついた言葉を口にしている。

こんな風に人と話すのは、いつ以来だろうか?

そんなことを思いながら、言葉を紡ぐ。

「ええ、そうですね。この世界は美しい」

 澄んだ声が夜に凛と響いた。

通じ合えた。

そんな感覚に、香音は胸を鳴らす。

「ここには、よく来るのですか?」

 何故かは、聞かなかった。

聞いてはならない気がした。

それに香音も答えられない。

「いえ、はじめてです」

「そう、私もです。気が向いて、足が向いた。

だから、出会えた。

運命かも?」

 恥ずかしい台詞である。

常ならば、絶対に口にではできない。

「よければ、名前を――」

 ふと、口にしていた。

香音は、そっと少女の表情を覗き、その視線に気圧される。

なんとなく、怒っているようだった。

「うっ、えっと、いやなら」

「シリン」

 あわてて撤回しようとする香音に、少女は名を告げた。

「シリン、素敵な響きですね」

「カノン、貴方の名前も」

 それから、二人は取り留めのない会話に興じた。

香音が話しかけ、シリンが一言二言、言葉を返す。

シリンの内心はうかがい知れないが、香音は楽しかった。

 一夜の夢。

それでよかった。

天から降りてきた少女との邂逅。

ただ今は、そんな出会いに、心を踊らせていたかった。

だが、そんな儚い願いさえも叶わない。

「えっ?」

 鈍く高い音が響いていた。

香音は足元を覗く。

タイルが砕けていた。

 何かが、投擲された痕跡に、香音の背が凍る。

それは、悪意であり、敵意であり、害意。

間違いなく、攻撃であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ